Blood Of Universe

さがみ十夜

文字の大きさ
上 下
16 / 18
[SIDE:G]static

Fomers

しおりを挟む
  Chapter.7:
                 Fomers





赤茶けた地表。
いくつもの深淵を覗かせるクレーター群。

他星系からの宙間艇受け入れ、及びアティウスへ向けての定期連絡便発着を一手に引き受けるターミナル。

ターミナル周辺だけは開発が進み、活気溢れる市場、不夜の大都市が形成されつつある、アティウスの第二衛星。

そこで動くのは大量の物資、高額な資本、そして…

街中のそこかしこから聴こえてくる笛の音。
肉の焼ける匂いと、上空にはためく色とりどりの連続旗。
ごったがえすような人々に、天幕の下威勢良く声をかける行商人達。

フォメロスは既にお祭りムード一色だった。

ショッピングモールは透明なフィルムに守られ、投影された空の映像で常に晴天状態。
軽く高めの温度に設定されたモール内では、飲料や食べ物がよく売れる。

ウィスタリアの気候に合わせた服装できた観光客たちは、まずここで涼しげな服を求めることになる。
分子レベルにした衣服を、改めて初夏使用に再構築…好きなデザインにしても良し、サンプルにあるような既存デザインを模倣しても良し。
いざアティウスに向かう段になれば、再度元の服に戻すために来店してくれるというのだから服屋は大繁盛だ。
無論、後に残らない為、従来の衣服よりは安く提供されている。
だが、観光中あまり無駄な荷物は増やしたくないのが人間の性だろう。
利用者が多いことで、十分すぎる利益を得ることができる商売だったりする。

「ドゥーテはこれにしなよ!ね、決まり!絶対可愛いもんっ」

そんな、人の絶えない服屋の一角で。
ルィラは楽しそうに店内を眺めていた。

「あ、でも見て!この赤いワンピースも可愛いよねぇ…どうしようかなぁ」
「る、ルィラ…?私はいつもどおりの服で構わないぞ、充分涼しいし…」
「ダメだよ!せっかく遊びに来たんだから、もっと休日ー!!!って感じのかっこしようよ!」
「……まるで女のようだぞルィラ…」
「ドゥーテは正真正銘女の子なんだから、もっと興味持ちなよね。えぇっとぉ、やっぱり最初のやつ!一番似合うと思う!」

背後で爆笑しているディッセに一蹴り入れてから、ドゥーテは渋々試着室へと向かう。
後に残らない服ではつまらない、どうせなら今後も可愛いかっこうをするべきだ、とのルィラの主張から、従来の服を購入するのだ。

「……着たぞ」

深くため息をつきながら出てきたドゥーテは彼女らしくない文明的な服装をしていて、ディッセは素直に賞賛の拍手を送った。

「いつもそういうカッコしてろっつぅぅの。あんな破廉恥なカッコじゃなくて」
「破廉恥なのは貴様の頭の中だ、バカ犬。何を着ようと私の勝手だ」
「ば…!?おっま、ホント口悪すぎだっつぅぅの!」
「本当のことだろう、色ボケ犬。勝手に妄想するほうが悪い」
「もー!!二人ともこんなとこで喧嘩しないの!ほら、次はディッセの番だからね?どんなのがいい?」
「え、俺も着替えんのかぁぁ?」
「当然!ドゥーテとおそろいのシャツとかにしちゃおっかな~」
「そ、それだけは勘弁だっつぅぅの!!」


どういう関係か見えない3人組、おまけに大騒ぎときて、はっきり言って悪目立ちしていた。

アンエスタが居たら怒られそうだなー、などと暢気に考えながら、ルィラは結局4人分の服を購入して服屋をあとにする。
元々着ていた服とアンエスタへのお土産が入った荷物は、もちろんディッセの手の中だ。

その後もルィラは気の向くまま、ジュース、アイス、バーベキュー串、フルーツサラダ、またジュース…と食べ歩きをしてはモール内を冷やかしていく。

合間に増えていく服や諸々のパーツ類、食料などは結構な量になり、ディッセの両手はかなりの重労働を強いられていた。

「も、もうドロップ戻らねぇかぁぁ?」
「えー、僕まだ戻りたくなぁい!」

疲れ果てた心情をよく表現できた声だったのだが、無邪気な暴君には効果なし。
が、予想外なところから助け舟が出された。

「別に1人で戻せばいいだろう。ルィラの護衛は私がいれば充分だ」
「言い方がむっかつくっつぅぅの。けど、正直それが懸命かもな、っと…!」

落としそうになったパーツの袋を抱え直し、ディッセはルィラの顔を覗き込む。
不満そうな顔をしていれば潔く諦めるしかない。
が、予想とはうらはらに、ルィラは至極明るい笑顔でそれを承諾した。

