[完結]転生したのは死が間近の女王様!? ~超可愛い弟が王になれるよう平凡な女王が抗う奮闘記~

秋刀魚妹子

文字の大きさ
上 下
136 / 231

第134話 迂闊なマリとジャック

しおりを挟む
 アマンダ達が到着した日の夜、亡命する民達の受け入れをする為にルーデウスは騎士達を連れて王都に帰ってしまった

 「姉上に再会も出来ましたし、民達の受け入れ体制の確認もしなければいけません。 まだ暫くは僕が代理国王として務めますので姉上はゆっくり待っていて下さい」   

 笑顔で去っていったルーデウスをマリは少し寂しそうな顔で見送ったが、これも可愛い弟であり推しの成長が見られる姉の特権として受け入れた。

 ただ、去り際に「寂しい思いをさせてると思うので帰らないと……」と呟いていたのが何故か頭に残っている。

 アーサー城の与えられた豪華な部屋のベランダで景色を見ながらマリはため息を吐く。

 「はぁ~……ルニアさん達無事かな。 早く帰ってきて、皆で王都に帰りたいなー」

 マリはゴルメディア帝国の国境側を見つめる。

 この城の城主であるアーサー子爵も連合軍と共に黒騎士団とルニア侯爵達の援護に向かっている為、まだ挨拶も出来ていない。

 「あ! そうだ、未来見れたら……皆がどうなるか分かるかな」

 マリは思い付いた事をさっそく試す。

 部屋に戻り、未来を見に行く時の感覚を思い出す。

 目はうっすらと光り出し、視界が白くなり始めた瞬間。
 突如として目の前は闇に包まれ、目に激痛が走る。

 「あ、見えそっていったぁぁぁぁぁ?! 痛い痛い痛い!」

 マリが悲鳴を上げたと同時にジャックが飛び込んできた。
 マリは痛みから既に気絶し、床へと倒れる。

 「陛下! 大丈夫でございますか!? メリー! ヨハネを連れて来てくれ! 早く!!」

 倒れるマリを間一髪でジャックは支えた。

 目からはまた黒い靄が滲み出ており、ジャックは最悪の結末を想像してしまう。

 「早く! ダメだ、ダメだダメだ! 止まれ! 止まれ止まれ!」

 ジャックは必死に目から滲み出る靄を手で払おうとするが、触れる事も出来ずにマリの表情は青く悪くなっていく。

 「マリ様、しっかりして下さい! おい! メリー!! 早くヨハネを連れて来い!」

 「ジャック、連れて来ました!」

 「ジャック、その靄に余り触れようとするな。 メリー、降ろしてくれ。 マリを診てみる」

 ヨハネを担いだメリーが特急で駆け付け、直ぐに降ろされたヨハネが治療を始める。 

 「くっ! 呪いが進行し始めてる。 何故だ? アレは此処まで来れない筈。 数多の精霊、善なる精霊達よ、古き友が願う。 堕ちた同胞に蝕まれる者の苦痛を抑え一時の救いを与え給え」

 マリの目の上にかざすヨハネの手が緑に光り、魔法の呪文をヨハネは唱え続ける。

 「救い給え、真なる愛を持つ者の力を宿し給え、救い給え、救い給え……ふぅ、止まったようだね」

 ヨハネは額に大粒の汗を垂らし、顔色の戻ったマリを見て一安心する。 まだ身体が全快では無いヨハネは体制を崩し、床へと倒れそうになるがメリーが受け止めた。

 「キサラギ、感謝します。 して、陛下は大丈夫なのですか?」

 「……分からない。 呪いが何故進行したのか分からなければ……次は無いかもしれない」

 メリーの問の答えを聞いたジャックは、腕の中で眠るマリを見て湧き上がる感情に耐えられなくなった。

 ジャックは考えないようにしてきたが、マリは初恋の相手であり、今でも心から愛していた。再度己の気持ちに気付いたジャックは半狂乱でヨハネに助けを求める。

 「そんな……! 頼む、教えてくれ! 俺はどうすれば良い? 何をすれば陛下を助けられるんだ! 陛下は、マリ様は俺の全て何だよ!」

 「ジャック、落ち着くんだ。 今は呪いの進行は完全に止まってる。 君に出来るのは朝までマリの側から決して離れない事だよ」   

 ヨハネの返答にメリーもジャックも困惑する。

 「キサラギ? それが何故陛下の助けになるのですか?」    

 メリーの問いに答えるヨハネは、ジャックを真っ直ぐ見つめて応えた。

 「ふふ、さっき私が使った精霊魔法はね。 心から本当に愛している者が触れてないと効かない魔法なのさ。 何故、マリに効いたか……ジャック、君はもう分かっているだろう?」

 ジャックはずっとマリを抱きしめていることを思い出した。

 「いや、だが……それはお前の筈だ! お前が陛下の恋人だろう!」

 ジャックは分かっているが認めない。

 マリが選んだのはヨハネだという事実がジャックを苦しめていた。 

 「私はマリを愛しているよ。 でも、私以上にジャック……君の方がマリを愛している」

 ジャックは認めない。

 「違う。 俺じゃダメ何だよ、陛下が目覚めた時に居るべきはお前だ!」

 「私はこれ以上身体を動かせそうも無い。 ジャック、観念してくれ。 マリが大切なんだろ?」

 「だが……」

 煮え切らない様子のジャックにメリーがキレた。

 「うるさい! ジャックが陛下が好きなのは大昔から知ってます! さっさと陛下をベットにお連れしなさい! 絶対に離れない事!」

 「……分かった。 すまない、ヨハネを頼む」

 「ふふ、頼むよメリー医務室まで運んでくれ」

 ヨハネはメリーに運ばれて行き、ジャックはマリと二人っきりになった。 

 「陛下……失礼します」

 マリをベットに眠らせ、片手をしっかりと握り締める。

 「側にずっと居ます。 絶対に離れませんから、どうか良い夢を」

 ジャックの長い夜が始まった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...