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第140話 そして大芝居の始まり
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シャーマンの予感は的中し、フォレストウルフキングからの話を聞いた長老やゴブリン達に激震が走った。
シャーマンはよろめき、その場で項垂れてしまう。
(……そうかぃ、やっぱり王都も襲われてたのかい)
王都は瓦礫と化した。
この事実に多くのゴブリン達が悲しみ、行き場の無い怒りに包まれる。
夥しい数の魔物達に突如襲われ、何とか凌いだら山より巨大な地竜が現れたのだ。 そして、地竜の大群に襲われた。
(多くの兵士が死んだんだねぇ。 そんな状況なら当たり前さね)
項垂れるシャーマンは地面の土を握り締める。
インペリアル近衛兵に生き残りは居ない。 なのに、民であるゴブリン達に死者は出ていない。
その事から、インペリアル近衛兵達と多くの兵士達が命を投げうち戦い抜いて死んだとシャーマンは容易に想像出来た。
(……信じられるもんかいな)
フォレストウルフキングから、全滅しそうな所を救い守ったのがさっきの巨大な生き物だと聞かされシャーマンは唇が切れるほどに噛み締める。
(ギブスが死んだ……? 信じないよ、私はそんなの信じないからね!)
「ギギ……隊長。 私はちと、気分が悪い。 後ろに行ってるよ……」
「ギガ……婆さん。 ……分かった」
シャーマンはよろつきながらゴブリン達の後方へと下がり、長老とフォレストウルフキングが何やら話し込んでいるのを放心しながら眺めていた。
そして、暫く時間が経過した頃。 また、あの巨大な生き物が戻ってきた。
今度は、やたらデカイ袋を下げて息を切らしている。
何を話してるのかは遠くて分からない、でも……巨大な生き物が頭を下げて必死に何かを謝っているのが見えた。
シャーマンは混乱する。
訳が分からない。
もし、本当に王都が瓦礫になる程の襲撃から街を守ったならゴブリン達から感謝こそされても、守った側が謝る必要なんて無い筈だ。
暫くすると、長老の大声がここまで聞こえた。 ゴブリン達が武器を手にしていた事を咎めたのか、騒がしかったゴブリン達は大人しくなる。
(……どうやら、話が付いたようだね)
それでもまだ身体が動かないシャーマンは、巨大な生き物を見つめる。
可愛らしく、トロールとは似ても似つかないその生き物はとても優しい目をしていた。
そんな巨大な生き物が袋から何かを取り出して混ぜ始めた。
(ん? さて、何だろうね)
「ギヌガ! あれは、まさか……希少なマンドラゴラ?! それに、あの葉は……もしや、秘薬を調合してる? それも、大量に!??」
シャーマンの隣で喧しいのは、癒しの族長である。
この族長も、シャーマンの昔馴染みであり息子の死を聞いて落ち込むシャーマンが心配で側に黙って座っていたのだ。
錬金術や、薬術に長けており大昔に起こった2足型の戦争でも多くのゴブリンを救って来た。
今回も、癒しの族長が居なければ王都と同じく凄まじい量の死者が出ていた事だろう。
いつも冷静で、物静かな癒しの族長が驚く様子にシャーマンも巨大な生き物に興味が湧いてきた。
そして、巨大な生き物が混ぜたネバネバがシャーマン達を覆った。
「「「「ギャアアアア! ネバネバするー!」」」」
「「「「「キャイイインッ!!」」」」」
ゴブリンやフォレストウルフ達から悲鳴が上がる中、唯一悲鳴を上げずに癒しの族長は感涙していた。
(なんだいなんだい、癒しの女神様がどうたらとブツブツ言ってて気味が悪いね……)
しかし、直後に癒しの族長が何故感涙したかその理由が分かった。
身体が淡く光り、怪我がみるみるうちに治っていったのだ。
それに、重くのしかかっていた虚脱感も消えた。
「ギ? おぉ!? 腰が! 私の腰が?!」
シャーマンの曲がった腰は真っ直ぐに治り、身体も異常に軽い。 更に古傷も治ったのか、歩いても足が痛む事も無かった。
「ギガ、奇跡だ……」
誰かが呟いた。
そして、シャーマンもそれを聞きその通りだと頷く。
(そりゃ奇跡だよ、こんな効果の高い薬は聞いた事が無い……。 いや、癒しの婆さんなら何か……)
隣を見ると、癒しの族長は感涙し過ぎて失神していた。
「ギガガ! おーい、婆さん! このネバネバすげぇな! って、滅茶苦茶真っ直ぐ立ててんじゃねぇか!」
「ギギ、煩いよ。 あ、そうさね隊長。 この失神してる婆さんをおぶってやんな。 私は先に街に向かうからね!」
「ギガ? ……は? そりゃいいが、婆さん自分で歩いて行くのか?」
「ギ、舐めんじゃないよ。 走っていくのさね! 世話になったね……隊長」
シャーマンは王都に向かって颯爽と走り出した。
「ギガガ! 身体が軽いねぇ、昔を思い出すよ!」
先に治療が終わり、街に向かっているゴブリン達をごぼう抜きしていく。
(きっと生きてる。 こんな奇跡が起きたんだ、きっとギブスも生きてる筈さ! 神でも女神でも何でもいい! 息子を……息子だけは死なせないでおくれ!)
シャーマンは一縷の望みにかけて、王都へと走り続けた。
◆◇◆
王都に到着すると、其処に街は無かった。
あのフォレストウルフキングの言う通り、瓦礫の山が見える。
生き残れたゴブリン達が運んだのだろう。
そして、中央にゴブリン王と将軍が見えシャーマンは急いで駆け寄る。
近付くにつれ、大きくなる心臓の音がやけに煩い。
「ギヌ? そなたは……皆殺しのシャーマン殿か! 無事で何より! いったい何があったのだ?」
「ギガ……お久し振りです、シャーマン殿。 ……申し訳、申し訳有りませぬ!」
シャーマンはギド将軍の悲痛に歪む顔を見て直ぐに分かった。
「ギ……息子は……ギブスは、本当に死んだんだね」
息子と将軍は幼なじみだった。 ずっと、ずっと一緒だった。 兵士になる時も、名前を授かった時も共にいた。
ギドは母であるシャーマンよりも辛く胸が張り裂けそうな苦しみと戦い、それでも責務を全うしているのだ。
そんなギドを責められるはずもなく、シャーマンは力無く微笑んだ。
「ギヌ……でも、ギド将軍が生き残れて良かったさね。 きっと、ギブスもそれを望んでた筈だよ……ありがとう」
「ギガ……うぐ、うぐぅぅぅ……!」
ギド将軍から大粒の涙が溢れる。 着ている鎧も服もボロボロだ。
余程、激しい戦いだったのだろう。
「ギギ……シャーマン殿、何が起きたか……我から話そうぞ]
◆◇◆
王から聞いた話しは、ほぼフォレストウルフキングから聞いたのと同じ内容だった。
(そうか……本当にあの巨大な生き物が街を救ってくれたんだね。 ギブスが、命を捨てても守りたかった民達を、王国を代わりに守ってくれたんだね……)
シャーマンは草原で会った巨大な生き物に礼すら言わなかった事を後悔した。
(もし、話す機会が有れば謝らなければ……んん?)
シャーマンがどうしたものかと歩いていると、焚き火の側で休むゴブリン達の会話が聞こえた。
それは、巨大な生き物に対する中傷だった。 憎しみとも言える感情に任せた暴言だ。 家を、街を失ったのはあの生き物のせいだと。
あの生き物が居なくても街は守れていたとほざいていた。
(ふざけるんじゃあ無いよ! 精鋭のインペリアル近衛兵達が全滅するような状況だったんだろ? そんな状況であんたらが生き残れる筈が無いだろうさ!)
