上 下
190 / 196
第六章 赤髪のクウネル編

第184話 第2回お母さんと私の質問ターイム

しおりを挟む
 ◆黒髪のクウSide◆

 「ありがとう、もう大丈夫よ」

 母はようやく泣き止み、クウは照れながら離れる。

 「ん、なら良かったよ……その、あはは」

 「クウちゃんは優しいね……。 そうだ! 火事を消さなきゃ。 ちょっと離れててね」

 母から黒色の靄が溢れ出すと、周囲の眷属達も一斉に後退して距離をとり始めた。

 「え? なに? なにが起きるの?」

 「よいしょっ! 暴食の食卓!!」

 母が両手を燃え盛る家に向けると、一瞬で家が元に戻りクウは目を見開いて驚く。

 倒壊した瓦礫どころか焼けた屋根も、真っ黒な壁も、空を覆う黒い煙すら跡形もなく消えたのだ。

 「……は? ……え?」

 復元等と云うそんな次元では無く、が消えてしまったかのようだった。

 クウが驚いている間に、周囲の眷属達は何事も無かった様に普段の生活に戻り消防士達も撤収を始めた。

 すると、1匹の消防士がクウを見つめて立ち止まる。

 「あ……多分、私がぶん殴った消防士かも」

 クウが謝罪の気持ちを込めて会釈をすると、許してくれたのか直ぐに消防車に乗り込みそのまま去った。

 「本当にすみませんでしたー!」

 走り去る消防車に謝っていると、エプロンを付けた眷属が何やら近寄り奇声を上げる。

 「ゴルギャ、ゴルギャギャギャギャ」

 「あ、田所さん。 本当にお世話になりました、ありがとうございます!」

 「ゴルギャギャ~」

 田所は気にするなと云わんばかりに触手を振って、直ぐ隣の家に向かう。 玄関には田所の子供なのか、小さな丸い眷属が跳ね回っていた。

 「ん……? あの小さな眷属見たことあるぞ? 何処だっけ? ダメだ、思い出せん」

 「ふ~~、クウちゃんお待たせ。 家に入って休みましょ、お母さんもう身体も精神もクタクタよ~」

 母が放り投げた買い物袋を回収し戻って来た。 クウは首を傾げながら返事をし、母と共に自宅へと戻る。

 「ん、わかったよお母さん」

 「……大丈夫?」
 
 「大丈夫、ちょっと思い出せないだけだから」

 ◆◇◆

 クウと母が家の中に入ると本当に全てが元に戻っており、台所にも行ってみると飛び散ったホルモンの後も無く綺麗なままだった。

 クウと母は居間の椅子に座り一息つく。

 「良かった~……。 もう、二度とホルモンは焼かないぞ! ねぇ、お母さん。 火事で倒壊した家を戻したのはどうやったの?」

 「あらあら、えっと~……さっきのはお母さんの権能なんだけど、多分クウちゃんも使えるようになるわよ?」

 「え?! 本当に!?」

 「ふふっ、本当よ~。 なんたって、クウちゃんはお母さん暴食の邪神の娘なんだもん」

 「いや、えっと……うん、照れるやん」

 喧嘩し、仲直り出来た後に改めて娘だと言われたクウは顔を赤くし俯いた。

 「照れるクウちゃんも可愛いわねえ♪」

 「や、やめてー! で、で?! 権能ってなに!?」

 「はいはい、えっとね~……権能は専門の神が使う専用スキル的な?  創造神なら万物を創れるし、軍神なら自分の軍隊を創れるのね」

 母からの説明を聞き、クウは納得する。

 「なるへそね。 じゃあ暴食の邪神のお母さんは食べる専用スキルが有るってことか」

 「ええ、そうよ。 暴食の権能は、全てを食べる事。 それは物だけじゃないの。 時間や概念、記憶や事実もね」

 「すっっご! え、じゃあさっきの火事は……」

 「火事が起きた事実と、時間を食べたの。 だから、無かった事になったのよ」

 母の言葉にクウは驚き椅子から立ち上がった。

 「待って、待って! ってことは、その権能を私が使えるようになったら……巨人の祖父と両親が死んだ事実も無かった事に出来るってこと?!」

 興奮するクウは気付かない。

 母が少し表情を曇らせた後に、寂しそうに微笑むのを。

 「……ごめんなさい、期待させたわね。 時間が経過し過ぎたのは無理なの」

 「……そっか。 そうだよね、そんな……都合良くいかないよね」

 クウは自分でも驚く程に落胆し、力無く椅子へと腰掛けた。

 「それでも、この権能を使用できる様になったら便利なのは事実よ? 誰かの死を無かった事にするのはまだまだ無理だけどね」

 「確かに! ちなみに、その権能はどうやって覚えるの?」

 「あら? もう、クウちゃんには切っ掛けになるプレゼントを上げたわよ? ほら、暴食の大口」

 クウはモロの住処である洞窟近くの湖で放ったスキルの事を思い出す。
 
 「あ、あぁー! あれか、いや危険すぎて無理だよ。 一回だけ使ったけど、湖の水が全部消えたし私のFPも空になったから普段使いするのは無理かな~」

 「ふふ♪ 田所さんの息子君が喚んでもらたって大喜びしてたから、きっと嬉しすぎて我を忘れちゃったのね」

 母の言葉に、先程見た小さな眷属を思い出したクウは手を叩いて納得した。

 「そうだ! あの時の口だけお化け、さっきのあの子か! 思い出したよー! あれ? 待てよ? でも、暴食の大口の鑑定結果では暴食の邪神の口を召喚する的な説明文じゃなかったっけ?」

 「あってるわよ? 眷属達は、お母さんの一部だから。 正確には、お母さんの底無しの空腹を和らげる為に眷属達の胃袋とお母さんは繋がってるの。 だから、暴食の大口を使用すると眷属の誰かが召喚される仕組みね」

 「ほー……なるへそね。 じゃあ、その暴食の大口をたくさん使えば出来る事が増える感じ?」

 「概ねあってるわ~。 それと、もっとたくさん食べて強くならないとね」 

 クウは母からの説明を一通り聞き、元の世界に戻った時にやるべき事を見つけ必ず使えるようになると意気込む。 

 本当にその権能を使いこなせる様になれば、大切な誰かを失わないで済むからである。

 「あいあいさー! 向こうに戻ったら使ってみるよ。 そっかぁ、自分で食べて強化もしないといけないし暴食の大口も使わないといけないのか、大変だな」

 「ふふ、ゆっくりね。 そうだ! 昨日の続き……聞いてくれるかしら? お昼食べながらでいいから」

 「ん、もちろんだよ~。 それと……昨日はごめんなさい」

 「そんな! いいのよ、お母さんの伝え方が悪かったの。 でも……仲直りできて良かった」

 優しく微笑む母を見て、クウも嬉しくなり笑った。

 「うん、私も仲直り出来て良かったよお母さん」

 クウはまだ気付かない。

 自分の何かが変えられている事に。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...