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第77話 キャミの首が跳びかける
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会議室はルカの解決策の話で静寂に包まれていた。
メルもまさか、既に対策をされていたとは思ってもみなかったのだ。振り上げた矛先を簡単に納められる筈も無く。
「お、おぉ……やるやんか、ルカ大臣はん。 でも、ルニア辺境伯はんの所は本当にそんなに大盤振る舞いしてええんですか?」
今度はルニアにメルの矛先が向いたが、ルカの微笑は変わらない。 ルニアが立ち上がると、キャミが少し怯えたがルーデウスが優しく手を握り安心させる。
「無論だ、メル子爵殿。 大げさではなく、我が辺境伯領で貯めた財産や調度品に領地で採れる食料や薬の材料等根こそぎ輸送させている」
「は……? いやいや、そんな事したら辺境伯領が運営出来んくなりますやん!」
メルはルニアの返答に目を見開いて驚いた。
「ん? いや、構わん。 私の我儘を通す為だからな」
「我儘って……まさか、敵国の女王との口約束を本当に守るんか?!」
2人の会話をキャミとドーラは分からずに聞いていたが、直ぐに自分の母達の事だと気付いた。
この場に居る女貴族達や将兵達も既に報告は受けているが、所詮は敵との口約束。 皆は、ルニア辺境伯が本気で守るとは思っていなかった。
「当然だ。 戦場での斬り合いの末に託された願い。 もし、違えば私はもう騎士ではない」
ルニアの視線はキャミとドーラに向けられており、その眼差しはとても優しかった。
「もうええです……。 こっちが不安になっとった事は全部、そちらの大臣はんがやってくれてるみたいやし。 2人の王女も好きにして下さい」
メルが席に座り、ルーデウスが無事に終わったと安堵したその時。
右側の席から複数人の女貴族達と将兵達が立ち上がった。
「ちょっと待って頂きたい。 ルーデウス殿下、私からもよろしいでしょうか」
立ち上がった者達の代表者が口を開く。
「かまいません。 どうぞ、発言して下さい。 イサミ子爵」
ルーデウスに名を呼ばれたイサミは珍しい黒髪をしていた。
キャット王国では黒髪等見たこともなく、キャミは昔聞いた噂でゴルメディア帝国の皇族は必ず黒髪で生まれるという与太話を思い出していた。
「アント フォル イサミ子爵です。 この場に居ない女爵や兵士達からの陳情を受けて発言させていただきます。 今回の一方的な侵略戦争により多くの者が怒り、恨んでいます。 同僚を殺された、家族を、夫を殺された。 美しい王都が壊された。 そんな者達の怒り恨みが現在、拉致されてきた2人の王女と生き残った兵士達に向けられています」
イサミは発言している間、ずっと2人の王女達を見つめる。
その眼差しは品定めをしているかのようで、キャミは居心地が悪く直ぐにこの場から立ち去りたいがそんな事は許されない。
今、イサミが発言している出来事は全て自分の王国が行った侵略戦争の結果だからだ。
敵国の王女がエントン王国に居るとなれば、処刑を願うのが普通ではないだろうか。 それに、実際に仲間を殺した兵士達を生かしておく義理等存在しない。
しかし、攻めないと奴隷にされる等のやむを得ない事情を聞いた女貴族達や将兵達からは同情の声が多く。 互いに殺し合ったと云えど、和平が出来るならそれが1番だと云う意見も出ていた。
「大臣ルカがお答えします。 と言いますか、逆にお聞きしたいのですが……お二人の王女の死と生き残りの兵士達の死を請うてる方々は、処刑した後どうするのですか? まさか、キャット王国やドック王国の民達も皆殺しにするのですか?」
ルカの問いは、イサミに向けられたものではない。
イサミに発言させ、自分達の陳情を言わさせている女爵達や将兵達だ。
「え? そ、それは……」
聞かれた殆どの者達が俯き、黙ってしまう。
「もし、そんな事をしていたら我等がマリ女王陛下を処刑したゴルメディア帝国が意気揚々とエントン王国を蹂躙しに来るでしょうね」
「「「「「っ!?」」」」」」
ルカの発言に驚き、思わずたじろいだ。
「はぁ……まさか、そんな事も分かって無いのですか? 今一度お教えします。 そもそもこんな事をしている時間すら惜しいのです!! 早くキャット王国とドック王国との問題を解決し、他の小国群との連携をとれなければエントン王国は滅びるんですよ!」