シャーマンは腸が煮えくり返り、怒鳴り散らそうとも思ったが、周囲を見渡すと憎しみの感情に飲まれているゴブリンが多く居た。
シャーマンはその感情は不安から生まれたと推測する。
不安が止まらず、何かを悪く言わないと心の安定が取れないのだ。
あの巨大な生き物に感謝するゴブリンも多く居るだろう、しかし全員がそういう訳では無い。
(だからと言って、民を守る為に命を捨てた息子を、その息子の願いを守った生き物を悪く言うのは許さないよ! さて、どうしてやろうかね)
憤慨しながら考えていると、草原で癒しの族長が呟いていた言葉を思い出す。
(……癒しの女神様。 ふふっ……王国と息子の恩人だ。 狂信的な婆さんを演じるのも悪くないさね)
シャーマンは直ぐ様、近くのゴブリンから順番に王国を救った女神様の作り話を広めた。
効果は当然ながら抜群であった。
不安だった者達は、王国を救い守護する女神様の作り話に飛び付いた。 其処からはトントン拍子で進み、元から感謝していたゴブリン達も、崇める神の名前が知れたと喜ぶ始末。
そして朝になる頃には巨大な生き物を悪く言うゴブリンは居なくなった。
(ふふっ……徹夜した成果が出たさね)
シャーマンは疲労からふらつくが、直ぐに誰かが腕を支えた。
「ギヌ、シャーマンの婆さん。 これを飲どうぞ、眠気が吹き飛びますよ」
薬を渡してきたのは、癒しの族長だった。
シャーマンが街で合流し状況を話すとノリノリで協力してくれた影の功労者である。
ゴブリンで唯一のシャーマンと癒しの族長お墨付きの女神様だ。 疑う者は皆無だった。
「ギガ、ありがとうさね。 お、王と将軍の元へ女神様が来たみたいだね。 ふふ、皆から拝まれて苦笑いじゃないか。 よし、最後の仕上げさ」
「ギギ、芝居頑張ってね」
シャーマンは気合を入れ、クウネルの下へと向かった。
(ありがとう、私にとっては本当の癒しの女神さね)
「ギィガ……私達ゴブリンを救いし、癒しの女神よ! 本当に――
こうして、シャーマンの大芝居が始まった。
(さぁ、恩返しの始まりさね!)
シャーマンはよろめき、その場で項垂れてしまう。
(……そうかぃ、やっぱり王都も襲われてたのかい)
王都は瓦礫と化した。
この事実に多くのゴブリン達が悲しみ、行き場の無い怒りに包まれる。
夥しい数の魔物達に突如襲われ、何とか凌いだら山より巨大な地竜が現れたのだ。 そして、地竜の大群に襲われた。
(多くの兵士が死んだんだねぇ。 そんな状況なら当たり前さね)
項垂れるシャーマンは地面の土を握り締める。
インペリアル近衛兵に生き残りは居ない。 なのに、民であるゴブリン達に死者は出ていない。
その事から、インペリアル近衛兵達と多くの兵士達が命を投げうち戦い抜いて死んだとシャーマンは容易に想像出来た。
(……信じられるもんかいな)
フォレストウルフキングから、全滅しそうな所を救い守ったのがさっきの巨大な生き物だと聞かされシャーマンは唇が切れるほどに噛み締める。
(ギブスが死んだ……? 信じないよ、私はそんなの信じないからね!)
