真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

文字の大きさ
上 下
120 / 237

第116話 ゴブリン弓兵長の忠義

しおりを挟む
 ――――はっ!?」

 まずい、俺とした事が意識を失ってたのか?

 周囲の状況は何も変わっていない。 どうやら、ほんの少し気絶していたようだ。

 あ、巨人も広場に来てくれたのか。

 巨人を知らない将軍や下級兵達、民達は唖然とした顔で巨人を見上げている。

 巨人は、背中に担いできた何かを下ろして開け始めた。
 
 あぁ、アレは荷物袋なのか。 何やら光沢が有るので背中を守る装備だと思い込んでいた。 どうやら、巨大な袋だったようだ。

 大きな指先で摘まんで取り出したのは、一度だけオーク帝国で見たことの有る植物だった。

 「ギイッ!? そ、それは! あの希少なマンドラゴラでは!?」

 森の奥地に入れば見つけることは可能だが、採取したら最後。 恐ろしい悲鳴を聞いて必ず死ぬと云われている希少な素材だ。

 昔、オーク帝国に出向いた際に錬金術師から聞いた。 マンドラゴラは他の素材と合わせる事で、凄まじい効果を発揮する正に神の素材だと。

 もし、その錬金術師の所にマンドラゴラを渡せた幸運な者は帝国で一生食えるだけの金貨が貰えるそうだ。

 しかし、採取には必ず死が付きまとう。

 だから、帝国では滅多に出ない犯罪者に採取させないと手に入らないとぼやいていたっけな。

 その超希少なマンドラゴラがこの巨大な袋に幾つ入っているんだ? ……この巨人は本当に何なんだ。

 俺が大きな声を上げたせいか、巨人が俺をジロリと見てきた。

 心臓が止まるかと思ったが直ぐに巨人は俺から目を離し、何やら大きな薬草の葉とマンドラゴラを指先で混ぜ始める。

 手が震える。
 この巨人は錬金術の心得も有るらしい。

 巨人が手の平で混ぜ合わせた薬を、伏して動かない我等の王にかけた。

 薬のかかった部位が薄く光るが、王はまだ動かない。

 巨人が森狼殿に何やら指示を飛ばすと、森狼殿が王の口を抉じ開けネバネバの薬を流し込む。

 周囲の下級兵達や民達からは不安の声が上がったが、見守るしか出来ないのが歯痒いな。

 王が薬を飲み込んだのを確認した直後、王の欠損していた手足や溶けた身体が再生し始めた。

 まじかよ……奇跡だ。

 あんなにボロボロだった王には、かすり傷すら見当たらない。

 再生が終わった直後、王の身体がピクピクと跳ね回り大きく咳き込んだ。

 「ギガ! ゲホゲホッ! ぬぅ……? 私は……いったい。 民は!? 民は無事か!」

 意識を取り戻すと同時に住民の心配か……心配してたのは此方だよ馬鹿やろうが!

 「「「「ギガァァァァ! 凄い! 奇跡だー!」」」」

 周囲の民達や下級兵達から喝采が上がる。

 森狼殿もボロボロと泣いて喜んでいるのが見えた。

 くそっ! 俺も涙が止まらねぇ! 良かった、よがっだ!

 喜ぶ俺達を他所に巨人は次の薬を準備し始めている。 あんなに希少なマンドラゴラを面識も無い俺達の為に惜しみ無く使ってくれるようだ。

 「はーい! じゃあ、どんどん治療するから重傷の人からいくよー?」

 巨人が薬を調合している所に、片腕を失った将軍が近付いて行く。

 「ん。 じゃあ、貴方からね」

 巨人が将軍に薬をかけようとしたら、何故か地面に頭を打ち付けた。 あーあ、始まったよ。

 ……ったく、うちの将軍は生真面目過ぎ何だよ。

 「キギ……深く、深く感謝する。我等の、我等の王を救って下さった事。魔物達を退けて下さった事、本当に本当に感謝する! 」

 将軍の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

 そりゃそうだよな。

 最強の筈の将軍でも、どうにも出来なかったんだ。
 もう、滅ぶ道しか無かったんだもんな。

 「えっと……どういたしまして? で、貴方から治療すれば良いのかな?」

 ははっ! この巨人からしたら俺達を助けた事は当たり前の事なのか? おいおい、勘弁してくれよ。

 俺達は何の見返りも渡せないんだぞ?

 「ギガ、い、いえ。 私等では無く、他の者からお願い致す!」

 生真面目過ぎる将軍が当然の様に治療を拒み、他のゴブリンからの治療を頼んでいる。

 しかし、他の怪我人達からは将軍を先に治療してくれと言い始める。

 おいおい、お前等ちょっと落ち着けよ。

 俺が制止に入ろうとした時、巨人が突如手の平一杯に薬を混ぜ始めた。

 あー……嫌な予感がするぞ。
 
 「うん、こんなもんかな! ええええい! めんどくさい! お前達纏めて治療してやるー! くらええぇぇぇぇ!!」

 巨人が手の平にたっぷり作った薬をその場の怪我人全員にぶっかけた。

 「ギガ! いやお前達が先に!」 「「「「キギ! いえ、将軍が先に! ……え? ぎゃあぁぁぁぁぁ!」」」」

 俺も含めて将軍や他の怪我人達がネバネバの光りに包まれる。

 「ギガガガ! 巨躯なる者よ、助けてくれて感謝する! かたじけない!」

 光りに包まれたままの王が巨人に何やら言っているのが聞こえるが、ネバネバで良く分からない。

 傷が消えていく、あんなに重たかった身体が軽い。

 「ん? 何か王様が言ってる? ごめんね、時間無いからまた今度ね。 モロ、また敵が接近してる。 しかも、今度のは上位の魔物らしい。 私が迎え撃つから、無理そうだったら皆を連れて逃げて」

 巨人は、言う事を言ったらさっさと街を出て行ってしまった。

 「ゲホッ! ゲホゲホッ! クウネル!? 待ってくれ! 友達を見捨てたりはしないよ! クウネル!」

 そうか、だからあんなに治療を急いでたんだな。

 巨人はまだ敵が接近している事に気付いてたんだ!

 「ギガ、ふむ。 我が友よ、いかにする? 我としては、大恩有る者を置いて避難等したくはないのだが」

 「クフクフ、やれやれ君はいつも通りだね。 だけど、私より強いクウネルが逃げろと云う相手だ。 残っても邪魔になるだけじゃないか?」

 そうか、あの巨人はクウネルと云う名なのか。

 良い名前だ。

 もし、望みが叶うなら……クウネル様に俺の忠義を捧げたい。 あの様に体も心も全てが規格外な御方に仕えるんだ!
 
 よし! クウネル様の助けになるよう動いて、俺の忠義を受け取って貰うぞ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...