真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

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第169話 カズキの驚愕

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 「ルウ居るか? 俺だカズキだ」

 扉をノックすると直ぐに返事が聞こえる。

 『あぁ、勇者辞める辞める詐欺のカズキか。 空いてるよ』

 返事が聞こえたのは良いが、扉が喋った事にカズキは驚き先日の発言を揶揄された事等耳にも入らなかった。

 「……ルウか?」

 『なに? そうだけど……あ、これは遠隔で視界確保と会話が可能な魔法を使ってるだけだよ。 座標を指定するのが面倒くさいけど、既存の念話系の魔法よ――すまん、俺が悪かった。 入るぞ」

 ルウの座学が始まり掛けたので、カズキは急いで制止し部屋に入る。

 (ルウの奴は無表情でぶっきらぼうだが、大好きな魔法の事になるとすんげー喋るんだよな。 ある意味、権力とかには興味無さそうだから俺としても好都合だが……)

 部屋に入ると、この異世界には不似合いなTHE研究室の内装が視界に入る。 コンクリートで固められた研究室と出入り口の木で出来た扉が不似合いすぎて違和感が凄まじい。

 (確か、これもルウが魔法で創ったんだよな。 大したもんだ)

 「ルウ、おはよう。朝からすまない、ちょっと皆の様子を見て回って……これは殿下、直ぐに気付かずにご無礼を」

 ルウの隣には何故か聖王国の姫ベル・フォン・リサが近代的な椅子に座って寛いでおり、気付いたカズキは直ぐに敬意を示す。

 当然、コレも建前だ。

 カズキの中に王族に対する敬意等微塵も無い。

 後々に聖王国を乗っ取る際に、妻の一人にする予定のリサ姫に悪感情を持たれないようにする処世術である。

 「とんでもございません、カズキ様。 英雄で有る勇者様が、私等に畏まる必要は有りませんわ」

 リサは純粋な笑みでカズキに微笑む。

 (そりゃそうだろ。 でも、まだそういう訳にはいかねぇんだよ)

 「ん、カズキ。 僕の所は特に変わりないよ。 長い休暇を楽しんでる。 ……さっきまではね」

 リサの隣に座っていたルウがこめかみをマッサージしながら呟いた。 その表情は暗く、悪い知らせを聞いたのだろう。

 「どういう意味だ? 何かあったのか?」

 「コジロウの事だよ、さっきリサが教えに来てくれたんだ」

 ルウの言葉にカズキは首を傾げる。

 (コジロウ? 俺が部屋で荒れている間に何があったんだ?)

 「殿下、メンバーのコジロウがどうしたのですか」

 リサ姫は悲痛な顔で俯き、黙り込んでしまった。 その行動だけで、事の大きさが分かる

 (え、そんなに大事なのか?)

 「リサ、いいよ僕が話す。 カズキ、コジロウとミカが良い感じだったのは知ってるよね」

 「あーーー、あ? そうだっけ? すまん、知らん」

 「はぁ……そうか。 ミカとコジロウが王都でデートをしている時に……襲われたんだ」

 「は? 誰にだ!? いや、でもミカはともかく戦闘職のコジロウなら誰に襲われても返り討ちに……できたんだよな?」

 カズキは驚愕し、ルウの顔色を伺う。

 「勿論。 誰に雇われたのか知らないけど、それなりに手練れの暴漢達に襲われたみたいだね。 カズキがずっと前に作ったルール通りミカもコジロウも武器は持っていなかった。 其処を狙われたみたい」

 「何だよ、それなら問題は解決してるじゃないか」

 「いや……最悪だよカズキ」

 ルウは顔を顰め、続きを話し始めた。

 「問題は、コジロウが暴漢達を皆殺しにした事だよ」

 「皆……殺し?」

 (何でだ? この世界基準で言えばコジロウも最強の部類に入る筈。 暴漢如きに本気で反撃して殺すなんて……)

 「そう。 コジロウが暴漢達を相手にしている間に、後から出て来た仲間らしき男がミカを刺したんだ。 それで、ブチギレたコジロウは暴漢から奪った剣で全員斬り殺したらしい。 それで、王都は勇者の仲間に殺人鬼が居ると大騒ぎしてるよ」