「ギギ……隊長。 私はちと、気分が悪い。 後ろに行ってるよ……」
「ギガ……婆さん。 ……分かった」
シャーマンはよろつきながらゴブリン達の後方へと下がり、長老とフォレストウルフキングが何やら話し込んでいるのを放心しながら眺めていた。
そして、暫く時間が経過した頃。 また、あの巨大な生き物が戻ってきた。
今度は、やたらデカイ袋を下げて息を切らしている。
何を話してるのかは遠くて分からない、でも……巨大な生き物が頭を下げて必死に何かを謝っているのが見えた。
シャーマンは混乱する。
訳が分からない。
もし、本当に王都が瓦礫になる程の襲撃から街を守ったならゴブリン達から感謝こそされても、守った側が謝る必要なんて無い筈だ。
暫くすると、長老の大声がここまで聞こえた。 ゴブリン達が武器を手にしていた事を咎めたのか、騒がしかったゴブリン達は大人しくなる。
(……どうやら、話が付いたようだね)
それでもまだ身体が動かないシャーマンは、巨大な生き物を見つめる。
可愛らしく、トロールとは似ても似つかないその生き物はとても優しい目をしていた。
そんな巨大な生き物が袋から何かを取り出して混ぜ始めた。
(ん? さて、何だろうね)
「ギヌガ! あれは、まさか……希少なマンドラゴラ?! それに、あの葉は……もしや、秘薬を調合してる? それも、大量に!??」
シャーマンの隣で喧しいのは、癒しの族長である。
この族長も、シャーマンの昔馴染みであり息子の死を聞いて落ち込むシャーマンが心配で側に黙って座っていたのだ。
錬金術や、薬術に長けており大昔に起こった2足型の戦争でも多くのゴブリンを救って来た。
今回も、癒しの族長が居なければ王都と同じく凄まじい量の死者が出ていた事だろう。
いつも冷静で、物静かな癒しの族長が驚く様子にシャーマンも巨大な生き物に興味が湧いてきた。
そして、巨大な生き物が混ぜたネバネバがシャーマン達を覆った。
「「「「ギャアアアア! ネバネバするー!」」」」
「「「「「キャイイインッ!!」」」」」
ゴブリンやフォレストウルフ達から悲鳴が上がる中、唯一悲鳴を上げずに癒しの族長は感涙していた。
(なんだいなんだい、癒しの女神様がどうたらとブツブツ言ってて気味が悪いね……)
しかし、直後に癒しの族長が何故感涙したかその理由が分かった。
身体が淡く光り、怪我がみるみるうちに治っていったのだ。
それに、重くのしかかっていた虚脱感も消えた。
「ギ? おぉ!? 腰が! 私の腰が?!」
シャーマンの曲がった腰は真っ直ぐに治り、身体も異常に軽い。 更に古傷も治ったのか、歩いても足が痛む事も無かった。
「ギガ、奇跡だ……」
誰かが呟いた。
そして、シャーマンもそれを聞きその通りだと頷く。
(そりゃ奇跡だよ、こんな効果の高い薬は聞いた事が無い……。 いや、癒しの婆さんなら何か……)
隣を見ると、癒しの族長は感涙し過ぎて失神していた。
「ギガガ! おーい、婆さん! このネバネバすげぇな! って、滅茶苦茶真っ直ぐ立ててんじゃねぇか!」
「ギギ、煩いよ。 あ、そうさね隊長。 この失神してる婆さんをおぶってやんな。 私は先に街に向かうからね!」
「ギガ? ……は? そりゃいいが、婆さん自分で歩いて行くのか?」
「ギ、舐めんじゃないよ。 走っていくのさね! 世話になったね……隊長」
シャーマンは王都に向かって颯爽と走り出した。
「ギガガ! 身体が軽いねぇ、昔を思い出すよ!」
先に治療が終わり、街に向かっているゴブリン達をごぼう抜きしていく。
(きっと生きてる。 こんな奇跡が起きたんだ、きっとギブスも生きてる筈さ! 神でも女神でも何でもいい! 息子を……息子だけは死なせないでおくれ!)
