上 下
164 / 196
第五章 ゴブリン王国復興編

第160話 娘は神になりました

しおりを挟む
 癒しの族長達が聖木の葉を採りに向かい暫く時間が経った頃、台所から暴食の邪神が大きな丼を2つ持って戻って来た。

 「クウちゃ~ん、超特盛大海老天丼出来たわよ~♪」

 「お母さん?! 台所に行ってると思ったら超特盛大海老天丼作ってたの!? こっちはまだピンチなんだけど??」

 「あら~、まだ戻って来てないの? ……糞遅いわね。 まぁ、どっちでもいいか」

 暴食の邪神にとって大切なのは黒髪のクウネルだけなのか、酷く冷たい声色で小さく呟く。

 「お母さん……? あ、いや、ゴブリン達は小さいから、足が遅いんだよ。 って、何それ! 滅茶苦茶美味しそうやん!!」

 テレビの前に置いてある小さなテーブルの上に大きな丼が置かれ、中には美味しそうな海老天が山のように積まれていた。

 「……ぁぁ、良い匂いぃ。 とりあえず……食べ――って、ダメダメ! キュウベイがピンチなんだから!」

 光に誘われる虫のように、クウネルはフラフラと天丼に吸い寄せられそうになったが間一髪の所で正気を取り戻す。

 「あ、そうだ~クウちゃん。 そのキュウベイをさっき身内って言ってたわよね? どういう意味かしら~? どんな関係なの?」

 暴食の邪神がニッコリと笑うと、何故かテレビにノイズが走り電灯がチカチカと点滅し始した。

 更に、居間の四隅にある闇から黒い何かが這い出ようと蠢いているのを目の端で確認する。

 「ひぇっ……あ、あぁそっか、お母さんは知らないのか。 あれだよ? キュウベイは恋人とかそんなんじゃないからね? この間、眷属にしたの。 だから、キュウベイは身内で家族」

 自分にどれだけ優しくても、目の前に居るのは邪神なのだと再認識したクウネルは急いで事情を説明した。

 すると、居間で起きていた異常は全て消え去りテレビの画面も鮮明に映し出される。

 「……眷属? クウちゃん、眷属を作れるのは神しかいない筈なのだけれど……?」

 「だから私、亜神になったんだよ。 暴食の女巨神なんだってさ。 ちなみに赤髪の私は何でか、ただの女巨神になってたけどね」

 クウネルの説明に暴食の邪神は首を傾げる。

 「クウネルちゃんが……亜神?」

 「お母さん、大丈夫? なんか色々思考が停止してるけど」

 「待って、え? クウちゃん、もう亜神になったの!? 巨人に転生してから二年とちょっとよね? もう?! あ、ぁ、えっと……それなら話が変わるな」 

 暴食の邪神は何やら考え込み、答えが出たのか口を開いた。

 「ん~……とりあえずそのキュウベイ君を助ける? このままだと、あのゴブリン達が戻ってくる前にキュウベイ君は確実に死んで呪を撒き散らす存在になっちゃうわね。 代わりにクウちゃんが向こうに戻れるのかなり時間掛かる事になっちゃうけど」

 クウネルは天丼に目が釘付けだったが、暴食の邪神の言葉に目を見開く。

 「本当に!? いいよ! 戻るのが遅くなっても良いから、キュウベイを助けて!」

 クウネルは自身が戻れるのが遅くなる事など天秤にも賭けずに、即座にキュウベイを助ける事を選択した。

 その様子を見て、暴食の邪神は嬉しそうに微笑んだ。 何かを企んでいるのではと勘ぐってしまうほどに良い笑顔だったが、それにクウネルは気付かない。

 「ふふ、なら決まりね♪ じゃあ、少し頭に触れるわね? クウちゃんが神で、そのキュウベイ君が眷属ならお母さんが干渉出来るから♪」

 暴食の邪神がクウネルの頭に優しく触れる。

 「くふっ! 少しくすぐったい」

 「はいはい、動かないでね~。 よし、じゃあキュウベイ君から死体化の呪いを食べるから、クウちゃんはキュウベイ君が怖がらない様に話し掛けててくれる? 頭の中で話せば良いだけだから。 ほら、いつもスキルのあの娘と話してるみたいに」

