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第138話 ゴブリンシャーマンの勝利
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魔物の大群とゴブリン達の戦闘が始まって1時間が経過した。
既に陣形は崩れ、乱戦状態だ。 後衛のゴブリンシャーマン達の所まで魔物が来てしまっている。
魔物の死体が山となっても、何故か魔物達の攻撃は止まずゴブリン達にも重傷者が現れ始めた。
まだ死者は出てないが、長引けば大勢が死ぬ事になるだろう。
「ギヌ……ちっ! あんた達は後方に下がんな! 後ろに癒しの族長が治療してる。 ここは私が受け持つ、行きな!」
ゴブリンシャーマンは共に魔法を放っていたマジックゴブリン達を後退させていた。 交代していたとはいえ、既にマジックゴブリン達は限界だ。 魔力欠乏を起こし、何匹かは気絶していた。
(困ったねぇ、私はまだ何発かは打てるがマジックゴブリン達はこれ以上魔法は使えない。 此処に居ても死ぬだけさね)
ゴブリンシャーマンが命令したにも関わらず、マジックゴブリン達は誰も逃げようとしない。 まだ若いマジックゴブリン達を死なせるわけにはいかないとゴブリンシャーマンが動こうとした時、一匹の老マジックゴブリンが唾を撒き散らしながら叫んだ。
「ギギガ! 嫌じゃ! 確かにシャーマンの婆さんには魔法の腕は負けるが、儂も共に戦った兵士じゃ! 同胞を置いて逃げ――あびぇっ?!」
ゴブリンシャーマンは喚く老マジックゴブリンをぶん殴った。
(はぁ……この爺さんは、相変わらず魔法の腕はそこそこだけど、如何せん持続力が足りないのは変わらないねぇ)
ゴブリンシャーマンの拳で宙を舞った老マジックゴブリンはそのまま地面へと倒れ気絶した。
「ギギギ、ったく。 うるさい爺さんだね。 おい、この族長を運んでさっさと下がりな! じゃないと、この爺さんみたいにぶん殴るよ!」
ゴブリンシャーマンが拳を振り上げると、マジックゴブリン達は老マジックゴブリンを抱えて蜘蛛の子を散らすように後退した。
「ギィ……ふぅ、やっと行ったかね」
「シャァァッ!」 「ギシャァァッ!」
「ギガ! うるさいねぇ! ファイヤーボール!」
一息つくゴブリンシャーマンを襲うポイズンスネークとビックアント達を火魔法で焼き殺す。
「「「「「ギジャァァァ!」」」」」
「ギギ、引き際かね。 長老! そろそろ若いのを下がらせな!」
ゴブリンシャーマンが叫ぶも、未だ最前線で暴れる長老は聞こえていないのかビックボアの額目掛けてバスタードソードを無心に振り回していた。
(おいおい、まさかボケちまったのかね? ……いや、違うね。 戦うのを止めたら、総崩れする状態なんだね。 不味い……このままじゃ、殆どの兵士が死んじまうよ)
ゴブリンシャーマンが後方へと視線を移すと、弓兵達も矢が無くなったのかロングソードと小盾を構えてマンティス達と奮戦していた。
隊長もまだ無事なようだが、かなり負傷しているのが一目で分かる。
ゴブリンシャーマンがどうすべきかと思案していると、魔物が向かって来る方角とは別の森から視線を感じた。
「ギヌ? あ、あれは! こりゃ、何とかなるかもしれないねぇ!」
ゴブリンシャーマンは走り出した。
森から様子を窺っていた、大勢のフォレストウルフの群れに向かって。
◆◇◆
「ギィ、ギィ……ったく、本当に私も年老いちまったよ」
シャーマンは森に向かって走り出した所までは良かったが、腰が曲がっているせいで思う様に走れなかった。
(くそっ、まだ全然進んでないじゃないか!)
直ぐそこの森が、遠く感じる。 後ろを振り返ると、兵士達が魔物達に囲まれている所だった。
(もう時間が無いね! 届いとくれ!! 届けぇぇ!)
シャーマンは最後の力を振り絞り、念話の魔法を使用した。
(聞こえるかい?! フォレストウルフのリーダーはどいつだい!!)
この魔法なら、2足型言語を話せないフォレストウルフとも意思の疎通が取れるのだ。
(アゥン!? 何だ、頭の中に直接声が。 誰だ! 此方に向かって来ているゴブリンか!)
魔物とゴブリン達の戦いを見ていたフォレストウルフの1匹が反応した。
(うっさいね! リーダーは誰だい! こっちには時間が無いんだよ!!)
反応したフォレストウルフが四つん這いから立ち上がり、ゴブリンシャーマンの方へと進み出る。
他のフォレストウルフより大きく、恐らくリーダーなのだろう。
(ふんっ、我が群れのリーダーだ。 他種族がなに用か!)
(手を貸しな。 そっちも、住みかを追われてんだろ?)
(くっくっくっ、確かにそうだが。 何故、お前達ゴブリンを助けねばならぬ。 我等は誇り高きフォレストウルフ、ゴブリンの傘下に入った覚えはない!)
フォレストウルフのリーダーはシャーマンに吠え、威嚇する様に唸った。
(手を貸してくれたら、望む物をやるさね! 何が欲しい! 住みかか、食料か! 王都まで避難できれば、何とでも叶えようぞ!!)
シャーマンは一縷の望みに賭け、自身が約束出来る最大限の取引を提示した。 もし、これでダメなら味方のゴブリン達は全滅する事になる。
(ぬぅ……我等は、元々は偉大なフォレストウルフキングの住みかを目指していた。 だが、その道中にゴブリンの王国があるせいで永くこの地に足止めを食らっていたのだ。 手を貸してもいいが……王国を通る許可を求める)
(分かったよ。 約束しよう、王に言って許可を出させる。 それと混乱を防ぐ為に一旦、王国に属しているとさせてもらうよ?)
(……それで構わん。 もし、約束を違えた時……その喉元を食い千切ってやるからな)
フォレストウルフリーダーは歯を剥き出しにし、ゴブリンシャーマンは皺だらけの顔で笑った。
「ギッギッギ、こんな婆さんの命で済むなら安いさね。 まぁ、あの王なら私の話を無下にはしないだろうさ」
(よし! じゃあ、私を乗せとくれ! あんた達だけで向かってゴブリンに攻撃されたら嫌だろ?)
シャーマンの念話に、フォレストウルフリーダーは一瞬嫌な顔をしたが渋々四つん這いになり乗せてやる。
(ふんっ、今回だけだぞ。 さぁ、我が群れよ! 偉大な王の下へと行く前に狩りの時間だ!)
「グルルルル……アオォォォォォン!!」
「「「「「「アオォォォォォン!」」」」」」
リーダーが遠吠えをすると、森から一斉にフォレストウルフ達が飛び出す。
森から飛び出したフォレストウルフの数は軽く数千は越えており、シャーマンの予想以上の大群だった。 そして、シャーマンを乗せたリーダーを先頭にフォレストウルフの群れが突撃する。
しかし、何も知らないゴブリン達は突如として現れたフォレストウルフを応戦しようと動いていた。
「ギガァ! 待ちなぁ! このフォレストウルフ達は味方だよ! 王国に属する味方だ! 攻撃するんじゃぁないよ!」
シャーマンは必死に叫ぶ。
「ギガ!? 婆さん?! おい、待て! あれは味方だ! 味方だぁぁぁ!」
(やれやれ……隊長が私に気づいてくれたみたいだね)
隊長の言葉を聞いたゴブリン達から歓声が上がる。
「ギ! 何やってんだい! まだ戦闘中だよ! さっさと終わらすよ!」
「「「「「「ギガ! おうっ!」」」」」」
「「「「「「「ガァァァッ!!」」」」」」
フォレストウルフ達が魔物の群れに突撃してからは、あっという間だった。
既に半数近い数を倒していた事もあり、数千のフォレストウルフが参戦した事で一気に形勢逆転出来たのだ。
生き残った魔物達は急に憑き物が落ちたかのように逃げ出し、まだ向かってくる魔物は全て屠る事に成功した。
平原にはビックボアの死体が山となり、バラバラになったマンティスやビックアントの死骸が散乱していた。 更にポイズンスネークの死体からは微弱ながら大量の毒が流れ出て池の様になっていた。
まさに地獄の様な光景だった。
「ギ! 逃げ出した魔物は放っておきな! 負傷者の確認を急いで、重傷の者から治療してもらいな! 癒しの婆さん、頼んだよ!」
シャーマンはフォレストウルフリーダーに乗ったままゴブリン達に指示する。
ゴブリン達が戦闘を止めたからか、フォレストウルフ達も魔物を追うことはせずに周囲を警戒してくれていた。
フォレストウルフリーダーが取り引きをしっかりと守っている間は一安心だろう。
(さて、長老は……良かった、生きてたさね)
フォレストウルフリーダーから降り、長老の元へと向かう。
「ギガガ! 助かった、皆殺しのシャーマン バスターソードも折れたしの。 もう死ぬの待つだけじゃった! ほっほっほっほ!」
傷だらけの長老は満面の笑顔で笑う。
「ギギ……やれやれ、本当に無茶する所は変わらないねぇ」
全くだと、生き残った周囲の族長達も大笑いしている。
族長は全員生還しているが、癒しの族長以外はボロボロだ。
兵士に死者は出ただろうかと辺りを見渡すが、重傷者や負傷者だらけだ。 しかし、戦場に伏した者が居ない事にシャーマンは安堵した。
重傷者がどうなるかは分からないが、少なくとも現時点では全員生き延びれたようだ。
(私達族長の役目は王から任された村や町に住むゴブリン達を守る事だからねぇ。 その役目を果たせたなら何より何だけどね……)
「ギガ、いてて……おーい! シャーマンの婆さん無事かー?」
傷だらけの隊長がシャーマンの下へとやって来た。
「ギギ、ここだよ隊長。 さ、おぶっとくれ」
疲れたシャーマンは隊長の背中に無理矢理よじ登る。
「ギガ?! ちょっ! いててて!」
怪我人の応急措置が終わり次第、先に避難しているゴブリン達に追い付かなければならない。 そっちにも魔物の襲撃があるかもしれないからだ。
シャーマンが隊長によじ登ってると、フォレストウルフのリーダーがやって来た。
(おっと、リーダー助かったよ。 おかげで、なんとかなったさね)
(ふんっ、容易い事だ。 で、この後は?)
(すまないが、王都まで護衛を頼むよ。 あたしらは、もうボロボロだからね)
フォレストウルフのリーダーは鼻をならした後、群れの元へと戻って行った。
フォレストウルフがゴブリンの周囲に広がり、守る様に陣形を組んた所を見るに了承したのだろう。
「ギギ! ほれっ、隊長! もうひとふんばりだよ」
「ギガ! いてぇって婆さん! マンティスに背中をバッサリ切られてんだから叩くな!」
喚く隊長を余所に、シャーマンの意識は既に息子の居る街へと向いていた。
既に陣形は崩れ、乱戦状態だ。 後衛のゴブリンシャーマン達の所まで魔物が来てしまっている。
魔物の死体が山となっても、何故か魔物達の攻撃は止まずゴブリン達にも重傷者が現れ始めた。
まだ死者は出てないが、長引けば大勢が死ぬ事になるだろう。
「ギヌ……ちっ! あんた達は後方に下がんな! 後ろに癒しの族長が治療してる。 ここは私が受け持つ、行きな!」
ゴブリンシャーマンは共に魔法を放っていたマジックゴブリン達を後退させていた。 交代していたとはいえ、既にマジックゴブリン達は限界だ。 魔力欠乏を起こし、何匹かは気絶していた。
(困ったねぇ、私はまだ何発かは打てるがマジックゴブリン達はこれ以上魔法は使えない。 此処に居ても死ぬだけさね)
ゴブリンシャーマンが命令したにも関わらず、マジックゴブリン達は誰も逃げようとしない。 まだ若いマジックゴブリン達を死なせるわけにはいかないとゴブリンシャーマンが動こうとした時、一匹の老マジックゴブリンが唾を撒き散らしながら叫んだ。
「ギギガ! 嫌じゃ! 確かにシャーマンの婆さんには魔法の腕は負けるが、儂も共に戦った兵士じゃ! 同胞を置いて逃げ――あびぇっ?!」
ゴブリンシャーマンは喚く老マジックゴブリンをぶん殴った。
(はぁ……この爺さんは、相変わらず魔法の腕はそこそこだけど、如何せん持続力が足りないのは変わらないねぇ)
ゴブリンシャーマンの拳で宙を舞った老マジックゴブリンはそのまま地面へと倒れ気絶した。
「ギギギ、ったく。 うるさい爺さんだね。 おい、この族長を運んでさっさと下がりな! じゃないと、この爺さんみたいにぶん殴るよ!」
ゴブリンシャーマンが拳を振り上げると、マジックゴブリン達は老マジックゴブリンを抱えて蜘蛛の子を散らすように後退した。
「ギィ……ふぅ、やっと行ったかね」
「シャァァッ!」 「ギシャァァッ!」
「ギガ! うるさいねぇ! ファイヤーボール!」
一息つくゴブリンシャーマンを襲うポイズンスネークとビックアント達を火魔法で焼き殺す。
「「「「「ギジャァァァ!」」」」」
「ギギ、引き際かね。 長老! そろそろ若いのを下がらせな!」
ゴブリンシャーマンが叫ぶも、未だ最前線で暴れる長老は聞こえていないのかビックボアの額目掛けてバスタードソードを無心に振り回していた。
(おいおい、まさかボケちまったのかね? ……いや、違うね。 戦うのを止めたら、総崩れする状態なんだね。 不味い……このままじゃ、殆どの兵士が死んじまうよ)
ゴブリンシャーマンが後方へと視線を移すと、弓兵達も矢が無くなったのかロングソードと小盾を構えてマンティス達と奮戦していた。
隊長もまだ無事なようだが、かなり負傷しているのが一目で分かる。
ゴブリンシャーマンがどうすべきかと思案していると、魔物が向かって来る方角とは別の森から視線を感じた。
「ギヌ? あ、あれは! こりゃ、何とかなるかもしれないねぇ!」
ゴブリンシャーマンは走り出した。
森から様子を窺っていた、大勢のフォレストウルフの群れに向かって。
◆◇◆
「ギィ、ギィ……ったく、本当に私も年老いちまったよ」
シャーマンは森に向かって走り出した所までは良かったが、腰が曲がっているせいで思う様に走れなかった。
(くそっ、まだ全然進んでないじゃないか!)
直ぐそこの森が、遠く感じる。 後ろを振り返ると、兵士達が魔物達に囲まれている所だった。
(もう時間が無いね! 届いとくれ!! 届けぇぇ!)
シャーマンは最後の力を振り絞り、念話の魔法を使用した。
(聞こえるかい?! フォレストウルフのリーダーはどいつだい!!)
この魔法なら、2足型言語を話せないフォレストウルフとも意思の疎通が取れるのだ。
(アゥン!? 何だ、頭の中に直接声が。 誰だ! 此方に向かって来ているゴブリンか!)
魔物とゴブリン達の戦いを見ていたフォレストウルフの1匹が反応した。
(うっさいね! リーダーは誰だい! こっちには時間が無いんだよ!!)
反応したフォレストウルフが四つん這いから立ち上がり、ゴブリンシャーマンの方へと進み出る。
他のフォレストウルフより大きく、恐らくリーダーなのだろう。
(ふんっ、我が群れのリーダーだ。 他種族がなに用か!)
(手を貸しな。 そっちも、住みかを追われてんだろ?)
(くっくっくっ、確かにそうだが。 何故、お前達ゴブリンを助けねばならぬ。 我等は誇り高きフォレストウルフ、ゴブリンの傘下に入った覚えはない!)
フォレストウルフのリーダーはシャーマンに吠え、威嚇する様に唸った。
(手を貸してくれたら、望む物をやるさね! 何が欲しい! 住みかか、食料か! 王都まで避難できれば、何とでも叶えようぞ!!)
シャーマンは一縷の望みに賭け、自身が約束出来る最大限の取引を提示した。 もし、これでダメなら味方のゴブリン達は全滅する事になる。
(ぬぅ……我等は、元々は偉大なフォレストウルフキングの住みかを目指していた。 だが、その道中にゴブリンの王国があるせいで永くこの地に足止めを食らっていたのだ。 手を貸してもいいが……王国を通る許可を求める)
(分かったよ。 約束しよう、王に言って許可を出させる。 それと混乱を防ぐ為に一旦、王国に属しているとさせてもらうよ?)
(……それで構わん。 もし、約束を違えた時……その喉元を食い千切ってやるからな)
フォレストウルフリーダーは歯を剥き出しにし、ゴブリンシャーマンは皺だらけの顔で笑った。
「ギッギッギ、こんな婆さんの命で済むなら安いさね。 まぁ、あの王なら私の話を無下にはしないだろうさ」
(よし! じゃあ、私を乗せとくれ! あんた達だけで向かってゴブリンに攻撃されたら嫌だろ?)
シャーマンの念話に、フォレストウルフリーダーは一瞬嫌な顔をしたが渋々四つん這いになり乗せてやる。
(ふんっ、今回だけだぞ。 さぁ、我が群れよ! 偉大な王の下へと行く前に狩りの時間だ!)
