37 / 231
第35話 女王の正体
しおりを挟む
ジャックが城の前に到着すると、辺りは騒然としていた。
「私達を守ると言ってくれた陛下が偽者だったらしいぞ!」
「そんな! じゃあ、城壁の上で戦っていたのは誰なの?!」
「俺は見たぞ……アレはルーデウス殿下だ。 陛下は……俺達を見捨てたのさ!」
「「「「あの陛下が?!」」」」
城の入り口に居た民衆が何やら騒いでいる様だ。1人の兵士の発言からパニックが広がり始めた。
ジャックは直ぐ様その兵士に近寄り、胸ぐらを掴み上げる。
「さて、見ない顔だね。 新人かな? 少し……話を聞いても良いかな?」
「あっ? あんた誰だよ……うぎっ?!」
パニックを引き起こした原因の兵士は、額に青筋を浮かべたジャックに胸ぐらを掴まれたまま城の中へと連行されるのであった。
◆◇◆
城の中にも民が溢れていた為、ジャックは人気の無い倉庫で兵士の尋問をしていた。
「……なるほどな。 状況は把握したが、お前は何故其処まで理解していてあの様な話を民にしたんだ? あぁ?!」
倉庫の壁に押し付けられた兵士は俯き、ぼそぼそと呟いた。
「だって……どうせ此処でルーデウス殿下が手柄を取っても王位に就くことは無いじゃないか。 それなら、女王が逃げたと言えば民の信頼は殿下に向くと思ったんだ!」
本心を打ち明けた若い兵士は己の死を覚悟していた。 女王を排斥し、男のルーデウスに王位を取らせようと企む等、即刻死刑に値するからだ。
「お前……いつ兵士になった」
怒鳴られると思った兵士は、ジャックの優しい声に驚き顔を上げた。
「み、3日前です。兵士に志願する前は、図書館で働いていました」
そう、この若き兵士は図書館に通い勉学に勤しむルーデウス殿下を見てエントン王国の王位に就くに相応しいと感じたのだ。
「ふー……そうか、殿下の聡明さを図書館で見たんだな。 殿下を慕っているからこその判断なんだな?」
「そうです……覚悟は出来てます」
「お前はまだ知らないだけだ……変わった陛下の事を。 お前が排斥しようとしている女王陛下は、南のアーサー男爵の城に向かわれた。 何故か分かるか?」
ジャックの問いに兵士は頭を悩ませる。
「……南に? 北に居た筈なのに、何故? 本当に逃げたなら、北から戻ってくる筈が……」
マリが逃亡した事前提で考える兵士にジャックはため息を吐く。
「はぁ……だからさっき言っただろ、お前は知らない。 殿下があれ程に努力家なのは、姉であるマリ女王陛下の影響なんだよ」
「へ?! そんな……信じれない」
マリがこの場でジャックの話を聞けば、若い兵士と同じく「信じれない!」と叫ぶ事だろう。
「もういい、さっきの答え合わせだ。 陛下が南に向かっているのはゴルメディア帝国を止める為だ。 2国との戦争は明日には終わる……だが、帝国の方が先に援軍として参戦すればエントン王国は滅ぶだろう」
「はは……止めるたってどうやって? はっ! まさか、王族調停をしに?! 馬鹿な、そんな事をすれば女王陛下は……」
王族調停とは、人間が絶滅する程に殺し合わない様に定められた古き法だ。 互いの王族を人質として出し合い、引き換えに平和を手にする。
しかし、現状はエントン王国が非常に不利だ。 それこそ、差し出す王族は女王本人以外にあり得ない。
そんな突拍子も無い話に笑う兵士だったが、ジャックの真顔にこの話が真実だと悟った。
「そんな、そんな事をすればエントン王国の未来が……」
「だから、殿下にお会いしなければならない。 お前、名前は?」
「え? あ……はい、歩兵隊所属のカリーです」
「よし、カリー。 さっきの話を民に広げろ。 盛大にな? そして、殿下からの発表を待て」
「はいっ!! 必ず、必ず広めます!」
走り去るカリーを見送ったジャックは城の上階を見やる。
「さて、これからが正念場……ですかね」
身なりを整え、手紙を持ったジャックはルーデウスの元へと向かった。
◆◇◆
「此処を開けろ!」
「女王は何処なのよ!」
「「「「俺達は見捨てられたのか?!」」」」
女王の部屋の前には多くの民が詰め掛け、扉を叩いていた。
不満や不安が爆発し、民達が暴徒と化すのも時間の問題だろう。
「ここに殿下が居るのか……善良なる民達よ! 退いてくれ!! 女王陛下からの伝言を殿下に届けさせてくれ!」
通路でジャックが叫ぶと、民達は振り向き左右に開けた。
「ジャック殿だ」 「殿下お付きの執事だ」 「女王からの伝言だって?」 「おい! 道を開けろ! 早く!」
開けた通路をジャックは歩みながら民達を説得する。
「すまない、この後殿下からお達しがあるだろう。 どうか、それまで待ってくれ。 女王陛下を信じて欲しい」
先程まで暴徒になる勢いだった民達は冷静になり、静かにジャックが部屋に入るのを見送った。
コンコンコン
「ルーデウス殿下、ジャックです。 御無事ですか? うぉっ?!」
ジャックが名乗ったと同時に扉が開き、部屋へと引き摺り込まれてしまった。
ドッゴォォォォンッ!
部屋の壁へと叩き付けられたジャックは、そのまま床へと落ちる。
「……ぐっ、御無事で何よりです殿下。 それと……執事長」
「お帰りなさいジャック、ごめんなさい止めたのですが」
「じいちゃんと呼べ!! この糞戯け者がぁぁぁっ!陛下をこの戦地へお連れするとは、馬鹿者めがぁぁぁっ!!」
部屋のベッドにはルーデウスが横たわり、すぐ側では医者が懸命に治療をしている。
ルーデウスは怪我を負ったのか、頭に包帯が巻かれ血が滲んでいる。
しかし、様子を見る限り命に大事は無いようだ。
そして、元気ハツラツにジャックを投げ飛ばしたウォンバットは身体中が焼け爛れ執事服の殆どが焼けていた。
「私達を守ると言ってくれた陛下が偽者だったらしいぞ!」
「そんな! じゃあ、城壁の上で戦っていたのは誰なの?!」
「俺は見たぞ……アレはルーデウス殿下だ。 陛下は……俺達を見捨てたのさ!」
「「「「あの陛下が?!」」」」
城の入り口に居た民衆が何やら騒いでいる様だ。1人の兵士の発言からパニックが広がり始めた。
ジャックは直ぐ様その兵士に近寄り、胸ぐらを掴み上げる。
「さて、見ない顔だね。 新人かな? 少し……話を聞いても良いかな?」
「あっ? あんた誰だよ……うぎっ?!」
パニックを引き起こした原因の兵士は、額に青筋を浮かべたジャックに胸ぐらを掴まれたまま城の中へと連行されるのであった。
◆◇◆
城の中にも民が溢れていた為、ジャックは人気の無い倉庫で兵士の尋問をしていた。
「……なるほどな。 状況は把握したが、お前は何故其処まで理解していてあの様な話を民にしたんだ? あぁ?!」
倉庫の壁に押し付けられた兵士は俯き、ぼそぼそと呟いた。
「だって……どうせ此処でルーデウス殿下が手柄を取っても王位に就くことは無いじゃないか。 それなら、女王が逃げたと言えば民の信頼は殿下に向くと思ったんだ!」
本心を打ち明けた若い兵士は己の死を覚悟していた。 女王を排斥し、男のルーデウスに王位を取らせようと企む等、即刻死刑に値するからだ。
「お前……いつ兵士になった」
怒鳴られると思った兵士は、ジャックの優しい声に驚き顔を上げた。
「み、3日前です。兵士に志願する前は、図書館で働いていました」
そう、この若き兵士は図書館に通い勉学に勤しむルーデウス殿下を見てエントン王国の王位に就くに相応しいと感じたのだ。
「ふー……そうか、殿下の聡明さを図書館で見たんだな。 殿下を慕っているからこその判断なんだな?」
「そうです……覚悟は出来てます」