ルカは机を叩き激怒する。
「確かに大勢が戦死しました。 ですが、民達を1人も犠牲にさせなかった事を守りきった事を戦死した仲間達は誇りに思っている筈です! 恨みを優先させれば、彼等の死は無駄死になるでしょう。 それでいいんですか? もし、本当にそちらの王女お二人を処刑にしないと気がすまないのなら好きにして下さい。 ただし! エントン王国最強の騎士、赤い死神が先に貴女方の首を斬るでしょうけどね」
ルニアがルーデウスと王女達の前に仁王立ちし、腰の剣に手を添える。
本当に王女達を処刑しようと、イサミ派の女爵達や将兵達が動けば即座に首が落ちるだろう。
「ふぅ……ねぇ、貴女達もう分かったわよね? 謝罪しますルーデウス殿下、並びにルニア辺境伯殿と大臣殿。 私も説得したのですが、どうして納得出来ないと。 本当は、この議論の場を作って頂いたのは私だったのですが……何故かメル子爵が代表の様に……」
どうやら本題も何も、そもそもメル子爵は飛び入り参加で右側の席に着いていたようだ。
皆がメル子爵を見ると、コソコソと部下や傭兵達を連れて左側の席に移動している所だった。
「あ~……バレてもうた?」
メル子爵はバツの悪そうな顔をしながら席に着く。
「やれやれ、ではルーデウス殿下。 議論は終わったと言うことで……お願いします」
ルカの合図でルーデウスはキャミとドーラの手を握り、高らかに宣言した。
「我等エントン王国と、キャット王国並びにドック王国は和平を結ぶ!! 遺恨を残さぬように、2人の王女が女王となった後。 婚姻による堅い同盟を結ぶ事とします! よって、生き残った両国の捕虜は即座に解放し治療と復興の手伝いをしてもらう。 よいな! 全ての元凶は我等の女王マリ陛下を奪ったゴルメディア帝国である! 怒り、恨みは全てゴルメディア帝国に向けよ!! 全ての兵士、全ての民に伝えるように!」
「「「「「はっ!!仰せのままに!!」」」」」
その場に居た全ての参加者がルーデウスに敬礼を示した。
こうしてキャミとドーラは処刑を免れ、エントン王国の王城で暫く住むことになったのだが。
2人は和平も婚姻同盟も初耳であり、驚くばかりであった。
全ては神童ルカの手のひらの上である。
メルもまさか、既に対策をされていたとは思ってもみなかったのだ。振り上げた矛先を簡単に納められる筈も無く。
「お、おぉ……やるやんか、ルカ大臣はん。 でも、ルニア辺境伯はんの所は本当にそんなに大盤振る舞いしてええんですか?」
今度はルニアにメルの矛先が向いたが、ルカの微笑は変わらない。 ルニアが立ち上がると、キャミが少し怯えたがルーデウスが優しく手を握り安心させる。
「無論だ、メル子爵殿。 大げさではなく、我が辺境伯領で貯めた財産や調度品に領地で採れる食料や薬の材料等根こそぎ輸送させている」
「は……? いやいや、そんな事したら辺境伯領が運営出来んくなりますやん!」
メルはルニアの返答に目を見開いて驚いた。
「ん? いや、構わん。 私の我儘を通す為だからな」
「我儘って……まさか、敵国の女王との口約束を本当に守るんか?!」
2人の会話をキャミとドーラは分からずに聞いていたが、直ぐに自分の母達の事だと気付いた。
この場に居る女貴族達や将兵達も既に報告は受けているが、所詮は敵との口約束。 皆は、ルニア辺境伯が本気で守るとは思っていなかった。
「当然だ。 戦場での斬り合いの末に託された願い。 もし、違えば私はもう騎士ではない」
ルニアの視線はキャミとドーラに向けられており、その眼差しはとても優しかった。
「もうええです……。 こっちが不安になっとった事は全部、そちらの大臣はんがやってくれてるみたいやし。 2人の王女も好きにして下さい」
メルが席に座り、ルーデウスが無事に終わったと安堵したその時。
右側の席から複数人の女貴族達と将兵達が立ち上がった。
「ちょっと待って頂きたい。 ルーデウス殿下、私からもよろしいでしょうか」
立ち上がった者達の代表者が口を開く。
「かまいません。 どうぞ、発言して下さい。 イサミ子爵」
ルーデウスに名を呼ばれたイサミは珍しい黒髪をしていた。
キャット王国では黒髪等見たこともなく、キャミは昔聞いた噂でゴルメディア帝国の皇族は必ず黒髪で生まれるという与太話を思い出していた。
