70 / 231
第68話 爽やかイケメンの最後
しおりを挟む
デランは自宅へと一目散に走る。
重い黒檀の重鎧を物ともせずに全力で自宅へと帰ってきた。 玄関の灯りはついており、異変が無いように思ったが扉が少し開いたままなのに気づき急いで大斧を構えたデランは扉を慎重に開けた。
「ユリ! ソウタ! 良かった、無事か!」
最初に目に入ったのはソウタを抱きかかえた妻の姿だ。 思わずデランは安堵し駆け寄ろうとしたが、青ざめた妻の視線の先を確認するとその光景に固まった。
「あが?! あがぎぎぐ!? ぎぎぎぎがぁぁ!」
苦悶か苦痛か分からぬ程に呻く近衛師団団長カエサルが全裸で座っており。 そして、呻くカエサルの頭に手を突き刺しているのも近衛師団団長の鎧を着たカエサルだった。
「カエサルが2人!? ユリ、どうなっているんだ!?」
思わずデランがユリに問うと、我に返りようやくデランに気付いたユリとソウタが駆け寄ってきた。
「あなた! それが、私達にもわからないの。 突然、玄関に近衛師団の団長を名乗る人が来たと思ったら剣を抜いて襲ってきて……そしたら天井から可愛いメイドさんが降りてきたの」
デランは妻が何を言っているのかさっぱり理解が出来なかった。
「父上、メイドの女の子が助けてくれたみたいなんだ! でも、何かをし始めたら身体が変わって襲ってきた奴と同じになったんだよ!」
息子が言っている事もさっぱり理解が出来ない。
「つまり……今、呻いているのが本物で何かをしているカエサルが元々はメイドだった? いや、すまん……分からん!!」
デランの頭は混乱し、状況を説明されても全く分からない。 とりあえず、先程助けられたメイドの事を考えるとカエサルに変化したというメイドは味方なのだろう。
状況はさっぱりだが、無事だった喜びを3人で分かち合っていると、全裸のカエサルが鈍い音を立てて床に倒れた。
「あ……あが」
頭に手を突き刺された全裸カエサルはそれでも死ねないのか、苦悶の表情のまま小さく呻いている。
「すみません~皆さん。 お待たせしました~、記憶をコピーするのって凄く凄く大変なのです~。 初めまして~エントン王国マリ女王さんから皆さんをお助けするように言われましたサードと申します~。 こう見えてメイドさん何ですよ~?」
鎧を着た方のカエサルが立ち上がり、サードはカエサルの声で何とも力の抜ける挨拶をした。
普段のカエサルを知っていたデランからすると、非常に不気味だ。 爽やかイケメンで、権力を持つ女貴族達からもモテたカエサルは絶対にそんな言い方はしないからだ。
だが、どう見ても近衛師団団長のカエサルにしか見えない。
「先ずは……妻と息子を助けてくれた事感謝する。 だが、すまない……一体全体何が起きてるんだ?」
全裸で倒れるカエサルの方をデランが見ている事に気付いたサードは微笑んで答える。
「はい~、其処のゴミさんですね~。 マリ女王さんが皆さんを無事に逃がす為に~まだ近衛師団団長が居なくなるといけないって言われまして~。 なので~、私が近衛師団団長カエサルになることになりましたの~」
くねくねと動きながらサードは説明するが、見た目はカエサルなのだ。 デランは気味が悪くて仕方がなかった。
「そもそも、何故私達が近衛師団に襲われたのか分からないんだが!? それに……変装が必要なのは分かったがさっきまでしていたのは何だ?」
「はい~、さっきまでのはゴミさんの記憶や性格に仕草等をコピーしていました~。 なので~、これで私が偽物のカエサルと気付ける人間は居ないでしょうね」
会話の途中に突然普段のカエサルと同じ口調になった事にデランは衝撃を受けた。
「あ、あり得ない……だが、確かに佇まいも仕草も口調も同じだ。 先程の光景を見ていなければ、本物だと言われても信じるだろうな」
「ありがとう、デラン殿。 それより、そろそろ移動しようか。 私の仲間が3人の死体を偽装させる手筈となっている。 付いてきてくれ」
