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第二部

呼びつけ

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 映像技術の発展に支えられる興業映画の一場面を想起させる、羽も持たずに直立不動で空へ浮かび上がる様は、原始的な風景との兼ね合いから酷く不自然に思えたが、「魔術」という都合の良い後ろ楯によって、当然のこととして支えられた。俺は青天井から伸びる細い糸を頭に思い描き、吊り上げられる身体の軽さを再現する。徐に地面が遠のいていき、町を一望できる高さまで宙に浮けば、バエルが人々の矛と盾となり異世界に安寧をもたらそうとするのは、大それたことだとは思えない。ベレトだって、心の底から逃げたいと思っているならば、知らぬ存ぜぬを貫徹し、高跳びすればいい。だが、ここに留まって機をうかがっている。それが答えだろう。

「英雄……か」

 中村春人という人間の殻を飛び出して、レラジェの名を授けられた者の特権が、「英雄」を語る権利ならば、それを体現するのも吝かではない。

「レラジェ!」

 下方から俺の名を呼ぶ声がし、速やかに降りていく。

「バエル様がお呼びだ」

 ベレトは直接、俺に語りかけて幾度となく指図を行い、人々を犬のように扱ってきた。バエルもその点で言えば同類だが、「号令」といった無線じみた方法を取らずに人を介して伝聞を運ばせている。もしかしたら、ソロモン王が封印したとされる悪魔について記載された書物の中には、名前だけには留まらずそれぞれの特徴が詳細に書かれ、その中には固有の力に関するものもあるのかもしれない。

「はいはい」

 ならば、魔術の扱いより先に知るべきは、「レラジェ」という悪魔の素性についてではないか。バエルに遣わされた男の背中でこんこんと思案していると、背丈を遥かに超えた両開きの扉の前に立たされる。そして、男は仕事を終えたように立ち去って行った。

「はぁ」

 わざわざ俺を呼びつけようと考えるバエルの思惑に溜め息をつかされる。この両扉を開けばそれは始まって、身動きがろくにとれないまま、事態が転がっていく不安があった。しかし、足踏みを繰り返していても何も始まらない。判断のしようがないのだ。俺はやおら、扉を押し開いていく。

 王室に重宝される家具の一つに数えても無理がない、動物の皮を張った立派なソファーに座るバエルがいた。足元は、繊細な模様を施した赤い絨毯が敷かれており、そこを歩く者の気品を試す。

「やあ」

 部屋の奥には炉があり、ボウボウと火が焚かれていて、隅に配された蝋燭灯の光源は、自身を飾り付ける金色の装飾をひけらかす為だけに鈍く灯っていた。

「ご用件は?」
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