「アント フォル イサミ子爵です。 この場に居ない女爵や兵士達からの陳情を受けて発言させていただきます。 今回の一方的な侵略戦争により多くの者が怒り、恨んでいます。 同僚を殺された、家族を、夫を殺された。 美しい王都が壊された。 そんな者達の怒り恨みが現在、拉致されてきた2人の王女と生き残った兵士達に向けられています」
イサミは発言している間、ずっと2人の王女達を見つめる。
その眼差しは品定めをしているかのようで、キャミは居心地が悪く直ぐにこの場から立ち去りたいがそんな事は許されない。
今、イサミが発言している出来事は全て自分の王国が行った侵略戦争の結果だからだ。
敵国の王女がエントン王国に居るとなれば、処刑を願うのが普通ではないだろうか。 それに、実際に仲間を殺した兵士達を生かしておく義理等存在しない。
しかし、攻めないと奴隷にされる等のやむを得ない事情を聞いた女貴族達や将兵達からは同情の声が多く。 互いに殺し合ったと云えど、和平が出来るならそれが1番だと云う意見も出ていた。
「大臣ルカがお答えします。 と言いますか、逆にお聞きしたいのですが……お二人の王女の死と生き残りの兵士達の死を請うてる方々は、処刑した後どうするのですか? まさか、キャット王国やドック王国の民達も皆殺しにするのですか?」
ルカの問いは、イサミに向けられたものではない。
イサミに発言させ、自分達の陳情を言わさせている女爵達や将兵達だ。
「え? そ、それは……」
聞かれた殆どの者達が俯き、黙ってしまう。
「もし、そんな事をしていたら我等がマリ女王陛下を処刑したゴルメディア帝国が意気揚々とエントン王国を蹂躙しに来るでしょうね」
「「「「「っ!?」」」」」」
ルカの発言に驚き、思わずたじろいだ。
「はぁ……まさか、そんな事も分かって無いのですか? 今一度お教えします。 そもそもこんな事をしている時間すら惜しいのです!! 早くキャット王国とドック王国との問題を解決し、他の小国群との連携をとれなければエントン王国は滅びるんですよ!」
ルカは机を叩き激怒する。
「確かに大勢が戦死しました。 ですが、民達を1人も犠牲にさせなかった事を守りきった事を戦死した仲間達は誇りに思っている筈です! 恨みを優先させれば、彼等の死は無駄死になるでしょう。 それでいいんですか? もし、本当にそちらの王女お二人を処刑にしないと気がすまないのなら好きにして下さい。 ただし! エントン王国最強の騎士、赤い死神が先に貴女方の首を斬るでしょうけどね」
ルニアがルーデウスと王女達の前に仁王立ちし、腰の剣に手を添える。
本当に王女達を処刑しようと、イサミ派の女爵達や将兵達が動けば即座に首が落ちるだろう。
「ふぅ……ねぇ、貴女達もう分かったわよね? 謝罪しますルーデウス殿下、並びにルニア辺境伯殿と大臣殿。 私も説得したのですが、どうして納得出来ないと。 本当は、この議論の場を作って頂いたのは私だったのですが……何故かメル子爵が代表の様に……」
どうやら本題も何も、そもそもメル子爵は飛び入り参加で右側の席に着いていたようだ。
皆がメル子爵を見ると、コソコソと部下や傭兵達を連れて左側の席に移動している所だった。
「あ~……バレてもうた?」
メル子爵はバツの悪そうな顔をしながら席に着く。
「やれやれ、ではルーデウス殿下。 議論は終わったと言うことで……お願いします」
ルカの合図でルーデウスはキャミとドーラの手を握り、高らかに宣言した。
「我等エントン王国と、キャット王国並びにドック王国は和平を結ぶ!! 遺恨を残さぬように、2人の王女が女王となった後。 婚姻による堅い同盟を結ぶ事とします! よって、生き残った両国の捕虜は即座に解放し治療と復興の手伝いをしてもらう。 よいな! 全ての元凶は我等の女王マリ陛下を奪ったゴルメディア帝国である! 怒り、恨みは全てゴルメディア帝国に向けよ!! 全ての兵士、全ての民に伝えるように!」
「「「「「はっ!!仰せのままに!!」」」」」
その場に居た全ての参加者がルーデウスに敬礼を示した。
こうしてキャミとドーラは処刑を免れ、エントン王国の王城で暫く住むことになったのだが。
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