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第二部

魔石

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「それを話す前に、君に教えておきたいことがある」

 バエルはローブの懐に手を突っ込み、探るようにもぞもぞと弄った。そして、五本の指でしっかりと握り込む、怪光する謎の石が目の前に出される。ベレトの城で目にした発光する柱を直ぐに想起し、俺は関心を寄せた。

「これは魔石と言って、魔術師が寄る辺とする建物に配置されている。全てを合わせると四十八箇所にね。謂わば電話線さ。そのバラバラな線をまとめ、情報の発信源となるのが四つの大都市だ」

「ここは……?」

「ご覧の通り、都市を繋ぐ要衝ではあるが、情報の受け皿に過ぎないよ」

 悪魔の召喚を試みたのが都市に住む魔術師ではなく、忸怩たる思いで突破口を見出そうとした土着的な魔術師の嘆願であり、ヒロイックなバエルの思想に感謝すべきだろう。

「魔術師は国にとっての安全保障だ。平和的生存権を保つ為にも、国王は魔術師を特別な立ち位置に置き、それぞれの町が時々に抱える問題の対処を一任し、長年安寧を維持してきた」

 大言壮語な役割を担う魔術師が切羽詰まって、悪魔の力を借りざるを得ないと判断した状況は、ベレトの鬱然とした気風と合致している。

「アレについては、都市の魔術師が結界を張ってどうにか侵攻を妨げているが、いつ崩壊するか分からない」

 命運を握っていると過言ではない期待の大きさが俺達の肩にかかっている。雲隠れなどすれば、塗炭の悲しみに暮れて、皆一様に終末の景色を夢想するだろう。

「こんな最中にも、町は問題を抱えていて、魔庫から常に来るんだよ。面倒ごとが」

 俺は頭を掻いた。

「ただ、君にとっていい経験になるとも思った」

 不良債権を背負わされたような損な役回りだと言下に感じたが、自身の身体をどう動くかの確認にあてれば、無駄骨にはならないはずだ。

「其方の城より東にある村で、次々と人が姿を消す奇妙なことが起きている。現場に急行し、解決にあたるべし」

 バエルが苦笑混じりに言って、俺はこのお使いを真っ当する為の意気込みを腹に溜めた。

「アイと一緒に、事にあたって欲しい」

 時に協力、衝突し合いながら、一悶着あったお目付役と問題の解決を目指す。一見すると、気持ちの良い結末を迎える為の凸凹な道程に思えるが、足を挫いて長引くような後味の悪さも考慮して、前進する覚悟を持つべきだろう。

「了解しました」

 踵を返し、部屋を出ようとした既の所で思い出す。

「バエルさん、帰ってきたら悪魔について書かれた遺物を見せてくださいよ」

「帰りを待ってるよ」

 まるで今生の別れのような会話だ。しかし、俺は全くもって死ぬ気はなく、消息不明となる原因を突き止めて町に安堵をもたらすつもりである。部屋の外で待ち構えていたアイの姿に肝を潰し、悲鳴を帯びた声色が口から飛び出た。驚かせるつもりはなかったと、類型的な謝罪を象って、「すみません。すみません」しつこいまでの詫びの言葉と態度に煩わしさを覚える。

「わかったわかった」

 興奮気味の犬畜生を落ち着けるようにアイを窘めて、バエルと意思の疎通が図れているかを確かめる。
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