完全にカエサルとなったサードが3人を安全な場所へと誘導を促す。
「よろしく頼む、さぁ2人共必要な物だけ持ちなさい。 サード殿、何故このような事になったか、後で説明をお願いしたいのだが」
「当然です。 安全な場所で今後の話をしましょう」
サードに連れられて3人は夜の街に消えていった。
◆◇◆
デラン達が消えて数分後。
デランの自宅にはファーストとセカンドの姿があった。
「もう! 少し前に目茶苦茶な任務をさせたのに、直ぐに帝国に来いだなんて、メリー隊長は人使いが荒すぎるのよ!」
赤髪のメイドファーストが文句を言いながら死んだ近衛師団の兵士の身体を変形させる。
室内にはゴキゴキと嫌な音が響いていた。
デランの息子ソウタの死体を偽装する為にかなり無理矢理に変形させている。
「あらあら、ファースト……大変だったのは同情しますけど、正直貴女が羨ましいのよ? 他の隊員も、殆どエントン王国の城から出さしてもらえないのに……ずるいわ」
茶髪のメイドセカンドも死体を変形させ、デランの妻ユリの死体を作っていた。
「ふ、ふん? そりゃぁ……まぁ、私が暗部部隊で序列1位ですし? 当然と云えば……当然なのかな? えへへ、メリー隊長も私を特別扱いしてくれてるのかな? じゃあ、頑張ろっかな~」
少し煽てただけで機嫌を直した同僚を内心でチョロいと考えていたセカンドは、デランの死体を作るのに適した死体が無いことに気づく。
「ん~……あ! 良いのがあったわ、サードが残しておいてくれたのね。 助かるわ~」
「だ……だずげでぇ……ぐえっ!?」 ゴキッ!
床で死ねずに呻いている全裸のカエサルを見つけたセカンドは、まるで床に落ちた花を摘み取るように躊躇無くカエサルの首を圧し折った。
こうして、本来の未来ではデラン一家を惨殺していた爽やかイケメンカエサルは苦しみ抜いて人知れず死んだ。
重い黒檀の重鎧を物ともせずに全力で自宅へと帰ってきた。 玄関の灯りはついており、異変が無いように思ったが扉が少し開いたままなのに気づき急いで大斧を構えたデランは扉を慎重に開けた。
「ユリ! ソウタ! 良かった、無事か!」
最初に目に入ったのはソウタを抱きかかえた妻の姿だ。 思わずデランは安堵し駆け寄ろうとしたが、青ざめた妻の視線の先を確認するとその光景に固まった。
「あが?! あがぎぎぐ!? ぎぎぎぎがぁぁ!」
苦悶か苦痛か分からぬ程に呻く近衛師団団長カエサルが全裸で座っており。 そして、呻くカエサルの頭に手を突き刺しているのも近衛師団団長の鎧を着たカエサルだった。
「カエサルが2人!? ユリ、どうなっているんだ!?」
思わずデランがユリに問うと、我に返りようやくデランに気付いたユリとソウタが駆け寄ってきた。
「あなた! それが、私達にもわからないの。 突然、玄関に近衛師団の団長を名乗る人が来たと思ったら剣を抜いて襲ってきて……そしたら天井から可愛いメイドさんが降りてきたの」
デランは妻が何を言っているのかさっぱり理解が出来なかった。
「父上、メイドの女の子が助けてくれたみたいなんだ! でも、何かをし始めたら身体が変わって襲ってきた奴と同じになったんだよ!」
息子が言っている事もさっぱり理解が出来ない。
「つまり……今、呻いているのが本物で何かをしているカエサルが元々はメイドだった? いや、すまん……分からん!!」
デランの頭は混乱し、状況を説明されても全く分からない。 とりあえず、先程助けられたメイドの事を考えるとカエサルに変化したというメイドは味方なのだろう。
状況はさっぱりだが、無事だった喜びを3人で分かち合っていると、全裸のカエサルが鈍い音を立てて床に倒れた。
「あ……あが」
頭に手を突き刺された全裸カエサルはそれでも死ねないのか、苦悶の表情のまま小さく呻いている。
