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第99話 ドナドナ再び

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 「ありがとう、此処からは1人で行くね」 

 「マリ陛下、どうかメリー隊長をお願いします」

 「隊長きっと凄く怒ると思いますが、私達の大事な隊長何です」

 「ほんとにごめんね~陛下さん~。 メリーちゃんの無事確認したら直ぐに助けに行くね~」

 「すまねぇ、隊長を頼む!」

 「マリ陛下の事誤解してたっす。 必ず助けに行くっすから、隊長をお願いっす!」

 マリは深く頭を下げるファースト達に挨拶し、帝都の門へと歩く。

 地下都市からの脱出路は帝都の外までの道しか残っておらず、わざわざ一度出てから帝城へと向かうことになったのだ。

 マリの背中を見送った戦闘員の5人は、外からでも見える悪趣味な黒檀で出来た帝城を睨みつけていた。

 「皆、この醜態……必ず拭いましょう」

 「「「了解」」」 「了解さんよ~」

 ◆◇◆

 マリは大きな正門の前にやって来た。

 既にマリを視認した衛兵達は殺気立ちながら近付いてくる。

 「貴様、元エントン王国女王のエントンフォルマリだな! 帝城から姿を消したと聞いていたが……おめおめと戻って来るとは!」

 手に持つ槍をマリに突き出し、衛兵達は今にも刺し殺す勢いだ。

 「あはは~……あれ? 私って一応、特別改革大臣何ですけど? 一応、偉いんですけど?」

 白を切り精一杯見栄を張ったが、残念ながら衛兵達の感情を逆撫でする結果となる。

 「ふ、ふざけるな! その恩義に報いずに、キャベル女皇帝陛下を殺害しておいて何を抜かす! おい! この女を確保し帝城に連行しろ!」

 衛兵達にマリは両手を掴まれ、そのまま帝城へと連れて行かれる事となった。

 道中怒れる民衆から罵詈雑言を吐かれるが、正直な所女皇帝殺害等身に覚えのないマリにとってはどうでもいい事だ。

 むしろ、既に帝都にいる民達をマリは見捨てている。

 奴隷の様に扱っていた下民達が居なくなり、今後食料に困ること等知った事では無いのだ。

 「あ~~れ~~、またドナドナなの? って、痛い! 優しく優しくお願いーー!」

 ◆◇◆

 マリは帝城まで連行され、あれよあれよの内に大広間へと到着した。

 「新皇帝陛下、先代女皇帝陛下を殺害し逃亡していたエントン フォル マリを捕らえましたので連行致しました!」

 連行した衛兵が跪く。

 マリは両手を縛られ、両サイドに近衛兵が槍を持ち見張っている。 もし逃亡を図れば即座に処刑されるだろう。

 衛兵が跪いた先には偉そうに座っている新皇帝アバンが頬杖をついてマリを見下していた。

 「ふんっ! 良くも母を殺害しておめおめと戻って来たな。 この愚か者目が! この俺様からエナを奪い、母まで奪うとは万死に値するぞ!」

 立ち上がり、はためかせた無駄に豪華なマントが全く似合っておらず、マリは思わず笑う。

 「ぷっ……似合わな過ぎじゃない?」

 小声で呟いた筈だが、どうやら本人にも自覚があるのか顔を真っ赤にして激怒し始めた。

 「おい! 母を殺害したこの重罪人をさっさと殺せ! 首を母の墓前に飾ってしまえ!!」

 「やば……まさか、速攻で死刑なの?」

 アバン皇帝の命令で、両サイドに立つ近衛兵が槍をマリに向けて構える。

 「殺せ! 早く殺せぇぇぇぇぇ!」

 アバン皇帝が叫ぶ。

 「その処刑待たれよ!!」

 槍がマリに突き刺さろうとした瞬間、大広間に制止する声が響いた。

 「なっ!? ブラック宰相閣下、アバン皇帝陛下の命に異議を申し立てるおつもりか!」

 制止させたブラックを咎めるのは近衛師団副団長のピレンだ。 団長のカエサルが突然失踪し、副団長のピレンが現在近衛師団の指揮を採っている。

 「黙れ、小僧。 新アバン皇帝陛下、お怒りはご尤も。 ですが、計画通りにすべきかと。 でなければ……あの御方が」

 猛禽類の様な目で睨まれたアバンは、凄まじい小物っぷりを発揮し身体をガタガタと震わせた。

 「そ、そそそうであったな。 処刑はちゅ、中止だ! い、今はな! 後日、エントンフォルマリをキャベル女皇帝殺害と不正していない無実の貴族達に心労を課した罪で処刑とする。 ろ、ろろろろろ牢屋に連れて行けぇぇぇ!」

 唾を撒き散らし、叫ぶアバンを見てマリは溜息を吐いた。

 あり得ない程の速度でアバンが皇帝になっている時点でお察しだが、どうやら全ては黒い妖精ティナが糸を引いているようだ。

 そもそも、女皇帝しか存在しない帝国で先代が崩御した瞬間に男のアバンが何の違和感も無く皇帝になれる筈が無い。

 恐らくこのヘタレはティナ達に唆され、殺したのだろう。

 信頼する配下の命よりも息子を優先してくれた実の母親を。

 「はぁ……いや、キョドり過ぎでしょ? ねぇ、親殺しのヘタレ君。 絶対に後悔するからね」

 キャベルはマリにとって確かに敵だった。

 それでも憎めない所が有ったのは事実だ。 愛した息子に殺されるとは思っても無かっただろう。

 連行されるマリが放った捨て台詞を、アバンは真っ赤な顔で押し黙って見送った。
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