 説明されたクウネルは大人しく頭の中で会話を試みる事にした。

 「ほいほ~い、鑑定さんと話す感じだね。 ん~……?」

 (うぐぐぐ……姉御を心配させる訳には。 癒しの族長殿、どうか姉御だけでも……ぐ?! 何だ、身体が……何かに食われてる様な……)

 「お、キュウベイの声だ。 キュウベイ! 聴こえる?」

 (ぐぐ……あ、姉御?! いったい何処から!?)

 クウネルの頭の中にキュウベイの声が聞こえ、クウネルはそのまま会話を試みる。

 「きこえ、きこえ、聴こえますか? 今、私、姉御はキュウベイの心の中に直接話し……ごめん、冗談言ってる場合じゃないよね」

 (心の中に直接……? 流石は姉御です! それよりご無事なんですか!?)

 「ご無事なんですか!? じゃない、この馬鹿たれ! 赤髪の私を助ける手助けになったとはいえ、無茶して!! 見てたんだからね!!」

 クウネルはキュウベイを叱る。 その間にも、暴食の邪神はクウネルの頭に手を置いたまま何やら口をモゴモゴと動かしていた。 恐らく、キュウベイの呪いを食べているのだろう。

 (す、すいやせん……! ですが……)

 「ですがも、ヘチマも無い! 私より先に死ぬなって約束したでしょ?」

 (へい……。 すいやせん姉御……でもご無事で良かったです。 赤髪の姉御は助かる可能性はありやすが……俺はもう)

 キュウベイの声が途切れかけたその時、暴食の邪神が手を退けた。

 「けぷっクウちゃん終わったわよ~♪」

 「お母さんグッジョブ! キュウベイ、もう大丈夫だよ。 私のお母さんが、キュウベイに掛かってた呪いは食べてくれたから」

 (へ……? あ、本当です! 身体が、身体が動きやす! 姉御の母君、感謝致しやす!!)

 「あはは、分かった。 伝えとく。 それより、私は当分戻れないけど赤髪の私をよろしくね?」

 (へい! 必ずお守り致します。 姉御もどうか、ご無事で。 お帰りをお待ちしておりやす)

 「ありがと。 でも、次また無茶したら怒るからね?」

 (承知しやした! あ! 赤髪の姉御も呪いは消えてるんですか? まだ苦しそうなんですが……)

 クウネルはすっかり忘れていた赤髪の事を思い出し、どうするか悩む。

 「ふふっ、ついでにあの娘も治す? クウちゃんが神になってるなら、繋がってるあの娘の呪いも食べれるわよ?」

 暴食の邪神からの提案にクウネルは思案する。

 「因みに、このまま放置したら危険かな?」

 「ん~……巨神だし、まだ大丈夫よ? まぁ、かなりの激痛だろうけど」

 「そっか……決めた。 今回の事はあの赤髪が早く鑑定さんを頼らなかったからだし。 よし、反省させよう。 精々、痛みに耐えるといい! キュウベイ聴こえる? 赤髪の私は助けれないから動ける様になったなら聖木の葉を取りに行ってあげて」

 (了解です! 直ぐに行ってきます!)

 「ん、よろしくね~。 じゃあ、またね」

 クウネルはキュウベイとの交信を終わり、ソファに座った。

 「赤髪の私は放置で良いよお母さん。 どうせ治ったキュウベイが直ぐに聖木の葉を取ってくるから」

 「あら~、分かったわ♪ じゃあ、問題も解決したし。 食べましょっか~」

 「まぁ、大丈夫だよね。 マンドラゴラも抜いたのが有るし。 それより、この超特盛大海老天丼を食べなきゃ! 最早、躊躇う事も無し! いっただきまーーす!」

 クウネルは美味しそうに天丼を口に運ぶのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...