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第六部

一喜一憂

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 反撃の意思を口元へ湛えながら、一気呵成に身体を翻す。

「?!」

 ビーマンが驚くのも当然だろう。今の今まで逃げの一手に終始していたスミスが、立ち塞がるようにして態度を一変させる。これは極めて不可解な一挙手一投足であり、石の落下に合わせて広がる澱のような不安がビーマンの胸を支配して、ほんの一瞬だけ躊躇った。だが、足踏みを繰り返せば、背後から迫ってくる炎によって忽ち、丸焦げにされてしまう。そんな末路を想像した瞬間、スミスがわざわざ立ち止まり、仁王立つ意味をビーマンは理解した。丸くした目は直ちに鋭さを取り戻し、一振りで手足の切断および断頭を睨んだ炯々たる意気込みを拵え、ここが雌雄を決する場になると踏んだ。辺り構わず火の粉を飛ばす血気盛んな炎の壁は、切迫した状況の選択と決心の後押しとなり、一寸先にある結果を求めるスミスとビーマンの顔は、目の前の敵を打ち倒すことにかけて、疑問を持たない強い意思が介在し、全くもって省みる様子はない。致命的な一撃を繰り出そうとする形相は、斯くも恐ろしく、衝突は免れられない。

 束の間、スミスは微睡むような弛緩した表情を見せる。まるで、事の成り行きが全て自分の思い通りに進んで、勝利を確信した者の余裕だ。殊更に語るまでもないスミスの寓意を含んだ顔付きを、ビーマンは目の当たりにしながらも、止まることは決して許されない。背後の炎がそれを許さない。

 しかし、このまま懐に飛び込もうものなら、見え透いた毒牙にかかり、むざむざと命を落とすかもしれない。だが、逡巡にかまけて不首尾に終わるぐらいなら、恥を忍んで行動に移すべきだろう。ビーマンは、風によって得る推進力を打ち止め、の移動に手を借りていた風の向きを変える。今度は噴き上げるような強い風によって身体を垂直に立て直し、広大な空間、つまり夜空に活路を見出した。ほんの一瞬である。すれ違うようにしてスミスと目が合い、ビーマンは身体を硬直させた。命の奪い合う過程で、幾度にも渡って変化する優位性は表情に直結し、言葉を介さずとも明朗に語る。

 打ち上げ花火さながらに、上空へ舞い上がるビーマンの尻を追いかける炎は、運河のように滑らかで留まることを知らない。

「……何度も、何度も!」

 スミスの首元に噛み付こうとするたび、暗礁に乗り上げて有耶無耶になる展開を何度も味わい、心はすっかり摩耗した。ビーマンは苦虫を噛み潰しながら、執拗な炎の塊を恨めしそうに睨む。思い描く青写真は尽く、スミスが作り出した炎によって阻止されており、これをどうにかしないかぎり、延々と追いかけっこを続けるハメになる。そんな機運がビーマンの闘争心に火を付けた。
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