上 下
156 / 202

第152話 暴食

しおりを挟む
 「はぁ……はぁ……ひー疲れたー!」

 クウネルは疲労感と戦いながらアンデッドワイバーンの顔を粉砕するが、直ぐに再生して噛み付いてくる。

 「クルルッ! ガギギガァァァ!」

 「まぁ、疲れても動きが遅すぎて噛まれる事は無いんだけどね。 はいはい、分かりましたよ。 そんなに顔を粉砕して欲しいんですね? 乙女パーーーーンッッチ!!」

 殴り続けること更に数時間、一向に事態は好転しない。

 「ん~、あ! 鑑定さん、暴食の大口は? お母さんにコイツ食べてもらおうよ」

 «――確認。 ――残念ですが、無理です。 クウネルが使用出来る様に改変され、戦技という物理攻撃のカテゴリーに括られています。 一時的に消失させても、再生する確率が高過ぎます»

 「えぇぇ……じゃあ、土魔法でガチガチに固めて封印するのは?」

 «――阻止。 それは、オススメ出来ません。 アンデッドワイバーンから漏れた瘴気が、地面の土や岩を汚染しています。 もし、この地に閉じ込めた場合巨木の森は死滅する可能性大です»

 「ぬぐぐぐ、ダメか。 じゃあ、閉じ込めてとんずらも難しいのね。 しかも、何とか倒さないとゴブリンの王国までピンチになると……っていうか、何なのよ不死って。 ダメだよ、こんなチート臭い魔物居たら」

 鑑定と相談しながらも殴っていると、クウネルのお腹が鳴り始める。 それだけ長い間戦っていたのだ。

 「グギュルル~ってお腹が鳴ってるよー! あぁぁ~……お腹減ったぁ~。 今日の夜、やっとゴブリン料理を食べれる筈だったのに~。 なんか、段々と腹立ってきたな」

 «――察知。 クウネル、逃げた筈のゴブリン達が此方に戻って来ています。 ……数が1匹減っているのを確認。 アンデッドはこの1体だけでは無いのかもしれません»

 「はぁぁ?! え、やばいじゃん! うわぁぁぁ、其処まで考えて無かった!」

 クウネルは考えの至らなかった自分に怒り、自身の頬を殴った。

 「1匹減ってるって……つまり、そういう事だよね。 私のせいだ! 私の馬鹿! いっっった!! 」

 «――冷静。 クウネル落ち着いて下さい!»

 「どっちにしても、このままじゃ此方に逃げてくるゴブリン達がアンデッドワイバーンの瘴気食らったら即死だよ! もう誰も死なせない、絶対死なせない!」

 頬に伝わる痛みで、少し冷静になれたクウネルはある事を思い付き微笑む。

 「……ねぇ、鑑定さん。 さっきの話しだけど、暴食の大口が物理攻撃に括られて無かったらアンデッドにも効果が有るって意味で良かった」

 «――疑問? その通りですが……クウネル何をするつもりですか?»

 「よし……決めた。 これ、喰うよ」

 «――阻止! 不明な点が多すぎます。 クウネルの胃袋でもどんなリスクがあるか分かりません! 止めて下さい!»

 「えへへ、大丈夫だよ。 私お腹壊した事無いから。 ゴブリン達が到着する迄に、コイツを喰い殺さなきゃ! 覚悟しろ、この骨っコがぁぁぁ! 骨までしゃぶってやるぜぇぇぇ!」

 クウネルはアンデッドワイバーンの右前足の骨を叩き折り、再生する前に噛み砕く。

 「ボリボリボリボリ! マッッズーーイ! いや、最近カルシウムが不足してるから丁度いいかも? お! 再生もしてないし、上手くいくかも!」

 「クルルル?! ガァッ!? ガァッ?!」

 アンデッドワイバーンは自分の右前足を喰われた事に驚き、更に再生しない事に気付き狼狽えだした。

 「やっと効いたな。 お前のせいで、また守れなかったんだ! 観念して喰われロ!」

 クウネルは狼狽えるアンデッドワイバーンに掴みかかり、そのまま骨に齧り付く。 口に含んだ骨から漆黒の煙が吹き始めたが、それでもクウネルは食べるのを止めなかった。

 大切になったゴブリン達を守る為に。

 「ボリボリボリボリ、ガリっ! ロ? あレ? 身体がナンか変ダ……頭がぐらぐらスる」

 前足と肋骨を食べるクウネルの目から黒い涙が流れ始め、異変に気付いてもクウネルは食べ続けた。

 「ボリボリボリボリ! ガリガリッ!」

 «――クウネル、至急食べるのを止めて下さい!»

 鑑定の制止する声が聞こえても、クウネルは意地でも食べ続ける。

 「ボリボリボリボリボリボリボリボリ! イやだ! 早ク、しなイとゴブリン達ガ死んじゃウ……。 ボリボリボリボリ! 食べル、こイツを……。 後……少シ! ガリガリ、ガキッ!」

 暴れる為、最後に残していた頭部にクウネルは齧り付き噛み砕く。

 「ガァァァァァアアッ! ガァァァァ……」

 全身の骨を食われ怨嗟の声を上げていたアンデッドワイバーンはクウネルに飲み込まれ、辺りに立ち込めていた死の瘴気と共に消えた。

 «――アンデッドワイバーンの消滅を確認、クウネル? クウネル、聞こえますか?!»

 顔の穴という穴から黒い液体が流れ出し、クウネルは地面に膝をついた。

 「へへ……喰イ殺セたよ……鑑定サん」

 自身と同じ大きさの骨を完食したにも関わらず、クウネルの腹がけたたましく鳴り始める。

 ゴギュルル……!

 「あ……? 脳ガ、身体ガ震エる……」

 ゴギュルルルルルルルル……!!

 「あ、コれ……マジでヤバいカも……」

 ゴギュルルルルルルルルルルルルルルルル!

 「ウぐ……グあぁァぁあァァァァッ!!!」

 凄まじい空腹と、脳を焼く痛みが激しくなった瞬間。

 頭の中で声が聞こえた。

 ――ったく、偽者のくせに何なのよ。 知り合ったばっかりのゴブリンを救うのに命掛けるなんてバカじゃない!? もういい、替わりなさい!!』

 虚ろなクウネルの意識は完全に途絶えてしまうのであった。                        
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

おじさんが異世界転移してしまった。

月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...