[完結]転生したのは死が間近の女王様!? ~超可愛い弟が王になれるよう平凡な女王が抗う奮闘記~

秋刀魚妹子

文字の大きさ
上 下
32 / 231

第30話 ルーデウスの死闘

しおりを挟む
 開戦より2日が経過。

 城壁を囲むキャット王国とドック王国による攻城戦は熾烈を極めていた。

 「梯子を早く外せ! 弓兵! 休まず射かけよ!」

 エントン王国正門に位置する南門には、敵の主力が攻め寄せていた。

 今も騎士団長ボルガスが、梯子で上がってきた敵兵をバスターソードで切り捨てながら兵達に指示を飛ばしている。

 「ふはははは! どうした畜生共! こんな老執事にも勝てんのか?」

 ボルガスの側では執事長ウォンバットが素手で敵兵を吹き飛ばしていた。 

 「伝令! 東門のメル子爵より! 傭兵部隊損耗3割! 耐えても後1日やで、との事!!」

 「ご苦労! おい、其処のお前! 後方の弓兵500連れて応援に行け!」

 「はっ!! 行くぞお前等!」

 ボルガスの指示で駆けていく兵達をルーデウスは無事を祈るように見送る。

 そう、ルーデウスは開戦後も前線から決して離れなかった。

 既に何度も城壁に上がってきた敵兵に襲われているが、それでもルーデウスが城に戻る事は無い。

 初めての実戦に手が震え、それでも剣を片手に戦っている姿は民を守る立派な王族だった。

 「皆さん必ず援軍は来ます! 皆さんの後ろには守るべき人達が居ます! 決して私達は退きません! 私が皆さんの前に立ち続ける限り希望はあります!!」

 既に汚れ破けた姉の服を着たまま、ルーデウスは敵兵を切り捨てる。

 後ろの弓兵達を守る為に。

 「陛下! あまり出すぎてはなりませんぞ!」

 城壁から新たに梯子で上がってきた敵兵をウォンバットは蹴り殺す。

 「ふぅ……ふぅ……ありがとう、ウォンバット」

 ルーデウスの体力は既に限界だが、エントン王国の兵達もかなり危うい。

 味方1万数千の兵はこの2日で1万を下回ってしまった。当然敵の損害はそれ以上の筈だが、攻勢が緩む事は無い。

 籠城する側が有利な防衛戦で、何故此処まで苦戦を強いられているかと云うと敵の新兵器が原因であった。

 「くそ! ボルガス団長、またアレが来たぞ!!」

 1人の兵隊長が叫ぶ。

 「ぬぅ! また奇妙な兵器か! えぇい、次は梯子を付けさせるな! 矢を射かけぇいっ!」

 城壁に向かって来る、梯子が備われた台車の様な物に味方の弓兵が矢を射かけるが止まる気配は無い。

 この世界での攻城戦では考えられない事が起きていた。

 門を壊す破砕槌兵や歩兵が運搬する梯子をかけての攻城戦が当たり前の世界で、自動で走る台車が梯子を運搬しているのだ。

 これにはエントン王国側は大きく動揺し、初日にかなりの被害が出てしまっていた。

 「ダメです! やはり止められません! 梯子が掛けられました!」

 兵が叫んだ通り、城壁には新たな梯子がずらりと掛けられている。

 しかも、この梯子には鉤爪と鎖が付いており直ぐに外す事が出来なくなっているのだ。

 「くそ!忌々しい! 此方は儂が殺る、近衛兵向かえぇっ!」

 「「「「おう!!」」」」

 歩兵の損耗が激しく、精鋭の近衛兵も前線に投入されている。

 敵が城壁に入り込み過ぎている為、本来の女王を護衛する暇も無いぐらいだ。

 剣を立て暫しの休息を取りながらルーデウスは考える。

 (今、何日過ぎた……? 5日か6日……かな。 まだ援軍は来ない……姉上……決して諦めませんよ、姉上が変えた国は僕が絶対に守ります!)

 「居たぞ! 本当に居たぞ! エントン王国の女王だ、捕らえろ! 」

 「くひひ、捕らえたら褒美は意のままだぞ! かかれーー!」

 近衛兵が止めきれなかった敵兵が女王目当てに走ってくる。

 「私はエントン王国女王マリ!お前達の様なゲスな輩が捕らえられると思うな! 死にたい者からかかって来なさい!!」  

 戦いに疲れ果てても止まぬ闘志を心に、ルーデウスは新たに迫って来た敵に切りかかる。

 ◆◇◆

 時刻は昼を過ぎ、パンと干し肉を噛み千切りながら交代で守備についていた。

 ひと息つける貴重な時間だ。

 しかし、戦争とは予想外の連続である。

 「報告! 南門正面に、奇っ怪な兵器が並んでおります! 」

 「んぐっ! けほっ、ボルガス!」

 「はっ! おい、皆守備につけぇぇっ! 敵が何かしてくるぞぉ!」

 「陛下、後方にて待機を!」

 「けほっ、はい、ウォンバットも気を付けて下さい」

 ボルガスが兵を連れ、城壁の正面に立つと其処には異様な光景が広がっていた。

 巨大な鉄のスプーンの様な物を搭載した自動で走る台車が一列に並んでいる。

 巨大な鉄のスプーンには頑丈そうなヒモが張られており、今にもスプーンが跳ねてしまいそうだ。

 そして、その巨大なスプーンの窪みには燃える火の玉が乗っていた。

 「あれは……まさか、不味い! 皆城壁から離れよ! 急げぇぇぇぇっ!!」

 危険を察知したボルガスが叫ぶと同時に、ルーデウスや兵達の頭上に火の玉が降り注いだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...