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第六章 赤髪のクウネル編

第172話 ゴブリンの復讐

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 ◆赤髪のクウネルSide◆

 クウネルは瞬く間にゴブリン王国に到着してしまい、キュウベイと親睦を深める暇すら無かった事にため息をついていた。

 (はぁ~……デートじゃ無かった)

 「赤髪の姉御は初めてですよね? 彼処がゴブリン王国です!」
 
 気落ちするクウネルの目前には聳え立つ王城に、何重にも囲った城壁や塔が見えた。

 (アッチでもテレビで見てたけど……本当にバカよねアイツ。 これ、何と戦うつもりで建てたのよ)

 クウネルは城壁をかなり本気で蹴ってみたが、ヒビすら入らない事に顔を顰める。

 「と、とりあえず、癒やしの族長殿に会いに行きやしょう姉御! 倒れた後に治療してくれたお礼も言いたいですしね」

 「うん、分かった。 えっと……何処に居るかな」

 「ご案内しやす! アッチです!」

 キュウベイに案内されながら、馬鹿みたいに頑丈な城壁を跨ぐ。

 中央街の大通りをゴブリン達や建物を踏まないように歩いて工房へと向かった。

 王城や街並みと、遠くに見える城壁と塔を見てクウネルはボソッと呟く。
 
 「コレ……アイツが全部作ったんだよね。 あの時、村にこんな城壁が有ったら皆を守れたのかな? もしかして……アイツも」

 «――クウネル?»

 「んーん、なんでもない。 大丈夫だから」

 «――了解»

 ◆◇◆

 「ふー、お婆ちゃん。 穴はこんな感じで良いの?」

 「ギギガ、勿論です。 すみません、治癒の木の実を植える穴を掘って頂いて」

 「大丈夫だよ。 お婆ちゃんには何度も助けてもらったしね」

 クウネルはあれから癒やしの族長を訪ね、助けてもらったお礼に工房の外に幾つもの穴を掘っていた。

 «――完了。 癒やしの木の実をこの深さに植えたら問題ありません。 ご苦労様でした»

 (はいはい、どういたしまして)

 クウネルは立ち上がり背伸びをする。

 「んー! キュウベイはまだ戻らないのかな」

 現在、キュウベイはこの場には居ない。

 錬金術の工房に着くやいなや、キュウベイの師匠に捕まり連れて行かれたのだ。

 「……さみしい」

 癒やしの族長が掘った穴に癒やし木の実を植えているのをしゃがんで見つめていると、キュウベイが走って来た。

 「姉御ー! すいやせん、戻りましたー!」

 「キュウベイ! おかえりー!」

 クウネルは満面の笑顔でキュウベイを迎え、その姿を癒やしの族長は微笑ましく見ている。

 「実は師匠から狩りを命じられて来まして……」

 「狩り?? 何を狩るの?」

 「へい、ここから向こうの方角に先日滅びた街が有るんですが、其処に住み着いているビックボアの群れを狩って来いと」

  クウネルは首を傾げ、記憶を辿った。

 「あぁ、あの大きな猪ね。 でも、どうして急に?」

 「王国に住むゴブリンが密集し過ぎているので、食料が枯渇したそうです。 今も、幾らかのゴブリン達が狩りに出ているのですが……あまり良くないみたいでして」

 (なるほどね。 つまり、普通のゴブリンよりも圧倒的に強いキュウベイに大きい猪を沢山狩って来て欲しいって事か……)

 「良いよ! 私も一緒に行くから、沢山狩ろう!」

 「よろしいのですか!? へへ……実は姉御を誘いたくて、何て言おうか悩んでたんです」

 (くふ! キュウベイのイケメンスマイル頂きましたー!)
  
 嬉しそうに笑うキュウベイを見て、クウネルは鼻血が出そうになるのを我慢するのであった。   

 ◆◇◆

 早速王国を出発し、目的地が見えてきた。

 近くの草原にはゴブリン達が動物や魔物を狩っていたが、どれも小物で大した戦果にはならなさそうだ。 

 「ギガ? おぉ、我等が女神よ。 どうされた? この周囲は大分狩り尽くしましたぞ?」

 1体のゴブリンが意気揚々と話し掛けて来た。

 (うわぁ……このお爺ちゃんも女神呼びしてくるじゃん。 まさか、本当に全てのゴブリン達に女神呼びされるの? 地獄じゃん!)

 周囲の戦闘を見る限り、魔法使いのゴブリン達を纏めるゴブリンなのだろう。

 キュウベイはクウネルの肩から飛び降り、年老いたゴブリンの下へと向かった。

 「これは、雷雨の族長殿。 ご無沙汰しております」

 「ギギ? おぉ、鷹の奴の弟子か?! 久し振りよの。 本当に見た目も種族も変わったのか。 なるほどの~、ではアヤツが愛弟子を任せたと言っていた新たな主が女神様なのじゃな」

 「え、師匠がそんな事を? えっと、はい、そうです。 そして今日は、食料確保の為にビックボアを狩りに来ました」

 (ん~、このお爺ちゃんゴブリンはどうでもいいんだけど……余所行きの喋り方してるキュウベイめちゃくちゃカッコよくない? やばいなー、いやいや、やばい。 私の語彙力何処に行ったんだろうね)

 クウネルはニヤける口元を隠しながら2匹の会話を聞いていた。 

 「ギ……なるほどの。 では、女神様にお頼みしたい事がございます」

 「くふっ……あ、ごめんごめん。 聞くけど、面倒臭いのは嫌だよ?」

 「ギガガガ、多分大丈夫ですぞ。 目的地は滅びた街だと思いますからの、其処に住み着いて居る全ての大猪を倒して欲しいだけですじゃ」

 「ん? それなら、目的地も目的も同じだから全然大丈夫だけど……?」

 雷雨の族長が言っている事の意味が分からないクウネルは首を傾げる。

 「ギガ、その滅びた街はゴブリン王国にとって王都以外の一番大きな街だったのですじゃ。 故に、ビックボアを一匹残らずに皆殺しにして欲しいのです。 それが成されねば、儂は死んでも死にきれませぬのじゃ」

 余程、ビックボアに恨みが有るのか雷雨の族長は憎しみに顔を歪め心中を吐露した。

 (なるほどね……頼みたい事は復讐なんだね)

 クウネルは雷雨の族長が頼みたい本当の理由を痛い程に理解出来てしまった。

 雷雨の族長にとって、大切な何かを奪われたのだ。

 「姉御……雷雨の族長や他の皆さんもそうですが、これから行く街跡地はかつて2足型戦争と呼ばれる戦いで勝ち取った土地なのです。 多くの血が流れた土地を失った原因であるビックボアに憎しみが向くのは仕方無い事だと思いやす」
 
 キュウベイの補足を聞いたクウネルは雷雨の族長を優しい瞳で覗き込み微笑んだ。
 
 「お爺ちゃん、約束する。 一匹も残さずに皆殺しにしてあげる。 だから、お爺ちゃんも約束して。 終わったら、憎しみを捨てて……笑顔で生きて」

 「ギ……お約束しますじゃ」

 クウネルはキュウベイを肩に乗せ歩き始めた。

 「よし、キュウベイ……殺るよ」
 
 「へい!!」

 目指すは大猪の群れ。

 ゴブリン達の憎しみを背にクウネルは本気で怒っていた。

 「必ず皆殺しにしてやる!」
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