 カズキは頭を掻きながら何とかコジロウのフォローをしようと試みる。

 「ルウ、それが本当だとしてもそれは正当防衛の筈だ。 それをキチンと説明したら、そんな騒ぎ直ぐに……」

 「無理だよ。 多くの目撃者が、コジロウは笑いながら暴漢達を殺していたと証言している。 それと、コジロウは地下ダンジョンに幽閉された。 さっき、リュウトが捕らえたんだ」

 カズキは真面目一徹のコジロウがそんな事をするとは思えなかった。 それに、その暴漢達の狙いも分かっていない。

 「はぁ!? 地下ダンジョンに幽閉しただと!? 待て待て、仮にコジロウが殺人に快楽を覚えたとして……何故、牢屋に入れないんだ」

 俺の疑問に答えたのは、悲痛な顔のリサ姫だった。

 「それは……カズキ様方が強すぎるからでございます。 今や、聖王国最強の騎士団長も勝てない方々を牢に閉じ込める等不可能なのですわ。 リュウト様がコジロウ様を捕らえに行って下さったのは、父である聖王陛下の指示なのです」

 (マジかよ……まだ信じられない。 じゃあ、何でリーダーである俺に知らせが無かったんだ? くそ……まさか、聖王の野郎)

 カズキはリサの話しに苛立ちを現れにする。

 普通なら、最強の勇者でありリーダーのカズキに情報が伝わる筈だ。

 つまり、裏で糸を引いている者が居るのだ。

 勇者カズキとその仲間が不祥事を起こしたら得をする者が。

 「で……刺されたミカは大丈夫だったのか? それに、リュウトは? コジロウを捕らえて五体満足なのか?」

 「ミカはそもそも無傷だったよ。 この世界に居る人間達と僕達ではステータスの数値が天文学的に離れているからね。 それよりも、恋人が大量殺人を犯してかなりショックを受けてる。 リュウトは、逆上しているコジロウを捕らえるのに激しく殺し合ったみたいだね。 かなり斬られて重傷らしい。 でも、ユズキが教会で治療してるから大丈夫」

 カズキは爪を噛みながら、ルウが最悪だと言った事をようやく理解した。

 「という訳で、中々に僕達の状況はよろしくない。 民達からの信頼は今回の事で地に堕ちただろう」

 つまり、既に手を打たれて取り返しのつかない状況に追い込まれたのだ。

 「最悪だな……折角築き上げてきた地位と名誉が綺麗に無くなったってか。 これで、何もしなかった勇者よりも迅速に対応した聖王の方が評判も良くなり他国に侵攻する時は命令する側に回れるもんな」
 
 既に犯人を確信したカズキは頭の中に浮かんだ聖王の顔に舌打ちをする。

 「ちっ……仕方無い。 とりあえずは大人しくしとくか。 教えてくれてありがとう、ルウ。 俺の方でも何か出来ないか動いてみる」
 
 「ん、頼んだよリーダー。 僕は魔法の研究に集中できたら文句は無いからね」

 「おう、じゃあまたな。 殿下、知らせ感謝します」

 カズキはリサ姫に一礼し、ルウの部屋を出る。

 (あれ? そういえば、ルウの奴……リサって呼んで無かったか?  気のせいか……? まぁ、だよな。 国の姫を呼び捨てするなんて、あり得ないよな)

 カズキは浮かんだ疑問を直ぐにかき消し、廊下を歩き始めた。
 
 (いや、そんな事よりあの馬鹿聖王。 俺の努力を踏みにじりやがって。 オリジン様が選んだ国だからと我慢していたが、俺の邪魔をするとはな……くそ、くそ、くそ!! とりあえず、直ぐにコジロウを出す訳には行かない。 もし、本当に殺人を楽しむような奴になっていたら出す方が危険だ)

 廊下では、メイドや兵士達と擦れ違うが今のカズキには挨拶をする余裕は無かった。

 (もしや、初めからコジロウはそういう奴だったのか? そんな奴を選ぶとは……オリジン様も何をお考えなのか。 くそ、分からん! どうする? どうやって挽回する?)

 カズキは廊下を早歩きで進みながら思考に没頭する。

 (とりあえず、ユズキの所に行ってみるか。 一番裏切り者の確率が高いが……リュウトの様子も見ないとな)
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