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第47話 予言の巫女を紡ぐ女王

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 メリーが既にエナは手遅れだと首を振った後、マリは泣き崩れる。

 大好きな小説の主人公がこんな酷い目にあっているなんて考えも付かなかった自分を呪い、怒り狂った。

 (私が、私が未来を変えたからなの? 私が正史を歪めたからなの? だから、だから主人公の筈の予言の巫女がこんな目にあったの? )

 マリの心中がぐちゃぐちゃに混ざる。 目指した事もやるべき事も全てが分からなくなる。 

 「ごめんなさいごめんなさい、私のせいなの。 私が未来を歪めたから、だから、幸せになる筈の貴女がこんなに目に。 ごめんなさい」

 「陛下! 落ち着いてください! この者に起こった事は決して陛下のせいではありません!」

 支離滅裂な事を謝り出す主をメリーは必死に落ち着かせようとするが、マリは受け入れる事は出来ない。

 「違うの、違うのメリーさん。全部、全部全部私の「違う……よ?」

 大粒の涙を動ける筈もないエナの指が優しく拭う。

 「エナ……さん……?」

 「私は……貴女を、待っていた……の、がふっ」 最後の力を振り絞るエナの口からは吐血する。

 「エナさん、もう喋っちゃダメだよ!」

 「お願い……聞いて」

 絞り出したエナの言葉にマリは泣きながら無言で頷いた。 これが、エナの最後の遺言になると理解して。

 「私は……貴女を知ってる。 未来を……見た、から。 最初に見た……貴女の未来は、絶望だった。 でも、その……未来は変わった。 変わる筈の無い、未来が……変わったの! ぐっ!!」

 エナは吐血しても喋るのを止めない。

 今、この時の為に堪えたのだから。

 「私が、生きて……救う筈だった世界の未来は、多くの……本当に多くの人が死ぬ。 数十万という……人間、亜人、魔族が」

 マリの背後のメリーが酷く動揺し、持つ松明が大きく揺れる。 しかし、エナに全集中していたマリが気付くことは無い。

 「だから……必要、だったの。 私が……此処で貴女を、待つ事が。 それが……がふっ! 最良の、選択だった。 貴女に、私の……力を渡します。 覚えて……おいて。 未来を、変えれるのは……マリ……だけ」

 エナの命が消えかかり始める。 エナを抱くマリは、エナの体温が急激に下がるのを感じていた。

 「ふふ……大丈夫、よ。 貴女が、選ぶ……選んだ未来は、間違って……無いわ」

 力を無く上げたエナの指先が、マリの頬を擦る。

 そして、優しく微笑んだエナの目が金色に光り、その光がマリの目へと吸い込まれた。

 「陛下?! 大丈夫でございますか!?」

 「……平気だよ、メリーさん。 ありがとう……エナさん。 おやすみなさい」

 エナの身体はもう動く事は無く。

 己が果たす筈だった未来よりも、明るい未来をもたらそうとするマリを選んだ予言の巫女エナが今日……死んだ。

 それは、決して無駄死にではない。

 それは、悲劇では無い。

 この世界に生きる多くの人々を救いたいという、エナが選択し今日まで堪えた結果である。 こうして、未来はあるべき道を大きく外れる。 正史より、幸せな筈の未来へ。

 ◆◇◆

 大砦を無事に出発したマリ達は、馬車に揺られ帝都へと向かっていた。

 「……陛下、お身体は大丈夫ですか?」

 心配するメリーを余所に、マリは窓からの景色を眺めている。

 「ん~? 大丈夫だよ、ありがとう」

 エナから力を紡いだ時から、マリの瞳の色はこの世界で一般的な青色から薄い金色に変わっていた。

 おそらく、未来を見る力の影響なのだろう。

 「左様ですか……それなら、よろしいですが。 もし、出発の際のアバン皇子の事でしたら気に病む事はございませんよ」

 「あはは……うん、色々と凄かったね~。 本当に、呆れた」

 2人が呆れた顔をした件のアバン皇子は、マリ達が出発する際に兵士の制止を振り切り馬車に掴みかかってきたのだ。

 エナを殺したのはお前だと、絶対に殺してやると喚き散らす姿をマリは冷たい目で見ていた。

 暫く暴れたアバン皇子は、マリの瞳を見て急に大人しくなり兵士に連行されて行ったのだ。

 黒騎士団団長デランも呆れ、代わりに必死にマリ達に謝罪するはめになった。

 大砦に居た兵士達と黒騎士団からの信頼や将来の期待等は今回の失態で全て消えた事だろう。

 「少し……考えたのですが。 何故、あの皇子は恋仲のエナさんを助け出し駆け落ちしなかったのでしょうか」

 メリーが心底不思議そうに呟くのをマリは苦笑いで心中で吐露する。

 (あぁ……作中でもかなりのヘタレだったからなぁ。 母親の女皇帝に一喝されて、ひよって……見捨てたんだろう。 でも、もしアバン皇子が助けて駆け落ちしようとしても、きっとエナさんはあの牢屋に残ったんだろうなぁ。 私が……あの大砦の牢屋に入れられる未来を見たから。 きっと、この先で力が必要になるんだ)

 マリの手に力が入る。

 絶対に、絶対に幸せな未来にすると誓って。

 可能なら仲良くなりたかった、大好きだったエナを思いながら馬車の旅は続く。
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