「すみません~皆さん。 お待たせしました~、記憶をコピーするのって凄く凄く大変なのです~。 初めまして~エントン王国マリ女王さんから皆さんをお助けするように言われましたサードと申します~。 こう見えてメイドさん何ですよ~?」
鎧を着た方のカエサルが立ち上がり、サードはカエサルの声で何とも力の抜ける挨拶をした。
普段のカエサルを知っていたデランからすると、非常に不気味だ。 爽やかイケメンで、権力を持つ女貴族達からもモテたカエサルは絶対にそんな言い方はしないからだ。
だが、どう見ても近衛師団団長のカエサルにしか見えない。
「先ずは……妻と息子を助けてくれた事感謝する。 だが、すまない……一体全体何が起きてるんだ?」
全裸で倒れるカエサルの方をデランが見ている事に気付いたサードは微笑んで答える。
「はい~、其処のゴミさんですね~。 マリ女王さんが皆さんを無事に逃がす為に~まだ近衛師団団長が居なくなるといけないって言われまして~。 なので~、私が近衛師団団長カエサルになることになりましたの~」
くねくねと動きながらサードは説明するが、見た目はカエサルなのだ。 デランは気味が悪くて仕方がなかった。
「そもそも、何故私達が近衛師団に襲われたのか分からないんだが!? それに……変装が必要なのは分かったがさっきまでしていたのは何だ?」
「はい~、さっきまでのはゴミさんの記憶や性格に仕草等をコピーしていました~。 なので~、これで私が偽物のカエサルと気付ける人間は居ないでしょうね」
会話の途中に突然普段のカエサルと同じ口調になった事にデランは衝撃を受けた。
「あ、あり得ない……だが、確かに佇まいも仕草も口調も同じだ。 先程の光景を見ていなければ、本物だと言われても信じるだろうな」
「ありがとう、デラン殿。 それより、そろそろ移動しようか。 私の仲間が3人の死体を偽装させる手筈となっている。 付いてきてくれ」
完全にカエサルとなったサードが3人を安全な場所へと誘導を促す。
「よろしく頼む、さぁ2人共必要な物だけ持ちなさい。 サード殿、何故このような事になったか、後で説明をお願いしたいのだが」
「当然です。 安全な場所で今後の話をしましょう」
サードに連れられて3人は夜の街に消えていった。
◆◇◆
デラン達が消えて数分後。
デランの自宅にはファーストとセカンドの姿があった。
「もう! 少し前に目茶苦茶な任務をさせたのに、直ぐに帝国に来いだなんて、メリー隊長は人使いが荒すぎるのよ!」
赤髪のメイドファーストが文句を言いながら死んだ近衛師団の兵士の身体を変形させる。
室内にはゴキゴキと嫌な音が響いていた。
デランの息子ソウタの死体を偽装する為にかなり無理矢理に変形させている。
「あらあら、ファースト……大変だったのは同情しますけど、正直貴女が羨ましいのよ? 他の隊員も、殆どエントン王国の城から出さしてもらえないのに……ずるいわ」
茶髪のメイドセカンドも死体を変形させ、デランの妻ユリの死体を作っていた。
「ふ、ふん? そりゃぁ……まぁ、私が暗部部隊で序列1位ですし? 当然と云えば……当然なのかな? えへへ、メリー隊長も私を特別扱いしてくれてるのかな? じゃあ、頑張ろっかな~」
少し煽てただけで機嫌を直した同僚を内心でチョロいと考えていたセカンドは、デランの死体を作るのに適した死体が無いことに気づく。
「ん~……あ! 良いのがあったわ、サードが残しておいてくれたのね。 助かるわ~」
「だ……だずげでぇ……ぐえっ!?」 ゴキッ!
床で死ねずに呻いている全裸のカエサルを見つけたセカンドは、まるで床に落ちた花を摘み取るように躊躇無くカエサルの首を圧し折った。
こうして、本来の未来ではデラン一家を惨殺していた爽やかイケメンカエサルは苦しみ抜いて人知れず死んだ。
17
お気に入りに追加
204
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる