真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

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第116話 ゴブリン弓兵長の忠義

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 ――――はっ!?」

 まずい、俺とした事が意識を失ってたのか?

 周囲の状況は何も変わっていない。 どうやら、ほんの少し気絶していたようだ。

 あ、巨人も広場に来てくれたのか。

 巨人を知らない将軍や下級兵達、民達は唖然とした顔で巨人を見上げている。

 巨人は、背中に担いできた何かを下ろして開け始めた。
 
 あぁ、アレは荷物袋なのか。 何やら光沢が有るので背中を守る装備だと思い込んでいた。 どうやら、巨大な袋だったようだ。

 大きな指先で摘まんで取り出したのは、一度だけオーク帝国で見たことの有る植物だった。

 「ギイッ!? そ、それは! あの希少なマンドラゴラでは!?」

 森の奥地に入れば見つけることは可能だが、採取したら最後。 恐ろしい悲鳴を聞いて必ず死ぬと云われている希少な素材だ。

 昔、オーク帝国に出向いた際に錬金術師から聞いた。 マンドラゴラは他の素材と合わせる事で、凄まじい効果を発揮する正に神の素材だと。

 もし、その錬金術師の所にマンドラゴラを渡せた幸運な者は帝国で一生食えるだけの金貨が貰えるそうだ。

 しかし、採取には必ず死が付きまとう。

 だから、帝国では滅多に出ない犯罪者に採取させないと手に入らないとぼやいていたっけな。

 その超希少なマンドラゴラがこの巨大な袋に幾つ入っているんだ? ……この巨人は本当に何なんだ。

 俺が大きな声を上げたせいか、巨人が俺をジロリと見てきた。

 心臓が止まるかと思ったが直ぐに巨人は俺から目を離し、何やら大きな薬草の葉とマンドラゴラを指先で混ぜ始める。

 手が震える。
 この巨人は錬金術の心得も有るらしい。

 巨人が手の平で混ぜ合わせた薬を、伏して動かない我等の王にかけた。

 薬のかかった部位が薄く光るが、王はまだ動かない。

 巨人が森狼殿に何やら指示を飛ばすと、森狼殿が王の口を抉じ開けネバネバの薬を流し込む。

 周囲の下級兵達や民達からは不安の声が上がったが、見守るしか出来ないのが歯痒いな。

 王が薬を飲み込んだのを確認した直後、王の欠損していた手足や溶けた身体が再生し始めた。

 まじかよ……奇跡だ。

 あんなにボロボロだった王には、かすり傷すら見当たらない。

 再生が終わった直後、王の身体がピクピクと跳ね回り大きく咳き込んだ。

 「ギガ! ゲホゲホッ! ぬぅ……? 私は……いったい。 民は!? 民は無事か!」

 意識を取り戻すと同時に住民の心配か……心配してたのは此方だよ馬鹿やろうが!

 「「「「ギガァァァァ! 凄い! 奇跡だー!」」」」

 周囲の民達や下級兵達から喝采が上がる。

 森狼殿もボロボロと泣いて喜んでいるのが見えた。

 くそっ! 俺も涙が止まらねぇ! 良かった、よがっだ!

 喜ぶ俺達を他所に巨人は次の薬を準備し始めている。 あんなに希少なマンドラゴラを面識も無い俺達の為に惜しみ無く使ってくれるようだ。

 「はーい! じゃあ、どんどん治療するから重傷の人からいくよー?」

 巨人が薬を調合している所に、片腕を失った将軍が近付いて行く。

 「ん。 じゃあ、貴方からね」

 巨人が将軍に薬をかけようとしたら、何故か地面に頭を打ち付けた。 あーあ、始まったよ。

 ……ったく、うちの将軍は生真面目過ぎ何だよ。

 「キギ……深く、深く感謝する。我等の、我等の王を救って下さった事。魔物達を退けて下さった事、本当に本当に感謝する! 」

 将軍の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

 そりゃそうだよな。

 最強の筈の将軍でも、どうにも出来なかったんだ。
 もう、滅ぶ道しか無かったんだもんな。

 「えっと……どういたしまして? で、貴方から治療すれば良いのかな?」

 ははっ! この巨人からしたら俺達を助けた事は当たり前の事なのか? おいおい、勘弁してくれよ。

 俺達は何の見返りも渡せないんだぞ?

 「ギガ、い、いえ。 私等では無く、他の者からお願い致す!」

 生真面目過ぎる将軍が当然の様に治療を拒み、他のゴブリンからの治療を頼んでいる。

 しかし、他の怪我人達からは将軍を先に治療してくれと言い始める。

 おいおい、お前等ちょっと落ち着けよ。

 俺が制止に入ろうとした時、巨人が突如手の平一杯に薬を混ぜ始めた。

 あー……嫌な予感がするぞ。
 
 「うん、こんなもんかな! ええええい! めんどくさい! お前達纏めて治療してやるー! くらええぇぇぇぇ!!」

 巨人が手の平にたっぷり作った薬をその場の怪我人全員にぶっかけた。

 「ギガ! いやお前達が先に!」 「「「「キギ! いえ、将軍が先に! ……え? ぎゃあぁぁぁぁぁ!」」」」

 俺も含めて将軍や他の怪我人達がネバネバの光りに包まれる。

 「ギガガガ! 巨躯なる者よ、助けてくれて感謝する! かたじけない!」

 光りに包まれたままの王が巨人に何やら言っているのが聞こえるが、ネバネバで良く分からない。

 傷が消えていく、あんなに重たかった身体が軽い。

 「ん? 何か王様が言ってる? ごめんね、時間無いからまた今度ね。 モロ、また敵が接近してる。 しかも、今度のは上位の魔物らしい。 私が迎え撃つから、無理そうだったら皆を連れて逃げて」

 巨人は、言う事を言ったらさっさと街を出て行ってしまった。

 「ゲホッ! ゲホゲホッ! クウネル!? 待ってくれ! 友達を見捨てたりはしないよ! クウネル!」

 そうか、だからあんなに治療を急いでたんだな。

 巨人はまだ敵が接近している事に気付いてたんだ!

 「ギガ、ふむ。 我が友よ、いかにする? 我としては、大恩有る者を置いて避難等したくはないのだが」

 「クフクフ、やれやれ君はいつも通りだね。 だけど、私より強いクウネルが逃げろと云う相手だ。 残っても邪魔になるだけじゃないか?」

 そうか、あの巨人はクウネルと云う名なのか。

 良い名前だ。

 もし、望みが叶うなら……クウネル様に俺の忠義を捧げたい。 あの様に体も心も全てが規格外な御方に仕えるんだ!
 
 よし! クウネル様の助けになるよう動いて、俺の忠義を受け取って貰うぞ!
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