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第六章 赤髪のクウネル編

第168話 カズキの頭痛

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 「糞が!!」

 勇者カズキは持っていたグラスを自室の壁に叩き付け、怒りを晴らしていた。

 「ユズキめ! 後少しで俺の計画は上手く進んでいたのに邪魔しやがって!!」

 カズキは先日の会議からの事を思い出し、テーブルの上に置いてあった書類を当たり散らすように吹き飛ばした。

 「はぁはぁはぁ……しかも、大臣は姿を消しやがった。 って事は、聖王は俺の計画を知っていたって事だよな? まさか……ユズキは俺を裏切ったのか?」

 そして、聖王国内の協力者であった大臣の消息が途絶えた事で更にカズキは焦っていた。

 同じ使命を与えられただけのクラスメイトをカズキは真の仲間だと思った事等一度も無いのだが、自分より下だと思っているメンバーに裏切られているかもと妄想しただけで、カズキは疑心暗鬼に陥った。

 (もし、ユズキが勇者である俺を裏切り聖王国の味方をしているなら……他のメンバーはどうだ? マヒルは大丈夫だとして……くそ、少し探るか)

 そもそも、聖王国を乗っ取る計画はカズキが独断で進め画策した事だ。 つまり、聖王国側からすると裏切ったのは勇者カズキなのだが、自身を主役だと信じて疑わないカズキがその事に思い至る事は無かった。

 「勇者カズキ様! 先程、大きな音が聞こえたと報告があったのですが、大丈夫でしょうか!」

 爪を噛みながら思考に耽っていると、扉が叩かれ廊下から兵士の声が聞こえる。

 「ふぅ……すまない、手が滑ってグラスを割ってしまっただけだ。 気にしないでくれ」

 「は! 了解しました! 失礼します!!」

 カズキはなるべく平常心を保ちながら、扉越しに兵士に事情を説明し帰らせた。

 そして、荒れた部屋を見てため息を吐く。

 先日の会議以降、部屋にマヒルは帰って来なくなった。

 ずっとユズキの所に行っており、夜も女子達と過ごしているそうだ。 カズキの止まない苛立ちは、側にマヒルが居ないせいなのかもしれない。

 「よし、先ずは他のメンバーに会いに行くか。 事と次第によっては最悪……メンバーを選別する事になるかもな」

 カズキは冷酷な表情を隠し、笑顔を貼り付けてから部屋を出た。

 ◆◇◆

 王城内の長い廊下を進み、すれ違う兵士やメイド達に挨拶をしながらメンバーの部屋に向かう。

 「何時もお疲れ様。 怪我をしないようにね」

 「「「「カズキ様! ありがとうございます」」」」

 小さな事だが、人心掌握の為に城で働く者達への挨拶は欠かせないのだ。 当然ながら、計画は頓挫したがカズキはまだ王になる事は諦めていなかった。

 「さて、まずは……ヒカリの部屋か。 おっと、ちゃんとノックしないとな」

 3回扉を叩き、声を掛ける。

 「ヒカリ、居るか? 俺だ、カズキだ」

 「はーい! 居るよ~カズキ君! 入って入ってー!」

 朝から元気なヒカリの声に早速頭痛がし始めたが、カズキは我慢して部屋へと入る。

 「おはよ……う? なんでオタフクも居るんだ。 ……って、その大量の荷物はどうしたんだ?」

 ヒカリの部屋に入ると、メンバーのオタフクとヒカリが大きな袋に服やらなにやらを詰め込んでいる所だった。

 「カズキ氏、おはようございますですぞ! 現在、ヒカリたんに護衛を任命され荷造りを手伝っている所ですぞ!!」

 「おはようカズキ君。 えへへ~、前に許可貰った他国でのコンサートライブに行ってくるんだ~! アイドルとして頑張ってくるよ! キラッ☆」

 色々と濃ゆいオタフクとヒカリの話を聞くだけで、カズキの頭痛は増した。

 (あぁ……もうダメだ。 滅茶苦茶頭痛てぇ。 だが……この様子だとこいつらは俺を裏切らなさそうだな。 なら、リーダーらしく少しは優しくしてやるか)

 「確かに聞きに来たな。 まさか、お前にコンサートライブを頼む国が存在してるとはな……まぁ、その、何だ。 気を付けてな。 それとだな、女子が男を簡単に部屋へ招くな。 オタフクは無害かもしれんが、無害じゃない男もいるんだぞ?」

 カズキが忠告するも、ヒカリは小首を傾げオタフクは鼻息荒く怒り始めた。

 「ほぇ? 無害じゃないって……どういう意味?」

 「カズキ氏!! ヒカリたんに変な事を教えないでくだされ! ヒカリたんは、このオタフクが必ず守るので大丈夫でござる!」

 「オタフク君……ありがとう! ヒカリ頑張るから!」

 「一生推しますぞ! コンサートライブの行き帰りの護衛は拙者にお任せくだされ! ぶほっ! L! O! V! E! ヒ・カ・リ・た・んー!」

 突如としてオタフクが踊り始めた所で限界を迎えたカズキはヒカリの部屋を足早に退出する。

 「じゃ、邪魔したな! 次のメンバーに会いに行くから、またな。 2人共、気を付けて行って来い」

 「「 アイアイサー!」」

 何故か敬礼する2人を無視してカズキは部屋を出た。

 (はぁー……最初に訪れる部屋を間違えたな。 疲れた……もう自分の部屋に帰りたい。 にしても、ヒカリを呼んだ国って何処だ? まぁいいか、考えるのも面倒だしな)

 カズキは気を取り直し、廊下を進む。

 「次は……あぁ、ルウの部屋か。 まぁアイツの場合、部屋っていうか研究室だけどな」
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