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第221話 勝利の犠牲
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「報告! 全ての精霊人形の動きが停止! 繰り返します! 全ての精霊人形の動きが停止しました!」
伝令の報告に絶えず鼻血を流し続けていたルカは顔を上げた。
「もしや、操っていた者を殺ってくれましたか! よし、総員このまま停止している精霊人形を全て破壊せよ! もう元の人間には戻せません! 停止している間に破壊するのです!」
ルカの指示により、味方は動きを停止した10万近い精霊人形を破壊し始めた。
「やった……勝ちましたよ。 マリ様……」
そして、その光景を見送ったルカは崩れ落ちる。
「ルカ!!」
大砦の屋上で倒れるルカの下にルルは走った。
◆◇◆
「ぜー……ぜー……ぜー……イサミはん。 生きてるかー?」
精霊人形達が停止し、ようやく一息ついたメル伯爵が折れた剣を杖代わりに倒れるイサミ伯爵の下へと向かっていた。
周囲には山の様に仲間の死体が散乱している。
「ふふ……メル。 無事だったのですね……会えて嬉しいです」
メルは全身傷だらけだが、高級な鎧を身に纏っていたおかげで致命傷は負わずにいた。
しかし、他の味方はそうはいかなかった。
腕は斬られ、腹部から大量に血を流すイサミがメルを見て力無く微笑む。
側で倒れ、既に息絶えた女貴族達や兵士達と同じ様にもうじきイサミも死ぬだろう。
「ちょっ……くそ! 誰かぁぁぁ! 衛生兵! 此処に来てやぁーー!」
メルは叫ぶが、余りにも重傷の味方が多かった。
イサミ以外にも、助けを待つ兵士達は大勢おり治療が間に合わずに更に多くの味方が死ぬ事になる。
「あかん、あかんよイサミはん! 終わったんや、やっと終わったんやで!」
メルはイサミを抱きかかえるが、イサミの体温の低さに絶望する。
「メル……泣かないで。 良かったぁ……皆先に死んでしまったの。 貴女が生き残ってくれて……嬉し……ぃ」
そして、イサミは他の女貴族達と同じ様に息を引き取った。
「あぁぁぁ……嫌や。 嫌やよ! お願いや、誰かぁぁ!」
◆◇◆
「ごふっ……生き残っている黒騎士団に伝達。 動ける者は停止した精霊人形を破壊せよ!」
別の場所では黒騎士団の団長デランが折れた手斧を地面に突き立てながら最後の命令を下していた。
「団長! おい、さっさとポーションを貰ってこい!」
デランの黒檀の鎧からは、血溜まりが出来る程に絶えず血が流れている。
「良いんだ。 ……他の味方に使え。 なぁ、何人残った」
副団長に問うと、震える声で返答が返ってきた。
「……1200人です。 他は戦死したか、重傷でもうじき死ぬでしょう」
デランの目の前には黒騎士達が大勢地面に横たわっているのが見える。
「そうか……。 家族に伝言を頼んで良いか?」
「……勿論です。 団長」
「妻には愛していると、息子には……平和を謳歌しろ、平和を手にする為に犠牲になった者達を忘れる様な男になるなと……伝えてく……れ」
デランの全身から力が抜け、黒騎士団団長デランは味方の兵士達の数十倍の精霊人形を破壊し味方を守り死んだ。
「必ず、必ず伝えますから……団長!」
◆◇◆
「1体も残すな! 動ける者は全ての精霊人形を破壊しろ!」
ルニアは刃こぼれした大剣を振るい、動きを停止した精霊人形を破壊していた。 受け入れたくない現実から目を背ける様に。
「ルニア! ルニア!! ……師匠が呼んでいる」
「……はい。 分かってます!」
ルニアは夫ボルガスの下に向かった。
「はは……何だ何だ。 酷い顔だな、ルニア」
ボルガスの腕の中で、血を流し倒れるのは2人の師匠であり新重近衛団の団長ラリーだ。
最後の決戦で、全ての力を使い果たした老兵達は地に倒れ安らかに眠っていた。
「失礼! 私は魔族四天王が1人灼炎と申します。 エルフよりこのポーションを配るように頼まれたのですが……飲まれますか?」
「ありがとう、灼炎殿。 ラリー師匠! さぁ、早くコレを」
ルニアは灼炎から受け取ったハイポーションをラリーに飲まそうとしたが、ラリーは首を横に振った。
「阿呆。 儂の様な老いぼれを生き延びさせてどうする。 若い奴等が死にかけとるんだ。 数には限りがあるんだろ? そいつ等にやってくれ」
「ですがっ! く……ラリー師匠、貴方はそういえば頑固でしたね」
「おう。 くっくっくっ、じゃあなルニア。 それと坊主。 ウォンバットの坊主にも……よろし……く……な」
「師匠……坊主は勘弁してくださいよ。 ラリー師匠……」
◆◇◆
「私にはポーションは不要です! 他に必要な者に! 精霊人形の破壊は動ける者に任せ、他の者は少しでも多くの命を救って下さい!」
駆け寄って来た衛生兵にルーデウスは指示を飛ばす。
「陛下、無理は禁物ですよ」
「ふふ、アーサー君。 君も、凄く立派になったよね」
互いにボロボロで膝をつくルーデウスとアーサーは何とか生き延びていた。
「僕なんか……まだまだ未熟だよ。 メリーさんに相応しい男にならないとね……。 でも、勝てたね」
「そうだね……。 姉上……勝ちましたよ! でも、沢山……本当に沢山の味方が死にました。 それでも、王国は守り切りました……よ」
「ルーデウス?! 気絶しただけか……良かった。 どうか、休んで下さい。 まだこれからです。 マリ様の願う平和を作るのはこれからですから……おやすみなさい、友よ」
疲れ果て、気絶したルーデウスは幼い少年の表情で最愛の姉を思いながら意識を絶った。
そして、その隣でアーサーも意識を失うのであった。
◆◇◆
「お祖母様?! お祖母様!!」
精霊人形が破壊され、重傷の兵士達を治療していたメイド部隊の支援要員セヴンスは中央で倒れる黒ずくめの魔族達を見て青ざめた。
「かふっ……おや、ふふ……セヴンス。 私の可愛い孫のセラじゃないか。 良かったぁ~……無事だったんだねぇ」
初代ファースト以外の元暗部達は全員既に事切れており、セヴンスに抱き上げられた初代ファーストも身体中に精霊人形の剣が突き刺さっていた。
「お祖母様! 早く、早くコレを!」
セヴンスは持っていたハイポーションを飲ませようとするが、初代ファーストは拒否する。
「ごめんねぇ~……私も、皆も魔人化したから……手遅れなんだぁ~」
初代ファースト率いる元暗部達は、クロモトの首を落とす隙を作る為に初めから全員魔人化していた。
結果として、中央に潜むクロモトの下へと辿り着き首を落とせたのだ。
「そんな……お祖母様」
「ふふ、そんなぁ顔しないでぇ……私達は、若い貴女達を守りたかっただけだから~……。 いいかいセラ。 魔人化が出来ない魔族は出来損ないなんかじゃ無いんだよ~……」
初代ファーストはセヴンスの頬を優しく撫で微笑む。
「ありがとうございます……お祖母様」
「ふふ、セラ……平和になったらさ~……恋をして、幸せになるんだよ」
「はい、約束します。 おやすみなさいませ……お祖母様」
初代ファーストの身体から力が抜け落ち、息を引き取った事をセヴンスは受け止め泣いた。
◆◇◆
未だ、決戦が行われた戦場では多くの重傷者が助けを待ち懸命な救出活動が行われている。
マリが知ればきっと己を責めるだろう。
自分が招いた未来の結果だと。
エントン王国の推定戦死者10000名。 怪我人3000名、動ける者3000名であった。
亜人の推定戦死者1500名。 怪我人2200名、動ける者2300名。
魔族の推定戦死者2000名(内魔人化による戦死者は800名) 怪我人1200名、動ける者6800名。
合計推定戦死者1万3500名。
この数だけを見れば、マリは戦死者の多さに絶望するだろう。
しかし、正史では小国は全て滅び亜人も英雄達以外は殺され、ゴルメディア帝国全力と魔族との壮絶な殺し合いで最後に生き残るのは主人公達と僅かの人間達だけになる筈だった。
確かにマリは未来を変えたのだ。
エナが希望と呼んだ、平和な未来に。
そして、南に広がる暗黒の様に黒い雲の下ではその未来を本当に決める最後の決着がつこうとしていた。
伝令の報告に絶えず鼻血を流し続けていたルカは顔を上げた。
「もしや、操っていた者を殺ってくれましたか! よし、総員このまま停止している精霊人形を全て破壊せよ! もう元の人間には戻せません! 停止している間に破壊するのです!」
ルカの指示により、味方は動きを停止した10万近い精霊人形を破壊し始めた。
「やった……勝ちましたよ。 マリ様……」
そして、その光景を見送ったルカは崩れ落ちる。
「ルカ!!」
大砦の屋上で倒れるルカの下にルルは走った。
◆◇◆
「ぜー……ぜー……ぜー……イサミはん。 生きてるかー?」
精霊人形達が停止し、ようやく一息ついたメル伯爵が折れた剣を杖代わりに倒れるイサミ伯爵の下へと向かっていた。
周囲には山の様に仲間の死体が散乱している。
「ふふ……メル。 無事だったのですね……会えて嬉しいです」
メルは全身傷だらけだが、高級な鎧を身に纏っていたおかげで致命傷は負わずにいた。
しかし、他の味方はそうはいかなかった。
腕は斬られ、腹部から大量に血を流すイサミがメルを見て力無く微笑む。
側で倒れ、既に息絶えた女貴族達や兵士達と同じ様にもうじきイサミも死ぬだろう。
「ちょっ……くそ! 誰かぁぁぁ! 衛生兵! 此処に来てやぁーー!」
メルは叫ぶが、余りにも重傷の味方が多かった。
イサミ以外にも、助けを待つ兵士達は大勢おり治療が間に合わずに更に多くの味方が死ぬ事になる。
「あかん、あかんよイサミはん! 終わったんや、やっと終わったんやで!」
メルはイサミを抱きかかえるが、イサミの体温の低さに絶望する。
「メル……泣かないで。 良かったぁ……皆先に死んでしまったの。 貴女が生き残ってくれて……嬉し……ぃ」
そして、イサミは他の女貴族達と同じ様に息を引き取った。
「あぁぁぁ……嫌や。 嫌やよ! お願いや、誰かぁぁ!」
◆◇◆
「ごふっ……生き残っている黒騎士団に伝達。 動ける者は停止した精霊人形を破壊せよ!」
別の場所では黒騎士団の団長デランが折れた手斧を地面に突き立てながら最後の命令を下していた。
「団長! おい、さっさとポーションを貰ってこい!」
デランの黒檀の鎧からは、血溜まりが出来る程に絶えず血が流れている。
「良いんだ。 ……他の味方に使え。 なぁ、何人残った」
副団長に問うと、震える声で返答が返ってきた。
「……1200人です。 他は戦死したか、重傷でもうじき死ぬでしょう」
デランの目の前には黒騎士達が大勢地面に横たわっているのが見える。
「そうか……。 家族に伝言を頼んで良いか?」
「……勿論です。 団長」
「妻には愛していると、息子には……平和を謳歌しろ、平和を手にする為に犠牲になった者達を忘れる様な男になるなと……伝えてく……れ」
デランの全身から力が抜け、黒騎士団団長デランは味方の兵士達の数十倍の精霊人形を破壊し味方を守り死んだ。
「必ず、必ず伝えますから……団長!」
◆◇◆
「1体も残すな! 動ける者は全ての精霊人形を破壊しろ!」
ルニアは刃こぼれした大剣を振るい、動きを停止した精霊人形を破壊していた。 受け入れたくない現実から目を背ける様に。
「ルニア! ルニア!! ……師匠が呼んでいる」
「……はい。 分かってます!」
ルニアは夫ボルガスの下に向かった。
「はは……何だ何だ。 酷い顔だな、ルニア」
ボルガスの腕の中で、血を流し倒れるのは2人の師匠であり新重近衛団の団長ラリーだ。
最後の決戦で、全ての力を使い果たした老兵達は地に倒れ安らかに眠っていた。
「失礼! 私は魔族四天王が1人灼炎と申します。 エルフよりこのポーションを配るように頼まれたのですが……飲まれますか?」
「ありがとう、灼炎殿。 ラリー師匠! さぁ、早くコレを」
ルニアは灼炎から受け取ったハイポーションをラリーに飲まそうとしたが、ラリーは首を横に振った。
