131 / 149
最終章
幻滅
しおりを挟む
同時刻、三者三様の立場からアイの行方に多くの人間が頭を悩ます中、当の本人は魔石を落としたことによる責任から、路頭に迷ったかのような徒然とした足取りで街中を闊歩していた。吹き付ける夜風に身を凍らせて、これから先に待ち受ける万難をひたすら憂い、暗中模索に相応しい暗い空を幾度となく仰いだ。そんな折、色鮮やかな閃光が空を駆け巡る。轟音と呼んで差し支えない空気の振動が、鼓膜に到達する前に全身を襲い、粟立つ肌により、どのような感情を抱いているかを言語野を通さぬ前に発露した。それから間を置かずして、眼前に広がる魔術の由来に対する疑問と、「もしかすれば」という都合の良い解釈から導かれる、自分を迎えに来たレラジェを空目する。
「来てくれた……!」
自分の犯した失態から目を逸らす現実逃避の構えに違いなかったが、葉脈のように空を走る魔術の枝葉を鑑みるに、アイの夢想もあながち荒唐無稽な思考ではなかった。その根っことなる場所の特定に余念がないアイは、深く身体を沈み込ませると、目線を高く保ったまま、力を溜めた。たった一度の膝の曲げ伸ばしで跳び上がる勢いは、月に触れて帰ってきても不思議ではない。
少しの凸凹も認めない厳格な審美眼によって建築物の背丈は均等に整えられており、殊更に高い場所を探して着地するような工夫はいらなかった。アイは無作為に、暗闇ということも手伝って、文目も知れない建物の屋根の上に着地する。まるで山の頂上で息を吸い直すかのように、胸を大きく膨張させて、えも言えぬ期待感に染まった。そぞろに口角は持ち上がり、先刻に見た光景を指針に、前進するだけの動機を見つける。
寄る辺がなかったアイの薄弱さは今はもうない。冷たい夜風に吹かれるよりも、掻き分けるようにして、屋根から屋根へ精力的に飛び移った。まるで、宝物を見つけた子どものように瞳を輝かせる姿は、「レラジェ」が来ているという謂わば、思い込みに近い発想を出自にしており、よもやそれが裏切られるとは微塵も思っていない。だからこそ、奇異な三角関係を目の前にした時、幻滅よりも「どうして?」「何故?」といった、疑問がこんこんと湧いて止まらなかった。
「力を合わせてそんなもんかぁ?!」
「焦るなよ、まだ始まったばかりだろう」
カムラにビーマン、スミスがきわめて挑発的な言葉を互いに投げかけながら、殺傷のみを目的とした魔術の攻防を繰り広げていた。それは周囲の環境を度外視した暴れっぷりであり、三人を中心に多くの瓦礫が縦横無尽に魔術の余波を受けて飛び散った。アイはなるべく距離を取りつつ、バエルに見初められた一人であるカムラの姿を目にしたのも相まって、酷く肩を落とした。期待したのはひとえに、「レラジェ」からの寵愛であったアイからすると、肩透かしも甚だしく、ベレトやウァサゴに勘付かれることを全く考慮していないカムラの立ち回りに反吐が出た。
「来てくれた……!」
自分の犯した失態から目を逸らす現実逃避の構えに違いなかったが、葉脈のように空を走る魔術の枝葉を鑑みるに、アイの夢想もあながち荒唐無稽な思考ではなかった。その根っことなる場所の特定に余念がないアイは、深く身体を沈み込ませると、目線を高く保ったまま、力を溜めた。たった一度の膝の曲げ伸ばしで跳び上がる勢いは、月に触れて帰ってきても不思議ではない。
少しの凸凹も認めない厳格な審美眼によって建築物の背丈は均等に整えられており、殊更に高い場所を探して着地するような工夫はいらなかった。アイは無作為に、暗闇ということも手伝って、文目も知れない建物の屋根の上に着地する。まるで山の頂上で息を吸い直すかのように、胸を大きく膨張させて、えも言えぬ期待感に染まった。そぞろに口角は持ち上がり、先刻に見た光景を指針に、前進するだけの動機を見つける。
寄る辺がなかったアイの薄弱さは今はもうない。冷たい夜風に吹かれるよりも、掻き分けるようにして、屋根から屋根へ精力的に飛び移った。まるで、宝物を見つけた子どものように瞳を輝かせる姿は、「レラジェ」が来ているという謂わば、思い込みに近い発想を出自にしており、よもやそれが裏切られるとは微塵も思っていない。だからこそ、奇異な三角関係を目の前にした時、幻滅よりも「どうして?」「何故?」といった、疑問がこんこんと湧いて止まらなかった。
「力を合わせてそんなもんかぁ?!」
「焦るなよ、まだ始まったばかりだろう」
カムラにビーマン、スミスがきわめて挑発的な言葉を互いに投げかけながら、殺傷のみを目的とした魔術の攻防を繰り広げていた。それは周囲の環境を度外視した暴れっぷりであり、三人を中心に多くの瓦礫が縦横無尽に魔術の余波を受けて飛び散った。アイはなるべく距離を取りつつ、バエルに見初められた一人であるカムラの姿を目にしたのも相まって、酷く肩を落とした。期待したのはひとえに、「レラジェ」からの寵愛であったアイからすると、肩透かしも甚だしく、ベレトやウァサゴに勘付かれることを全く考慮していないカムラの立ち回りに反吐が出た。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる