真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

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第114話 ゴブリン弓兵長の目撃

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 どれだけの矢を射っただろうか、何時間戦っているのだろうか。

 わからない、城壁の外にいる魔物達の数が変わらないせいで感覚が狂ってきている。

 まずいな。

 部下たちの疲労が激しい。

 既に損耗率は5割を超えてしまった。

 城壁の片隅にはスライムかジャイアントアントの溶解液が直撃して死んだ部下達が並べられている。 命を賭して最後まで戦った優秀な部下達だ。

 「ギ! 弓兵長、じきに矢が切れます」

 ……嫌な事は続きやがる。

 「ギギ、分かった。 何名か裏門へ向かわせろ、矢に余裕が有れば補充させるんだ」

 「ギ! はっ!」

 やれやれ、裏門はまだ突破されたとは聞いていないからな。 向こうの弓兵長が上手くやっているのだろう。

 もしくは、偉大な我等の王のお陰か。

 暫くすると、部下の1人が叫んだ。

 「ギガ!? な、何だアレは! 魔物か?!」

 一斉に見ると、トロールより大きな2足型の何かが凄まじい勢いで此方へ走ってきていた。 城壁よりもはるかに高く、何故こんなに近くに来るまで察知出来なかったのか不思議で仕方無い。

 「ギガァ! 新手の敵襲か!? くそ、こんな時に! 射てー! 近付けるな!」

 部下が叫び、攻撃を開始したのを見ながら俺は異変に気付いた。

 「ギガ? あの2足型の肩に何か乗ってないか?」

 アレは……森狼殿!? 何なんだあの巨大な生き物は……。

 だが、森狼殿が肩に乗っておられるという事はこの巨大な2足型は味方なのか?

 此方がどんなに矢を浴びせても反撃して来ない所を見ると、敵意が無い事が分かる。 っていうか、全く矢が効いていない。

 「ギガ! 矢射ちを止めろぉ! 肩に森狼殿が乗っておられる!」

 俺の合図で攻撃を止めたと同時に、城壁へ森狼殿が降りてきた。

 我が王の友にして、あの巨木の森を縄張りとする森狼達の王。 多くの森狼を従え、我等の言葉を巧みに操り、その強さは将軍より優ると聞く。

 もし森狼達の援軍が来たなら助かるかも知れないぞ。 この滅亡に瀕している王国が!

 「ギギ! これは森狼殿、先程は部下が失礼致しました」

 「アゥン? 私を知っているのか、助かる。 力及ぶかどうか分からないが、助けに来たよ。 もう、こっちの門は大丈夫だから裏門に増援を送ってくれ。 あ、キングの奴は城かい?」

 森狼殿は城壁の外に群がる魔物達が見えていないかの様に振る舞い、俺はソレを呆然と聞いていた。

 「……ギ? え、あの、はい。 王は裏門の守備に参戦しておられます。 しかし、森狼殿。 こっちの門が大丈夫というのは? あ、森狼達が援軍に来てくれたのですか?」

 希望を込めて問うた俺に、森狼殿は少し悩んでから答えた。

 「ガウッ……すまないね、森狼の狩人達は殆ど死んだんだ。 巨大な飛竜に襲われてね。 でも、大丈夫さ。 城壁の外で暴れてる私の友は、その巨大な飛竜を食い殺した巨人だからね! ははは、さぁ動いて動いて!」

 ……はぁ!? あの狩人として有名な森狼達が殆ど死んだ!? 待て待て、もうダメだ。 頭がパンクしちまう!

 状況が飲み込めない中、弓兵達は森狼殿に急かされて裏門への援軍へと向かい始めた。 

 「巨人……? 何だ、巨人とは」
 
 城壁の倍以上有る巨人を見上げて、俺はボソリと呟いた。

 ◆◇◆

 もう正門には俺しか残っていない。

 森狼殿は本当にもうこの門は大丈夫だと判断したのだろう。 俺以外、全員裏門に送っちまった。

 ……弓兵達の隊長は俺なんすけど?