シャーマンは一縷の望みにかけて、王都へと走り続けた。
◆◇◆
王都に到着すると、其処に街は無かった。
あのフォレストウルフキングの言う通り、瓦礫の山が見える。
生き残れたゴブリン達が運んだのだろう。
そして、中央にゴブリン王と将軍が見えシャーマンは急いで駆け寄る。
近付くにつれ、大きくなる心臓の音がやけに煩い。
「ギヌ? そなたは……皆殺しのシャーマン殿か! 無事で何より! いったい何があったのだ?」
「ギガ……お久し振りです、シャーマン殿。 ……申し訳、申し訳有りませぬ!」
シャーマンはギド将軍の悲痛に歪む顔を見て直ぐに分かった。
「ギ……息子は……ギブスは、本当に死んだんだね」
息子と将軍は幼なじみだった。 ずっと、ずっと一緒だった。 兵士になる時も、名前を授かった時も共にいた。
ギドは母であるシャーマンよりも辛く胸が張り裂けそうな苦しみと戦い、それでも責務を全うしているのだ。
そんなギドを責められるはずもなく、シャーマンは力無く微笑んだ。
「ギヌ……でも、ギド将軍が生き残れて良かったさね。 きっと、ギブスもそれを望んでた筈だよ……ありがとう」
「ギガ……うぐ、うぐぅぅぅ……!」
ギド将軍から大粒の涙が溢れる。 着ている鎧も服もボロボロだ。
余程、激しい戦いだったのだろう。
「ギギ……シャーマン殿、何が起きたか……我から話そうぞ]
◆◇◆
王から聞いた話しは、ほぼフォレストウルフキングから聞いたのと同じ内容だった。
(そうか……本当にあの巨大な生き物が街を救ってくれたんだね。 ギブスが、命を捨てても守りたかった民達を、王国を代わりに守ってくれたんだね……)
シャーマンは草原で会った巨大な生き物に礼すら言わなかった事を後悔した。
(もし、話す機会が有れば謝らなければ……んん?)
シャーマンがどうしたものかと歩いていると、焚き火の側で休むゴブリン達の会話が聞こえた。
それは、巨大な生き物に対する中傷だった。 憎しみとも言える感情に任せた暴言だ。 家を、街を失ったのはあの生き物のせいだと。
あの生き物が居なくても街は守れていたとほざいていた。
(ふざけるんじゃあ無いよ! 精鋭のインペリアル近衛兵達が全滅するような状況だったんだろ? そんな状況であんたらが生き残れる筈が無いだろうさ!)
シャーマンは腸が煮えくり返り、怒鳴り散らそうとも思ったが、周囲を見渡すと憎しみの感情に飲まれているゴブリンが多く居た。
シャーマンはその感情は不安から生まれたと推測する。
不安が止まらず、何かを悪く言わないと心の安定が取れないのだ。
あの巨大な生き物に感謝するゴブリンも多く居るだろう、しかし全員がそういう訳では無い。
(だからと言って、民を守る為に命を捨てた息子を、その息子の願いを守った生き物を悪く言うのは許さないよ! さて、どうしてやろうかね)
憤慨しながら考えていると、草原で癒しの族長が呟いていた言葉を思い出す。
(……癒しの女神様。 ふふっ……王国と息子の恩人だ。 狂信的な婆さんを演じるのも悪くないさね)
シャーマンは直ぐ様、近くのゴブリンから順番に王国を救った女神様の作り話を広めた。
効果は当然ながら抜群であった。
不安だった者達は、王国を救い守護する女神様の作り話に飛び付いた。 其処からはトントン拍子で進み、元から感謝していたゴブリン達も、崇める神の名前が知れたと喜ぶ始末。
そして朝になる頃には巨大な生き物を悪く言うゴブリンは居なくなった。
(ふふっ……徹夜した成果が出たさね)
シャーマンは疲労からふらつくが、直ぐに誰かが腕を支えた。
「ギヌ、シャーマンの婆さん。 これを飲どうぞ、眠気が吹き飛びますよ」
薬を渡してきたのは、癒しの族長だった。
シャーマンが街で合流し状況を話すとノリノリで協力してくれた影の功労者である。
ゴブリンで唯一のシャーマンと癒しの族長お墨付きの女神様だ。 疑う者は皆無だった。
「ギガ、ありがとうさね。 お、王と将軍の元へ女神様が来たみたいだね。 ふふ、皆から拝まれて苦笑いじゃないか。 よし、最後の仕上げさ」
「ギギ、芝居頑張ってね」
シャーマンは気合を入れ、クウネルの下へと向かった。
(ありがとう、私にとっては本当の癒しの女神さね)
「ギィガ……私達ゴブリンを救いし、癒しの女神よ! 本当に――
こうして、シャーマンの大芝居が始まった。
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