「阿呆。 儂の様な老いぼれを生き延びさせてどうする。 若い奴等が死にかけとるんだ。 数には限りがあるんだろ? そいつ等にやってくれ」
「ですがっ! く……ラリー師匠、貴方はそういえば頑固でしたね」
「おう。 くっくっくっ、じゃあなルニア。 それと坊主。 ウォンバットの坊主にも……よろし……く……な」
「師匠……坊主は勘弁してくださいよ。 ラリー師匠……」
◆◇◆
「私にはポーションは不要です! 他に必要な者に! 精霊人形の破壊は動ける者に任せ、他の者は少しでも多くの命を救って下さい!」
駆け寄って来た衛生兵にルーデウスは指示を飛ばす。
「陛下、無理は禁物ですよ」
「ふふ、アーサー君。 君も、凄く立派になったよね」
互いにボロボロで膝をつくルーデウスとアーサーは何とか生き延びていた。
「僕なんか……まだまだ未熟だよ。 メリーさんに相応しい男にならないとね……。 でも、勝てたね」
「そうだね……。 姉上……勝ちましたよ! でも、沢山……本当に沢山の味方が死にました。 それでも、王国は守り切りました……よ」
「ルーデウス?! 気絶しただけか……良かった。 どうか、休んで下さい。 まだこれからです。 マリ様の願う平和を作るのはこれからですから……おやすみなさい、友よ」
疲れ果て、気絶したルーデウスは幼い少年の表情で最愛の姉を思いながら意識を絶った。
そして、その隣でアーサーも意識を失うのであった。
◆◇◆
「お祖母様?! お祖母様!!」
精霊人形が破壊され、重傷の兵士達を治療していたメイド部隊の支援要員セヴンスは中央で倒れる黒ずくめの魔族達を見て青ざめた。
「かふっ……おや、ふふ……セヴンス。 私の可愛い孫のセラじゃないか。 良かったぁ~……無事だったんだねぇ」
初代ファースト以外の元暗部達は全員既に事切れており、セヴンスに抱き上げられた初代ファーストも身体中に精霊人形の剣が突き刺さっていた。
「お祖母様! 早く、早くコレを!」
セヴンスは持っていたハイポーションを飲ませようとするが、初代ファーストは拒否する。
「ごめんねぇ~……私も、皆も魔人化したから……手遅れなんだぁ~」
初代ファースト率いる元暗部達は、クロモトの首を落とす隙を作る為に初めから全員魔人化していた。
結果として、中央に潜むクロモトの下へと辿り着き首を落とせたのだ。
「そんな……お祖母様」
「ふふ、そんなぁ顔しないでぇ……私達は、若い貴女達を守りたかっただけだから~……。 いいかいセラ。 魔人化が出来ない魔族は出来損ないなんかじゃ無いんだよ~……」
初代ファーストはセヴンスの頬を優しく撫で微笑む。
「ありがとうございます……お祖母様」
「ふふ、セラ……平和になったらさ~……恋をして、幸せになるんだよ」
「はい、約束します。 おやすみなさいませ……お祖母様」
初代ファーストの身体から力が抜け落ち、息を引き取った事をセヴンスは受け止め泣いた。
◆◇◆
未だ、決戦が行われた戦場では多くの重傷者が助けを待ち懸命な救出活動が行われている。
マリが知ればきっと己を責めるだろう。
自分が招いた未来の結果だと。
エントン王国の推定戦死者10000名。 怪我人3000名、動ける者3000名であった。
亜人の推定戦死者1500名。 怪我人2200名、動ける者2300名。
魔族の推定戦死者2000名(内魔人化による戦死者は800名) 怪我人1200名、動ける者6800名。
合計推定戦死者1万3500名。
この数だけを見れば、マリは戦死者の多さに絶望するだろう。
しかし、正史では小国は全て滅び亜人も英雄達以外は殺され、ゴルメディア帝国全力と魔族との壮絶な殺し合いで最後に生き残るのは主人公達と僅かの人間達だけになる筈だった。
確かにマリは未来を変えたのだ。
エナが希望と呼んだ、平和な未来に。
そして、南に広がる暗黒の様に黒い雲の下ではその未来を本当に決める最後の決着がつこうとしていた。
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