 裏門にも別の弓兵長が居るし、俺は本当に正門が大丈夫なのか城壁の上から見守る事にした。

 森狼殿の友である巨人は色んな意味で凄い見た目をしている。

 まず俺達ゴブリンには生えていない毛が頭から生えている。黒色の毛だ。

 それに手足が長く、肌の色も俺達と違う。

 何かの素材で作られた服を着ているので知能は高そうだな。

 胸の膨らみや、容姿から性別は雌だと分かるが……雌で、武器も無しでどうやってこの大群の魔物達を殺すのだろうか?

 「おわっ?! おいおい、ジャイアントアント達が本格的に門を溶かし始めたぞ!? 何処が大丈夫なんですか森狼殿ー?!」

 見物する暇もなく、俺は1匹だけでジャイアントアント達に矢を雨のように降らすが効果は薄い。

 「ちっ、俺だけじゃ防ぎきれないぞ?」

 俺が矢を放ち続けていると、巨人が魔物達を蹴散らしながら門の近くまでやって来た。 どうやら、門の前で倒れるインペリアル近衛兵達の骸に気づいたのか見つめ始めた。

 そして、顔を歪ませてジャイアントアント達を力任せに踏み潰した。

 「……怒っているのか? 王国を守る為に死んでいったゴブリン達の骸を見て? 同じ種族ならまだしも、自分と関係も無い種族の死に怒れるものなのか……?」

 巨人という存在が俺には全く理解出来ない。

 違う種族であれば、力無き者は死んで当然なのがこの世界だろ? 優しい生き物が生きていけるほど、この世界は優しくないじゃないか。

 直後、怒れる巨人の口が大きく開きチリチリと赤く光った。

 「火炎!! ガァァァァァァァアアッ!」

 「な、なんだぁぁぁ!? 巨人の口から炎が! あっちぃぃぃぃ!」

 凄まじい熱風に襲われた俺は堪らず城壁の中へと避難する。

 「す、すげぇぇぇ! 巨人は何てすげぇ種族なんだ!」

 凄まじい炎は地面を焦土と化し、次に俺が顔を上げると門の周辺に居た魔物達は全て焼け死んでいた。

 一緒に、戦って散った仲間達の骸も灰となる。

 「魔物達に食われるより何倍もマシだな。 灰となり、どうか心安らかに王国を見守っていてくれ……」

 俺が灰となり風に吹かれて消えて行く同胞を見送っていると、直ぐに次の魔物達が押し寄せて来た。

 「くそ! あれだけ殺したのにまだ来やがる!」

 城壁から身を出して見渡すと数千の魔物達が巨人に向かって突撃していくのが見える。

 「火炎! ガァァァァァァァアアッ!」

 巨人がまた火を吐く、火を吐く吐く吐く吐く吐く!!

 ダメだ、俺達が殺した数倍はもう焼き殺したのにまだ魔物達が押し寄せて来てる。

 ……これじゃ埒が明かない。 俺に何か出来る事は……え? 森狼殿!?

 裏門に居る王に会いに行った筈の森狼殿が何故か城壁に戻ってきて叫んだ。

 「アオーーーンッ! クウネル! もう1つの門が突破された!」

 マジかよ!? ……あの王が守る裏門が破れただと? まさか、陛下に何かあったのか?

 「こうしちゃいられねぇ! 俺も裏門に向かわねぇと!」

 巨人の戦いぶりを見ていたい気持ちを抑え、おもわず走り出した俺の横に森狼殿が駆けてきた。

 「ガァッ! 裏門の弓兵長が戦死し、弓兵達がパニックを起こしてる。 私の背中に乗りなさい、直ぐに向かう!」

 「ギガ! すんません! 頼みます!」

 森狼殿の背中に乗り、凄まじい速度で城壁を駆け始めた。

 死なんで下さいよ、我等が王よ!
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