上 下
24 / 149
第二部

異世界の実情

しおりを挟む
 俺が直裁に尋ねると、横にいるベレトが盛大な舌打ちをし、いつ癇癪を起こしてもおかしくない苛立ちを募らせる。

「もしかして、何も聞いてないのかい? この世界の状況を」

 奥歯を噛み締めるベレトは、バエルから送られてくる視線に沈する。

「俺は貴方から話を聞きたい」

 知らぬ間にバエルへの言葉遣いが変化していた。バエルを敵方にし、圧倒的な存在に対するストレスから、軽口を叩いて自己を保とうとする身の振り方を脱したのだ。

「そうか。なら」

 バエルは人差し指と中指を二回、折り曲げるのを繰り返し、一歩前へ出ることを命じてくる。柱に於ける序列は絶対的なものに違いない。何故なら、まるで施しを受けるかのように上記の指図に従う俺がいたからだ。

「これを見ればきっと、僕らが力を合わせる理由を理解できるはずだ」

 人智を超えた力の所在を疑っていた訳ではないが、投射機を用いずに頭の中へ直接、映像を映し出すやり方と光景に唖然とした。

 海と見紛う広さの水源が目の前に忽然と現れ、高層ビル群を想起するいくつもの巨大な影が大波を立たせている。近付くのが憚られるその存在感は、世界を脅かすのに相応しい。つぶさに説明を受けずとも、異世界が迎えている終末の気配を肌で感じた。

「これは、一人の魔術師が起こした厄災であり、僕らが呼び出された理由でもある」

 敵対すべき相手を明確にすることで、俺達が置かれている状況を包括的に語り、どのように立ち回るかの説得力を持たせた。

「滔々と私達が貴方にへりくだる理屈を並べてくれたが、結局のところ配下に置いて都合良く利用したい一心なんだろう? わざわざ懐柔を試みるのは何故だ?」

 口を閉ざして久かったベレトが、鬱憤を吐き出すようにバエルの方針へ抱いた疑義をあけすけにした。

「力で従わせるより、言葉で理解し身持ちを決める方がお互いに身軽だ」

 これほど懐を広くできるのは、ひとえに「序列」という前提があるからで、裏切りを見越して傀儡にするより、話し合いができる状態を維持し、力を最大限に発揮する自我への期待を寄せているようであった。

「…….」

 ベレトは憮然と顔を曇らせたまま仁王立ち、溜飲を下げるのに至らなかったことを露見させた。

「大丈夫さ、心配はいらない。三人もいればどんなことだって対処できる」

 太平楽な調子を崩さないバエルの自信は、「力」に対する絶対的な信頼から来ているのだろう。俺は未だに自身の力を咀嚼しきれておらず、ましてや、あのような巨大な影を見てしまったことを回顧すると、不安は一切晴れない。

「レラジェはまだこっちへ来てから間もない。力を完全に制御下に置くまで動く訳にはいかないぞ」

 ベレトは俺の心情を慮って、バエルへ進言した。これは正しい。仲間を買い被り、過大な目論みを立てられると、俺を起点にした瓦解がめくるめく起き、目も当てられない事態を招くかもしれない。

「そうか。なら、先ずは部屋に通すのが先かな。家具一式は揃っているけど、足りないものがあるなら言ってくれ。水浴びをするなら、階段を最後まで下って、地下に行くといい。湧き水で身体を浴むことができる」

 バエルが八重歯を見せて、柏手を打つかのように手のひらを整然と重ね合わせて音を鳴らす。もはや驚きもしない。まるで壁紙を貼り替えるように、空間を瞬間的に移動し、未知の部屋に案内される理不尽なる所業を俺は受け入れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...