上 下
189 / 202

第183話 焼き鳥にしてやんよ

しおりを挟む
 ◆赤髪のクウネルSide◆

 「はっ! ほっ! やぁー!!」

 クウネルは八咫烏を追い掛け、岩山を全力でかけ登っていた。

 (さっき頂上からモロの悲鳴が聞こえた気がする。 急がないとヤバいかも……っていうか、この岩山デカ過ぎ! 上の方は霧で全然見えないし……いや、これ霧じゃなくて雲? 標高やばくない? 大丈夫そ?)

 急な斜面の岩山をクウネルはハルバードの柄を岩に突き立て、頂上を目指す。

 「キュウベイ! このまま雲に突っ込むから、頂上に着いたと同時に戦闘開始ね!」

 「へい! モロ殿が無事だと良いのですが……」

 キュウベイは大弓を構え、敵襲に備えていた。

 「大丈夫、きっと大丈夫。 気配察知は……反応が結構あるのよね。 ……多分、20羽かな?」

 «――訂正。 27羽です»

 (細かい数字まではどうでもいいよー! モロは? まだ無事なの? 私には、気配が沢山有るとしか感じられないのよ)

 «――疑問。 不可思議ですが、モロの気配に異変はありません。 まだ戦闘になっていないと推測。 直ぐに応援に行けば間に合うでしょ――危険! 2羽此方に向かって来ます!!»

 鑑定からの警告と同時に雲の中から2羽の八咫烏が鋭い爪を構えながら猛進してきた。

 「「カァァァ!!」」

 「キュウベイ敵襲!」

 視界に入ると同時にハルバードを振り抜き、キュウベイに警告する。

 「速射!! 」

 「「ガァァァァ!?」」

 クウネルが振り抜いたハルバードは八咫烏を真っ二つにし、キュウベイから正確無比に放たれた矢が残りの八咫烏の額を貫き頭部を粉砕させた。

 キュウベイに射られた1羽の八咫烏の死体が斜面を転がり落ちていく。

 「あー……焼き鳥が。 まぁ、ここに1羽あるし……後で焼いて食べよっと。 にしても、キュウベイの判断は超早かったね。 やっぱりキュウベイはカッコいいなぁ」

 クウネルはハルバードに付着した血糊を飛ばし、キュウベイは矢の数を確認する。

 「すいやせん、姉御。 倒しやしたが、もう矢を1本失いやした」

 「あ―……貫通して空に飛んでったもんね。 いいよ、まだ幾らか残ってるんでしょ? 大丈夫大丈夫~! それより、いきなりでびっくりしたね」

 (今の私はアイツみたいに食べて回復も出来ないし、なるべく負傷しないようにしなきゃな)

 「……へ、へい! 姉御に怪我が無くて良かったです」

 キュウベイの優しい笑顔を見たクウネルの心臓に見えない矢が突き刺さる。

 (くはっ! もう……もう! ……好き!!)

 «――咳払い。 クウネル、モロを助けに行くべきでは?»

 鑑定からのツッコミにクウネルは赤面し、心の中で怒った。

 (う、うるさい! だから、乙女の心を覗かないでってば! 分かってるわよ! それに、カラスの死体を鑑定しとかないといけないでしょ? 頂上に行ってから、未知の攻撃で返り討ちに合うのは嫌だからね)

 «――驚愕。 赤髪のクウネル、やはりちゃんと成長してるんですね。 何度も鑑定しろと言っていた甲斐が有りました»

 (だ、だぁー! もう、うるさい! 私の事馬鹿にしてるでしょ?! ふー……よし、鑑定!)

 ステータス画面

 種族 ジャイアント クロウ

 年齢 11

 レベル 80

 HP 0/5500

 FP 1950/2000

 攻撃力 4000

 防御力 5000

 知力 15000

 速力 18000

 スキル 飛行Lv5. 隠密Lv3. 魔物食らい. 魔物殺し. 大物食い

 魔法 風魔法Lv4

 戦技 嘴突貫Lv4. 切り裂きLv6

 状態異常 飢餓 死亡

 (……ん? なんか弱くない?)
 
 クウネルは表示された八咫烏のステータスを確認して首を傾げる。

 (この速力なら、余裕で追い付けた筈だよね? 鑑定、何か分かる?)

 «――了解。 思考中――判明。 この襲ってきた八咫烏は、モロを連れ去った八咫烏とは別の個体です»

 (うん、それはそうでしょうよ。 他には?)

 «――不明。 現在で分かる事はモロの得意な風魔法を八咫烏も使用する点です。 急がないと、モロが戦闘になれば劣勢になる恐れが有ります»

 (分かった、ありがと!)

 八咫烏のステータスが分かったクウネルは急ぎキュウベイと情報を共有する。

 「キュウベイ、この八咫烏はモロを連れ去った個体じゃない。 多分、もっと強いのが居る。 それと、風魔法を使うみたいだから用心しといてね」

 「へい! さすが姉御です、死体を見ただけでそこまで分かるなんて!!」

 「う……うん! でしょ? よーし、モロを助けに出発だー!」

 キュウベイに褒められクウネルは満更でもない様子で照れる。 実際はスキル鑑定のおかげなのだが、キュウベイに褒められるなら何でも良いやとクウネルは誤魔化した。

 «――呆れ。 貴女がそれでいいなら、いいのでは?»

 (もう、何も言って無いじゃん! 説明するのも面倒だし、時間が無いでしょ?)

 «――はぁ、了解»

 クウネルは鑑定を黙らせ、ハルバードを持ち皮袋を背負い直す。

 クウネルが仕留めた八咫烏は残念だが、今は置いていくしか手段は無く。 泣く泣く死体を岩の上に放置する。

 「くそ! そもそも皮袋が邪魔! でも秘薬玉と猪肉が詰まってるし。 置いて行くわけには行かないよね……うわーん! 私の焼き鳥が~!」

 「姉御、帰りに回収しやしょう!」

 クウネルとキュウベイは頂上を目指してまた岩山を登るのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おじさんが異世界転移してしまった。

月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...