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第173話 仇討ち

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 ◆赤髪のクウネルSide◆

 雷雨の族長と別れてから草原を暫く進み、2つ目の森を越えた所で気配察知に反応が出た。

 「キュウベイ、この先に沢山の気配がする」

 「……へい、目的地に到着ですね。 どの様にしますか?」

 クウネルはビックボアに気付かれない距離で作戦を立てる。

 (一匹も逃がしたくないから……戦闘と同時に逃げれないようにしたいな。 鑑定、何か良い案ある?)

 «――是。 群は固まっています。 バラける前に土魔法で壁を作り 囲むのを推奨。 そして、キュウベイには射線を確保出来る塔を建てて狙撃させましょう»

 (ふーん……やるじゃん。 なら、そうする……ありがと)

 「キュウベイ、作戦は決まったよ。 先ずは……」

 クウネルはキュウベイに作戦を説明するのであった。

 ◆◇◆  

 拓けた草原に瓦礫の山が見えてきた。

 「あれが、街跡地か……。 本当に大きい街だったんだね」

 城壁は殆ど崩れ、木や石で出来ていたであろう家々は完全に瓦礫と化している。

 そして、瓦礫の上を我が物顔で闊歩する大きな魔物が約40体程密集していた。 クウネルからすると、普通サイズの猪が群れているだけだがゴブリンからすれば家程の大きさに感じるだろう。

 「キュウベイ、向こうが気付いてない内に土魔法で囲むね。 狙撃する塔は直ぐに建てる? 後でも良い?」

 「気付かれる可能性を考えると、後の方がよろしいかと」

 「ん! じゃあ、行くよぉぉぉぉ! 土魔法発動ーーー!」

 「へい! 必ずお守りします!」

 クウネルはキュウベイを肩に乗せ、一気に距離を詰めてから土魔法を発動した。

 「「「「「「フゴォッ?!」」」」」」

 ビックボア達は突如現れた自身よりも大きな生き物に驚き、逃走しようと走り出したが直ぐに分厚い壁にぶつかった。

 円を描くように地面から盛り上がった土壁により、完全に囲い込む事に成功したのだ。

 「よし! 全部囲ったよ! えっと……塔、塔、塔!」

 次にクウネルは塔を建てた。

 しかし、イメージが上手くできなかったのか黒髪のクウネルが建てた塔に比べ、ただの石や土の盛り上がった土台しか出来ずにクウネルは顔を顰める。

 (何これムズすぎでしょ! アイツ、どうやってあんな複雑なの建てたの!? 意味分かんない!)

 「姉御! 大丈夫です、充分ですから!」

 クウネルは出来栄えに納得していない様子だったが、キュウベイは颯爽と肩から飛び上がり土くれの土台に降り立った。

 「ブゴォォォォォ!!」

 土壁を破壊出来ないと悟ったビックボアの1体がクウネル目掛けて突進して来た。

 「あぁぁぁ、腹立つーー! 何でアイツに出来て私には出来ないのよーー!!」

 ビックボアを素手で抱え込み、ステータスの力任せに首の骨を叩き折る。

 「ブギッ?!」

 「姉御! 他のも向かってきます!!」

 土台の上からキュウベイが狙撃を開始し、街の瓦礫を吹き飛ばしながら向かって来ていたビックボアを2体同時に射殺す。

 額から矢を生やしたビックボアは即死し、そのまま転がるようにして倒れる。

 「キュウベイ、超カッコいいーー! 私も負けてられない!」

 足下に落ちていた大きめの瓦礫を握りしめ、向かって来るビックボアの額に叩き付ける。

 「ブギィィィィッ?!」

 額を瓦礫ごと粉々に粉砕されたビックボアは悲鳴を上げて地面へと突き刺さった。

 「次ーー!」

 「このまま全て倒しましょう!」 

 ◆◇◆

 順調に数を減らし、残り数体に差し掛かったたその時。

 「あが?! いったーーーーい!」

 「姉御!? 大丈夫ですか」  

 クウネルの悲鳴にキュウベイは焦るが、ただビックボアが背後から足に体当たりしただけだ。   

 「ごめーん! 衝撃に反応しただけで、全然痛くないよ~」

 無傷のクウネルは、キュウベイに心配された嬉しさでニコニコ笑いながら体当たりして来たビックボアを蹴り殺す。

 「ほっ……良かったです。 でも、気を付けてくだせぇ!」

 「ふふ、も~キュウベイは心配性何だから~」

 周囲にはビックボアの死体が山となり、残すは後1体のみとなった。 しかし、そのビックボアは何処か様子がおかしい。 他のビックボアの毛が茶色に対し、そのビックボアだけは灰色で身体も一回り大きかった。

 「ふん! 何よあの大猪。 仲間が殺られてるのに、結局最後まで近寄って来なかったわね」

 「姉御、俺が狙撃で仕留めましょうか?」

 「ん~……いや、私が殺るよ。 少しでも経験積みたいし」

 «――警告。 最後の1体は他のビックボアとは気配の強さが違います。 念の為に鑑定をする事を推奨»

 脳内に響いた鑑定からの忠告にクウネルは一瞬逆らおうかと考えたが、以前の失敗を胸に大人しく従う事を選択した。

 「……分かった。 鑑定!!」

 ステータス画面

 種族 深淵大猪 アビスビックボア

 年齢 66

 レベル 400

 HP 120000/120000

 FP 30000/30000

 攻撃力 80000+20000

 防御力 22000

 知力 950

 速力 80000+20000

 スキル 匂い察知LvMax. 土耐性Lv3. 魔物食らい. 魔物殺し. 大物食い. 穴堀Lv5. 深淵の森に住む者

 魔法 無し

 戦技 噛み付きLv6. 突進LvMax

 状態異常 巨大化の実の恩恵

 (はぁ!? なによ、このステータス! アイツが戦ってた地竜よりも、こんな大猪の方が強いの?!)

 «――脅威。 恐らく、生態系の狂いが遠く離れた深い森にまで及んだのでしょう。 以前、ゴブリン王国を襲った大猪より上位の魔物と推測します»

 (なるほどね、だからか……。 ん……? 巨大化の実?)

 鑑定の推測を聞き、クウネルは納得する。 そして、状態異常の欄に目がいった所で鑑定からの忠告が脳内に響いた。

 «――忠告。 今は仕留める事に集中しましょう。 このステータスの高さは危険です。 もし土壁を突破され、ゴブリン王国に向かえば城壁で防げてもゴブリン達に多大な被害が出ると予測»

 (そ、そうだよね。 よし、どうしたらいい?)

 «――計算開始。 ――終了。 速力からして、逃げられる可能性大。 まず、土魔法で大猪の足を固定して下さい。 今の貴女なら土耐性を持っている相手でも少しの間なら止められます。 その後は、キュウベイに額を撃ち抜かせそれでも仕留めれなければ……»

 (なければ……?)

 «――思いっきり噛み付いて下さい。 本来なら、それだけで即死させれるステータスを貴女は持っています»

 (げー……マジ? うぇー! 竜なら美味しいからいいけど、猪よ? 生きた猪に噛み付いて殺すの?!) 

 鑑定からの提案に顔を顰めていると、好機と見たのかアビスビックボアはクウネル達と真反対に向けて凄まじい速度で走り出した。

 「姉御! ビックボアが!! 追います!」

 クウネルの実力を見極め、勝てないと判断し逃走を選択したのだ。 キュウベイは土台から飛び降り、走り出したアビスビックボアを追いかける。

 キュウベイの方が速力は桁違いなので、直ぐに追い付けるだろう。

 しかし、キュウベイは相手が普通のビックボアじゃないとは知らない。 ステータスでもキュウベイの方が強いが、万が一を考えると単身で追わせるのは危険だろう。

 «――警告。 急がないとキュウベイが危険ですよ»

 「あーー! もーーーー! 分かったわよ!」

 クウネルも急ぎ、キュウベイを追うのであった。
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