「じゃぁ気をつけてねディッセ!僕まだ遊んでくから!」

…どうやら、自分さえ帰らなくてすむのなら良いらしい。
滅多に地表に降りることのないルィラだ、浮かれる気持ちは理解できるのだが…

「わぁかった。けど…荷物おいたら迎えにくるっつぅうの。遊ぶのはそれまで。今日はちょっとはしゃぎすぎだっつぅぅ話だ」
「うん、わかった!じゃぁなるべくゆっくり帰ってね、ディッセ!」
「へーい。了解だっつぅぅの」

バイバーイ、と大きく手を振るルィラに、ディッセは筋肉を酷使して手を振り返す。
フォメロスへの発着はシルバードロップを使用している。
もちろん、叛逆組織『グレイブヤード』の艦として、人目につかぬよう街の外れに隠してある状態だ。
繁華街の中心である現在地からは、およそ一時間。

往復二時間もあれば、ルィラも充分遊び回ることができるだろう。

なるべくゆっくり歩いてやるか、と自分の歩が遅い言い訳を探しながら、ディッセは再び荷物を抱え直して歩き始めるのだった。


そして。


ディッセがルィラ達と分かれて、十分ほど経った頃。



嵐は、突然やってきた。











「ねぇ、お兄ぃさん♪」

その声は、雑踏の中おもむろに真正面に飛び出してきた。

「!!」

(…はっ!?なんだ、こいつ……今……!?)

街中で油断していたとはいえ、唐突すぎた。

思わず身を固くするが、意外なことにも躍り出てきたのは女性だった。

少々黒めの肌、頭頂部からのボリュームある巻き毛。体のラインを強調するようなピッタリした衣服は、そのうえ布地が少ないという二重の罠。
ディッセを見下ろすほど大柄な女性だが、その体格から想像されるような男らしさは一切なく、妖艶な色気だけが濃厚に漂っている。

敵とは思えなかった。

だが…はっきり言って、ディッセが最も苦手とするタイプの女性、であった。

「大変そうね、手伝ってあげようか?」

彼女は満面の笑みで意味不明な申し出をしてくる。

「いや、いい?つぅぅか、誰だよっ!?」

もちろん、どこの誰とも知らない相手に荷物を渡すわけには行かない。
機密事項など何もないただの買い物袋だが、それでもグレイブヤード、ひいてはルィラの所有物なのである。
…というような生真面目な理由など思い浮かぶはずもなく、咄嗟に断ったのはただの条件反射だった。

「私?通りすがりの優しいお姉さんよ♪ねぇお兄さん1人?」

どう考えても、『通りすがりの優しいお姉さん』とは思えない。
確かに親切ではあるのかもしれないが、何というか、そこはかとない『下心』感が漂っているのはなぜなのか。
だが、そう思いながらも混乱した状態では正しい対応を考えることもできず、口が先に動いてしまっていた。

「ひ、1人じゃ…ねぇっつぅぅか…」

赤い唇は笑んだ形のまま、彼女はゆっくりと円を描くように歩き始める。
実際には触れられてなどいないのに、ディッセはまるで体中を撫で回されているかのような感覚に陥り、総毛立つ。

「1人じゃないの?」
「い、いや、今は1人っつぅぅか…でもホントは1人じゃねぇぇっつぅぅか…」

敵…なのかもしれない、と思った。
そもそも、油断していたとはいえ、自分の正面に回り込んできた俊敏さ。
気配など感じなかった。完全に間合いに入られていた。


そして、今。


探りを入れるかのような粘着質な視線に、さりげなく行動を制限するような動き。
しかも、気がつけば円は徐々に狭まっているようにも感じられ、ディッセはどう動くべきか本気で焦り始めていた。

敵か、一般人か。

下手に動いて、相手が一般人だった場合が困る。ルィラ達の所在地は把握していない。
どうする、どうする、どうする……!!!?