「お前はまだ知らないだけだ……変わった陛下の事を。 お前が排斥しようとしている女王陛下は、南のアーサー男爵の城に向かわれた。 何故か分かるか?」
ジャックの問いに兵士は頭を悩ませる。
「……南に? 北に居た筈なのに、何故? 本当に逃げたなら、北から戻ってくる筈が……」
マリが逃亡した事前提で考える兵士にジャックはため息を吐く。
「はぁ……だからさっき言っただろ、お前は知らない。 殿下があれ程に努力家なのは、姉であるマリ女王陛下の影響なんだよ」
「へ?! そんな……信じれない」
マリがこの場でジャックの話を聞けば、若い兵士と同じく「信じれない!」と叫ぶ事だろう。
「もういい、さっきの答え合わせだ。 陛下が南に向かっているのはゴルメディア帝国を止める為だ。 2国との戦争は明日には終わる……だが、帝国の方が先に援軍として参戦すればエントン王国は滅ぶだろう」
「はは……止めるたってどうやって? はっ! まさか、王族調停をしに?! 馬鹿な、そんな事をすれば女王陛下は……」
王族調停とは、人間が絶滅する程に殺し合わない様に定められた古き法だ。 互いの王族を人質として出し合い、引き換えに平和を手にする。
しかし、現状はエントン王国が非常に不利だ。 それこそ、差し出す王族は女王本人以外にあり得ない。
そんな突拍子も無い話に笑う兵士だったが、ジャックの真顔にこの話が真実だと悟った。
「そんな、そんな事をすればエントン王国の未来が……」
「だから、殿下にお会いしなければならない。 お前、名前は?」
「え? あ……はい、歩兵隊所属のカリーです」
「よし、カリー。 さっきの話を民に広げろ。 盛大にな? そして、殿下からの発表を待て」
「はいっ!! 必ず、必ず広めます!」
走り去るカリーを見送ったジャックは城の上階を見やる。
「さて、これからが正念場……ですかね」
身なりを整え、手紙を持ったジャックはルーデウスの元へと向かった。
◆◇◆
「此処を開けろ!」
「女王は何処なのよ!」
「「「「俺達は見捨てられたのか?!」」」」
女王の部屋の前には多くの民が詰め掛け、扉を叩いていた。
不満や不安が爆発し、民達が暴徒と化すのも時間の問題だろう。
「ここに殿下が居るのか……善良なる民達よ! 退いてくれ!! 女王陛下からの伝言を殿下に届けさせてくれ!」
通路でジャックが叫ぶと、民達は振り向き左右に開けた。
「ジャック殿だ」 「殿下お付きの執事だ」 「女王からの伝言だって?」 「おい! 道を開けろ! 早く!」
開けた通路をジャックは歩みながら民達を説得する。
「すまない、この後殿下からお達しがあるだろう。 どうか、それまで待ってくれ。 女王陛下を信じて欲しい」
先程まで暴徒になる勢いだった民達は冷静になり、静かにジャックが部屋に入るのを見送った。
コンコンコン
「ルーデウス殿下、ジャックです。 御無事ですか? うぉっ?!」
ジャックが名乗ったと同時に扉が開き、部屋へと引き摺り込まれてしまった。
ドッゴォォォォンッ!
部屋の壁へと叩き付けられたジャックは、そのまま床へと落ちる。
「……ぐっ、御無事で何よりです殿下。 それと……執事長」
「お帰りなさいジャック、ごめんなさい止めたのですが」
「じいちゃんと呼べ!! この糞戯け者がぁぁぁっ!陛下をこの戦地へお連れするとは、馬鹿者めがぁぁぁっ!!」
部屋のベッドにはルーデウスが横たわり、すぐ側では医者が懸命に治療をしている。
ルーデウスは怪我を負ったのか、頭に包帯が巻かれ血が滲んでいる。
しかし、様子を見る限り命に大事は無いようだ。
そして、元気ハツラツにジャックを投げ飛ばしたウォンバットは身体中が焼け爛れ執事服の殆どが焼けていた。
25
お気に入りに追加
204
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる