[完結]転生したのは死が間近の女王様!? ~超可愛い弟が王になれるよう平凡な女王が抗う奮闘記~

秋刀魚妹子

文字の大きさ
上 下
1 / 231

第1話 プロローグ

しおりを挟む
 龕灯 真理(がんどう まり) は、女性として日本で生まれ、平凡な人生を送っていた。 容姿は美しくも無く、醜くも無い、そんなマリは自分の顔が嫌いだった。

 そして内気な性格のせいから友達も恋人も出来た記憶は無いが、それでもマリの人生は幸せだったと云えるだろう。

 「何故なら推しが元気をくれるから!」

 家に引きこもり、幼少期からオタク街道まっしぐらだったマリは様々な小説を読み漁りひたすら知識を蓄えていた。そして、オタ活をしながら幸せな日々を送っていたある日……会社の飲み会で全てを失う事となるのだ。

 「す、すみません部長。 私はお酒は……」 

 居酒屋の席にて、既に出来上がった上司にマリはウザ絡みされていたが残念ながら周囲の同僚は助けるつもりは無いようだ。

 「おいおいマリちゃん。 飲んで無いじゃないの! ひくっ、ダメだよぉ周りが白けちゃうでしょ~? ひくっ」

 禿げ頭の部長はあろうことか、酒を並々注いだコップをマリの口に押し当て喉奥へと流し込ませた。

 「ちょっ!? まっ……ぐびぐびぐびぐび」

 ゴクゴクゴクゴクゴクゴク

 禿げ頭のパワハラ上司に無理矢理酒を飲まされ、マリの意識は混濁し理性は何処かに飛んでいってしまう。

 「なぁんだ、飲めるじゃないのぉ~!」

 飲まない部下が苦手な酒を克服したと、勘違いした禿げ頭は笑顔で喜ぶ。
 まるで、良い事をしたかのように。しかし、当然ながらマリからしたら堪ったものではない。

 「うぅぅるさぁいっ! ひくっ、この禿げ親父! 飲めないって断ってる奴に酒を飲ますな!ひくっ、馬鹿ですか? 私が急性アル中で倒れたらどうするんですか? 責任取れますか? ひくっ、取れねぇだろうが! この禿げ!」

 顔が真っ赤になり理性が吹き飛んだマリは据わった目で禿げ頭を睨み付け、普段から抑えていた想いが雪崩の様に口から溢れだす。

 「な、ななな! なんだ君は! し、失礼だろ!」

 突如、部下に怒鳴られた禿げ頭は動揺しながらも上司としての権威を振りかざす。
 酔っ払いにそんな物が通用する筈も無いのだが……。

 「なぁにが、失礼だ! 失礼なのは部長の方でしょぉが! ひくっ、それに……普段からされてる行い法律違反だらけですよねぇ? パワハラ、セクハラ、マタハラ、部下への飲酒強要! 上げたらきりがない! ひくっ、なにか? 全部上に報告して、クビにしてもらいましょうかぁ?」

 部長はマリのマシンガン告発トークに一瞬で酔いが冷め、顔を青ざめながら土下座で謝り始めた。 

 「すまん、許してくれ! この通りだ! すまん、すまん!」

 マリは土下座する部長の頭を鷲掴みにし、周囲を見渡す。

 「あんたらも止めなさいよ、同僚が無理矢理酒を飲まされてんでしょ?! そういう所だぞ男共! ひくっ、気分が悪いので私は帰ります」

 鷲掴みにされていた部長はその場で項垂れてしまったが、マリはそれを無視して居酒屋を出ていく。

 こうして、マリは初めての泥酔で上司をフルボッコにしてしまったのであった。 

 「ったく、これだから強制参加の飲み会は嫌いなんですよ! ひくっ、早くお家に帰って推しを堪能するんだ~♪ ランランラ~ン♪ ひくっ、おろ?」

 おぼつかない足どりで、帰宅している途中マリは道路に向かって転倒してしまう。別にマリは運動神経が悪い訳ではない、しかし初めての泥酔がマリを死へと誘った。

 倒れたマリは立つことが出来ない、歩くだけで足がおぼつかないのだ直ぐに立てないのも仕方ないだろう。

 混濁する意識の中、顔に当たるトラックの光がマリの意識を走馬灯へと導いた。

 (あ……これ、ダメなやつだ。 あはは……泥酔して道路に倒れ、トラックに引かれて人生終了? ラノベでも見たこと無いよ?)

 時間にして一瞬の刹那に、マリの脳は高速で回っていた。俗に言う走馬灯である。

 (本当にゆっくりなんだ。 あぁ~……願わくば、あの小説もう一周しときたかったなぁ……。 あと、推しカプの同人誌だって書き終わって無いし……あぁ……もうすぐ死ぬんだ)

 ゆっくり、ゆっくりとトラックがマリに近付く。

 (ねぇ、信じて無いけど……神様。 次に生まれ変われるなら、私……あの大好きな乙女小説みたいな人生を送りたい! 推しと同じ空気を吸えて、恋人も出来て、パワハラ上司が居ない、そんな世界で生きたい。 生きたいよぉ……神様)

 マリが心から願った瞬間、マリの人生は幕を閉じた。

 そして、マリの新たな物語が始まる。

 ◆◇◆

 「痛たたた……これが二日酔いなのね」

 いつの間に自宅に帰って寝たのか、マリが目を覚ますと同時に強烈な頭痛が襲ってきた。しかし、それ以上に衝撃的だったのは、ゆっくり目を開けると其処は知らない天井だったのだ。

 「……知らない天井だ。 え……ここ、何処? いっ……まさか、ラブホ!?」

 泥酔してる時に悪い男にお持ち帰りされたのかと起き上がるが、どうやら違う様だ。 まず部屋の家具が豪華過ぎる。

 煌びやかな装飾品に彩られたテーブルや椅子に壁もえらく高そうな壁紙が貼ってある。

 寝ていたベットも、映画や漫画でしか見たことの無いお姫様ベットだ。

 「うお……24歳の私にはキツくないか? あれ? 声が……あー、あー?」

 感想を呟いていると、自身から発せられた声の高さに驚く。

 (知っている自分の声と違う、まさか泥酔したせい?)

 起き上がり、ベットから下りる。その時に、ようやく視点が低い事に気付いた。
 
 「え? なにこれ、縮んでる? どうなってるの? あ、鏡鏡!」

 マリは部屋を見渡しこれまた豪華な化粧台に向かい、鏡を見る。

 「……!? 誰だ……これ」

 其処には、記憶のマリは居なかった。
 
 黒髪でボサボサ頭もしてない、日本人の平均的な顔もしてなかった。

 鏡には、綺麗な金髪をした美少女が立っている。 年は16程だろうか。

 「は、はは……夢、だよね? だって、私は昨日……昨日? 」

 昨晩の出来事を思い出す。

 「そうだ、私……酔って、部長をフルボッコにして……そして、死んだんだ」

 (アレは夢じゃない、じゃあ……これは?)

 コンコンコンッ!

 混乱の最中、ドアがノックされる。

 びくっ! (だ、誰……? )

 マリは恐怖で身体が動かない。

 「マリ様、お目覚めですか? 執事のジャックです。 準備がございますので、お早めに……マリ様?」

 若い声の主は、返答が無いことを不審に思っているようだ。

 (どうする? どうする私! っていうか、こんなに見た目も顔も違うのに名前一緒なの?!)

 マリがあたふたしていると、扉の向こうの声が焦り始める。

 「マリ様、大丈夫ですか! メイド長を呼べ!! マリ様の御様子がおかしい!」

 扉の向こう側が慌ただしくなる。

 (ぎゃぁぁぁ、やめてぇー! 大事にしないでー! 本当になんなのコレ、お願い夢なら覚めてー!)

 マリが心から願った直後、容赦なく扉が開け放たれる。

 「姉上! ご無事ですか?!」

 マリの部屋に入ってきた人影は想像より小さく、執事というよりは子供だ。

 「ルーデウス様、お待ちを!」
 「殿下! お待ち下さい!」

 その後ろには、20代と思われるイケメン執事ともう少し年上そうなメイドが子供を静止していた。

 だが、マリはそんなイケメン執事に見惚れる事は無い。何故なら、扉を開けて入ってきたのは……超絶に可愛い男の子だったからだ。 マリの超絶ストライクゾーンである。

 「え、尊……ちが、え? さっき、ルーデウスって……えぇ!?」

 (サラサラな金髪、キリリとした眉、クリクリの母性をくすぐる瞳、国宝級のイケメン!!)

 戸惑う主人マリに近付くルーデウスを、執事ジャックとメイド長メリーはハラハラしながら見ていた。

 それもその筈、幼少の頃からマリは何故か弟のルーデウスに冷たく。 いつも、心無い言葉をぶつけていたからだ。

 弟ルーデウスの優しい気持ちは確かなもので、邪な心は微塵も無いとジャックとメリーは確信している。だからこそ、また姉のマリに傷つけられる所を見るのが辛いのだ。

 「姉……上? やはり、お父様やお母様のようにどこか体調がよろしく無いのですか?」

 ルーデウスは戸惑う姉の側にゆっくりと近付く。今まで何度も慕う姉に傷つけられてきたのだ。

 だが、ルーデウスの歩が止まる事は無い。
 
 また、振り払われてもいい。
 また、冷たくされてもいい。
 ただ、ただ……心配なのだ。

 ルーデウスにとって、家族はもう……マリだけなのだから。

 「……ル」

 「!? はい、姉上! ルーデウスです、大丈夫ですか?」

 名を呼ばれた気がして、ルーデウスがマリの直ぐ目の前まで駆けて行ってしまった。

 そして……。

 がばぁぁっ!
 「ルーたんだぁぁぁぁ! ルーたんの、幼少期? え? 待って、死ねる。 凄い! 凄い凄いっ! 私が想像してたイメージそのまま! 絶対将来、超絶イケメン確定演出大草原不可避!  すーーーーーはーーーーっ! 空気が! 推しと同じ吸う空気が美味しい! きゃーー! 」

 ルーデウスにマリが抱き付き、突然大喜びしだした。

 「え、ちょっ……姉上。 くすぐったいです」

 「あ! ごめんね、あぁぁぁぁぁ!! 可愛いぃぃぃぃ! 国宝! もう!! これは国宝です! 宝物庫に仕舞わなきゃ!」

 我慢出来ず、ルーデウスの頭を撫で繰り回す。

 「えぇ……姉上? 僕は弟のルーデウスですよ? 国宝では無いですよぉ」

 扉の前では、ジャックとメリーが唖然としてその光景を見ていた。

 長年、弟を冷遇していた姉が別人になったかのように可愛がっているのだ。信じられないのも無理は無い。

 「あ~、コホンッ! マリ様、その辺で……ルーデウス様が目を回しておられます」

 「え!? あ、ごめんねぇぇぇ! 推しに何て事を! 大丈夫?! ルーたん大丈夫!?」

 頭を撫で繰り回されたルーデウスは、目を回していたがその表情はとても明るい。

 「あはは……ごめんなさい。 ちょっと、テンション振りきっちゃって。 えっと~……それで、あなた方は?」

 「はぁ……しっかりして下さいませ、マリ様! 貴女様が幼少の頃よりお仕えしている執事のジャックでございます!」

 怒りながら自己紹介したのは、黒髪でイケメン執事だ。 右目に丸眼鏡をしているのが、まさにそれっぽい。

 「ふふ、でも……なんだか凄く嬉しそうよジャック。 改めましてマリ様、メイド長のメリーです。 思い出して下さいましたか?」   

 おっとりしたメイド長さんは、ピンクのツインテールが凄く可愛い。 そして、デカイ。 何とは言わないがデカイ。 メロンか!

 (いいえ、全然)

 とは、言えない雰囲気の中、マリは高速で頭を回転させて考える。

 (待って、これは夢じゃない。 そして、ルーたんの幼少期が居るってことは……私、乙女小説の世界に転生したんだ! やったーーー! きゃっほー! 推しの姉になれるとか、どこの同人ですか? どこで買えます? いやいや、違う……ここが乙女小説の中だとして……私は誰だ?)

 「では、マリ様。 メリーに着替えをして頂き、直ぐに参りましょう」

 (え? 何処に? あれ……知ってる。 知ってるよ!? ルーデウスの裏設定資料で読んだ。 主人公の予言の巫女と出会った時のルーたんは、酷く弱ってるんだけどその理由が……暮らしてた王国が滅びたから)

 マリの脳内では、培ったオタク知識が高速で回転する。

 (ルーたんの両親は亜人差別をしていて、奴隷にしてた。 2人が急死した後に……姉が即位。 でも、姉も酷い差別主義者で……1年後に原因不明で死去したんだ。 だから、国が滅んでルーたんは数年1人彷徨ってたんだ! ってことは……もしかしてですよ? その姉って……)

 「ね、ねぇ……ジャックさん。 ちなみに、準備したら何処に行く感じかなー?」

 「さ、さん? マリ様、本当に大丈夫ですか? しっかりして下さいませ、今日は大事な女王即位の日ではございませんか」

 「ちなみに……それって、私じゃないよね?」

 「「??」」
 
 ジャックとメリーが、コイツは何を言っているんだという顔で見合わせる。

 「いいえ、マリ様です。 即位、おめでとうございます。 マリ女王陛下」

 「はぁぁいっ! オワターーーーーー!!!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...