と、焦りのあまり視野が狭まっていたところで。

「ね、だからこれは回収~♪」

ヒョイっ、と。

荷物を奪われた。


「…あ…………あぁぁ!!?」

「いいのいいの、気にしないで~!これくらい軽いし持ってあげるってば♪だからぁ、ちょこっとくらい付き合ってくれてもいいでしょ!?決まり☆」

「返せ!!」

「付き合ってくれたらね♪ほらほら、じゃぁ早速行きましょー☆」

「ふ…っざけんなっつぅぅのー!!!」

奪い返そうとするも、相手はやはり俊敏に身を躱しなかなか手が届かない。
挙句の果て、荷物を持ったままどこかへ歩き始めてしまった。

(やっぱ敵だ、敵に違いねぇっつぅぅの!!!)

このままどこへ連れ去られるのか…人目がなくなる瞬間を狙って攻撃すべきか…そんなことを考えていると、彼女は唐突に振り返り、赤い唇を尖らせてきた。

「ねーぇお兄さん、これ、ナンパってわかってる?」






「……っえ、は?」

「あ、やっぱりわかってないのー!!!?もー、なんっか変だと思ったのよねぇ。いーい?これ、ナーンーパ。別に変なことしようなんて思ってないわよー。お兄さんカッコイイから声かけたのー!!」

(ナン…パ……?)

予想外な角度から繰り出されたパンチに、ディッセの思考はフリーズした。

可愛い女子を見るのは好きだが、声をかけたことはない。
ちょっと大人向けな雑誌は極力視界に入らないよう避けて通っているし、戦闘服以外のドゥーテは正直目のやり場に困る…といった具合のディッセである。

逆立ったツンツンヘアーで粋がっているものの、実はかなり純情で健全な青少年だったりするのだ。

しかも、裏組織に所属している為、一般女子との触れ合いもないまま生きてきている。

それが、妖艶なダイナマイトバディの美女からの、唐突なナンパ。

(カッコイイ…って言われた……っ!!?)

カァァァァァァァァ!!!

フリーズが溶けた瞬間、赤面するのも無理はない…かもしれない。

が、ワンテンポもツーテンポも遅れたその反応に、相手はきょとんとした表情を見せる。
自分の発言に対する赤面だとは思わなかったのだろう。
得心したようににやりと笑うと、思いっきりディッセの肩を叩いてきた。

「やっだー!もう、お兄さんてばどこ見てるのよー!!」
「み、見てねぇっつぅぅの!!」

どうやら考えすぎだったらしいことにホッとするディッセだが、荷物を奪われていることに変わりはない。かといって、一般人ならば下手に手出しするわけにも行かない。

隙を見て荷物を奪い返し、逃げ出そう。

そう心に決めると、ディッセは仕方なく彼女の後ろを歩き始めるのだった…。






To be continue……
**********
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

名前を棄てた賞金首

天樹 一翔
SF
鋼鉄でできた生物が現れ始め、改良された武器で戦うのが当たり前となった世の中。 しかし、パーカッション式シングルアクションのコルトのみで戦う、変わった旅人ウォーカー。 鋼鉄生物との戦闘中、政府公認の賞金稼ぎ、セシリアが出会う。 二人は理由が違えど目的地は同じミネラルだった。 そこで二人を待っていた事件とは――? カクヨムにて公開中の作品となります。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

CREATED WORLD

猫手水晶
SF
 惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。  惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。  宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。  「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。  そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。

マザーレスチルドレン

カノウマコト
SF
【ディストピア・暗黒小説】 パラレルワールド近未来、資本主義社会の崩落。この国の平均寿命は五十歳足らずになっていた。子供の頃に生き別れた母親を探す主人公ハルト。彼の前に現れるマザーレスチルドレン。未来を託す子供たちを守れるか…ハルト。ディストピア小説、群像劇

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

瞼が閉じる前に

一歩
SF
 帳倶楽部。それは、夜を求める者達が集う世界。  夜を愛する者、陽光を避ける者、隠居生活に選ぶ者、インドアの空気を愛する者……。  夜はどんな者も受け入れ、そして離れ難い欲求を、住む者に植え付ける。  まるで巨大な生き物の胃袋の中にいるかのように、その温もりに安心し、そして、……気が付けば何かを失っているのだ。 ーーーー  『帳倶楽部』 巨大な夜に包まれた国に住む、ある人々の小さな物語。

処理中です...