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第三部
悪い予感
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「どう思う?」
焼却室にて、四人の魔術師が雁首並べて悶えるように声を漏らし、未だ見ぬ犯人の肖像の擦り合わせに苦心した。
「ただのイザコザだとして片付けるには無理があるな」
「とはいえ、街の片隅に死体をわざわざ運んでくるような奴だ。時間の問題だろう」
「……」
刹那的な感情に手引きされた犯行はとかく、息を潜めて熱りが覚めるのを待つ傾向があるものの、今回のような立て続けに事を起こす扇動性に満ちた犯行は、魔術師と相対して構わないといった腹積りがある。腕組みで迎え撃つつもりでも、決して巡視は怠らず、再び死体が現れるようなら、魔術師としての体裁を守る為に素早く対処する。
時計台で街の様子を見下ろす徒然なるイシュの瞳にも、付かず離れずの距離を確保して猜疑心を露わにする人々のささくれ立つ様は映り込み、理由を開示されずとも容易く看取できた。その上、再び姿を現さないハーキッシュの動向と合わせてそれは確実なものとして咀嚼された。
「またあったらしいぜ」
口にするのも憚られる秘密事を共有するような語気で立ち話に興じる二人の声がそぞろに耳へ届き、イシュは街を歩く中で不穏な雰囲気の根本となる問題に対してより具体的に理解を深める。
「おっかないねぇ。ほいほいと女の尻を追って、ここを切り取られないように気を付けないとな」
「ここ」と形容される曖昧模糊な会話に唆されて、イシュはそばだてた耳を翻し一瞥した。するとそこには、二人の男が軒下でコソコソと身を寄せ合いながら、男臭い井戸端会議に勤しみ、股間の辺りを手で覆う下品なやりとりが目に飛び込む。
「……」
切り取られるという物々しさを知らぬ存ぜぬで貫き通せるほど、イシュは鈍感ではなかった。生来に備わった身体の一部と袂を分かつケッタイな光景に身をつまされながらも、語らいにあたる人物との交流に疎いことを鑑みれば、殊更に恐怖心を煽られて自衛を試みるのは勘違いも甚だしい。話半分に聞くのが上等だろう。イシュは独り、そう考えていた。だが——
「またかよ……」
「見てみろ。あそこ」
呆れたような調子で厄介事に溜息を落とす、鬱積とした衆目がイシュの斜め前方にて形成されている。いつもならば、我関せずに通り過ぎるところを、妙に後ろ髪を引かれ、そぞろに立ち止まってしまった。イシュは、先刻の話と脈略なく繋げて考えしまい、手前勝手に胸騒ぎを覚えていた。
「それも魔術師様が、ねぇ……」
人垣を掻き分けていく間にも、状況は随意に更新されていき、先頭に立って表情を曇らせる木偶の坊の脇から首を伸ばして視線を操れば、悪い予感はみごとに的中する。
焼却室にて、四人の魔術師が雁首並べて悶えるように声を漏らし、未だ見ぬ犯人の肖像の擦り合わせに苦心した。
「ただのイザコザだとして片付けるには無理があるな」
「とはいえ、街の片隅に死体をわざわざ運んでくるような奴だ。時間の問題だろう」
「……」
刹那的な感情に手引きされた犯行はとかく、息を潜めて熱りが覚めるのを待つ傾向があるものの、今回のような立て続けに事を起こす扇動性に満ちた犯行は、魔術師と相対して構わないといった腹積りがある。腕組みで迎え撃つつもりでも、決して巡視は怠らず、再び死体が現れるようなら、魔術師としての体裁を守る為に素早く対処する。
時計台で街の様子を見下ろす徒然なるイシュの瞳にも、付かず離れずの距離を確保して猜疑心を露わにする人々のささくれ立つ様は映り込み、理由を開示されずとも容易く看取できた。その上、再び姿を現さないハーキッシュの動向と合わせてそれは確実なものとして咀嚼された。
「またあったらしいぜ」
口にするのも憚られる秘密事を共有するような語気で立ち話に興じる二人の声がそぞろに耳へ届き、イシュは街を歩く中で不穏な雰囲気の根本となる問題に対してより具体的に理解を深める。
「おっかないねぇ。ほいほいと女の尻を追って、ここを切り取られないように気を付けないとな」
「ここ」と形容される曖昧模糊な会話に唆されて、イシュはそばだてた耳を翻し一瞥した。するとそこには、二人の男が軒下でコソコソと身を寄せ合いながら、男臭い井戸端会議に勤しみ、股間の辺りを手で覆う下品なやりとりが目に飛び込む。
「……」
切り取られるという物々しさを知らぬ存ぜぬで貫き通せるほど、イシュは鈍感ではなかった。生来に備わった身体の一部と袂を分かつケッタイな光景に身をつまされながらも、語らいにあたる人物との交流に疎いことを鑑みれば、殊更に恐怖心を煽られて自衛を試みるのは勘違いも甚だしい。話半分に聞くのが上等だろう。イシュは独り、そう考えていた。だが——
「またかよ……」
「見てみろ。あそこ」
呆れたような調子で厄介事に溜息を落とす、鬱積とした衆目がイシュの斜め前方にて形成されている。いつもならば、我関せずに通り過ぎるところを、妙に後ろ髪を引かれ、そぞろに立ち止まってしまった。イシュは、先刻の話と脈略なく繋げて考えしまい、手前勝手に胸騒ぎを覚えていた。
「それも魔術師様が、ねぇ……」
人垣を掻き分けていく間にも、状況は随意に更新されていき、先頭に立って表情を曇らせる木偶の坊の脇から首を伸ばして視線を操れば、悪い予感はみごとに的中する。
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