「グルルルル……アオォォォォォン!!」
「「「「「「アオォォォォォン!」」」」」」
リーダーが遠吠えをすると、森から一斉にフォレストウルフ達が飛び出す。
森から飛び出したフォレストウルフの数は軽く数千は越えており、シャーマンの予想以上の大群だった。 そして、シャーマンを乗せたリーダーを先頭にフォレストウルフの群れが突撃する。
しかし、何も知らないゴブリン達は突如として現れたフォレストウルフを応戦しようと動いていた。
「ギガァ! 待ちなぁ! このフォレストウルフ達は味方だよ! 王国に属する味方だ! 攻撃するんじゃぁないよ!」
シャーマンは必死に叫ぶ。
「ギガ!? 婆さん?! おい、待て! あれは味方だ! 味方だぁぁぁ!」
(やれやれ……隊長が私に気づいてくれたみたいだね)
隊長の言葉を聞いたゴブリン達から歓声が上がる。
「ギ! 何やってんだい! まだ戦闘中だよ! さっさと終わらすよ!」
「「「「「「ギガ! おうっ!」」」」」」
「「「「「「「ガァァァッ!!」」」」」」
フォレストウルフ達が魔物の群れに突撃してからは、あっという間だった。
既に半数近い数を倒していた事もあり、数千のフォレストウルフが参戦した事で一気に形勢逆転出来たのだ。
生き残った魔物達は急に憑き物が落ちたかのように逃げ出し、まだ向かってくる魔物は全て屠る事に成功した。
平原にはビックボアの死体が山となり、バラバラになったマンティスやビックアントの死骸が散乱していた。 更にポイズンスネークの死体からは微弱ながら大量の毒が流れ出て池の様になっていた。
まさに地獄の様な光景だった。
「ギ! 逃げ出した魔物は放っておきな! 負傷者の確認を急いで、重傷の者から治療してもらいな! 癒しの婆さん、頼んだよ!」
シャーマンはフォレストウルフリーダーに乗ったままゴブリン達に指示する。
ゴブリン達が戦闘を止めたからか、フォレストウルフ達も魔物を追うことはせずに周囲を警戒してくれていた。
フォレストウルフリーダーが取り引きをしっかりと守っている間は一安心だろう。
(さて、長老は……良かった、生きてたさね)
フォレストウルフリーダーから降り、長老の元へと向かう。
「ギガガ! 助かった、皆殺しのシャーマン バスターソードも折れたしの。 もう死ぬの待つだけじゃった! ほっほっほっほ!」
傷だらけの長老は満面の笑顔で笑う。
「ギギ……やれやれ、本当に無茶する所は変わらないねぇ」
全くだと、生き残った周囲の族長達も大笑いしている。
族長は全員生還しているが、癒しの族長以外はボロボロだ。
兵士に死者は出ただろうかと辺りを見渡すが、重傷者や負傷者だらけだ。 しかし、戦場に伏した者が居ない事にシャーマンは安堵した。
重傷者がどうなるかは分からないが、少なくとも現時点では全員生き延びれたようだ。
(私達族長の役目は王から任された村や町に住むゴブリン達を守る事だからねぇ。 その役目を果たせたなら何より何だけどね……)
「ギガ、いてて……おーい! シャーマンの婆さん無事かー?」
傷だらけの隊長がシャーマンの下へとやって来た。
「ギギ、ここだよ隊長。 さ、おぶっとくれ」
疲れたシャーマンは隊長の背中に無理矢理よじ登る。
「ギガ?! ちょっ! いててて!」
怪我人の応急措置が終わり次第、先に避難しているゴブリン達に追い付かなければならない。 そっちにも魔物の襲撃があるかもしれないからだ。
シャーマンが隊長によじ登ってると、フォレストウルフのリーダーがやって来た。
(おっと、リーダー助かったよ。 おかげで、なんとかなったさね)
(ふんっ、容易い事だ。 で、この後は?)
(すまないが、王都まで護衛を頼むよ。 あたしらは、もうボロボロだからね)
フォレストウルフのリーダーは鼻をならした後、群れの元へと戻って行った。
フォレストウルフがゴブリンの周囲に広がり、守る様に陣形を組んた所を見るに了承したのだろう。
「ギギ! ほれっ、隊長! もうひとふんばりだよ」
「ギガ! いてぇって婆さん! マンティスに背中をバッサリ切られてんだから叩くな!」
喚く隊長を余所に、シャーマンの意識は既に息子の居る街へと向いていた。
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