上 下
46 / 195
第一章 新たな巨人生 幼少編

第46話 勇者カズキVSトール

しおりを挟む
 亜人連合軍とカズキの仲間が戦いの行く末を見守る中、カズキは胸中で絶対の自信が有った。

 (くっくっくっ、確かにサイズは圧倒的に違う。 だがこの世界ではレベルが全て、ステータスが全てなんだよ!! 2年間休み無くレベル上げに勤しんだ俺が負ける訳ないだろが!)

 「ぬぅんっ! 戦斧王斬り!!」

 トールが巨大な両手斧を振り抜く。 もし、相手がカズキで無ければ真っ二つに裂けるかミンチになる事だろう。

 「ふんっ!」

 カズキは危なげなく、迫る斧を両手剣で弾いた。 弾く時の衝撃波が亜人達を襲うがミカの結界があるおかげで被害は無かった。

 「ぐぁっはぁっはぁっ! やはり、勇者は強いのぅ! 儂では、歯が立たんわい!」

 暢気に会話をしながらも、トールの嵐のような攻撃をカズキは難なく受け流していく。 その速度は音速を超え、周囲の家や物が吹き飛ぶ。

 「何を言う、ご老人。 亜人最強なのだろう?  もっと自信を持てよ」

 両手斧と両手剣がぶつかる度に火花が散り、剣戟の音が鳴り響く。

 「圧倒的強者の余裕じゃなぁ、ちなみに儂は亜人最強と名乗った事など無いんじゃがのぅ。 しかし、儂にも時間を稼ぐ理由が有るでな。 もう暫し付き合ってもらうぞっ! 極兜割りっ!!」

 真上から戦技を発動させたトールの両手斧が凄まじい勢いで迫る。

 「これは、受け止めると危険だな」

 カズキが余裕を持って避けると、先程まで居た場所にはクレーターが出来ていた。 常人であれば、避ける事も受ける事も不可能だろう。

 「ぬぅおりゃあぁぁっ!! どうせ、当たっても無傷の癖によく言うわいっ!!」

 「ははっ、自分のステータスも確認出来ないのによく俺との力量の差が分かるな」

 カズキが受けに徹しているおかげで戦いになっているが、もし先に攻撃をしたのがカズキなら勝負は一瞬で付いていた事だろう。

 トールは、それ程までに自身と勇者の強さには開きがある事を悟る。

 「ぐぁっはぁっはぁっ! 伊達に長生きしておらんでなぁ! そりゃ、極戦斧三連激!極戦斧三連激!!」

 トールの両手斧から、巨大な真空の刃が6つ放たれた。

 「なぁ、聞きたいんだが。何で亜人連合軍を皆殺しにしないんだ? あんたなら出来ただろ」

 「ぬぅ……はぁ……はぁ……それは、答える義理は無いのぅ! くそっ、一撃も当てれんとは……む!?」

 トールが魔の森へと、一瞬視線を向けた。 それは、戦闘中では致命的な判断だがトールにとっては重大な理由であった。

 (ん? 何だ? 魔の森で何かあったのか?)

 背の高いトールだから見えたのであって、常人の身長であるカズキには何があったのか知る由も無かった。

 「ぐぁっはぁっはぁっ! これでもう何も思い残す事はないわい! くらぇいっ!」

 カズキが魔の森へ視線を向ける前に、何を血迷ったのかトールが全てを投げ出し倒れてきた。

 (おいおい、俺を押し潰そうってか? 無駄な事ぐらい分かるだろうに……)

 「悪いな、遊びは終いだ。 千里貫き突き!!」 

 カズキの戦技の威力は凄まじく、倒れてきていたトールの胴体に大きな穴を空け、更に空の雲まで貫いた。

 「がはぁっ……! ぐぁっはぁっは……これで離縁されずにすんだわい……の」

 トールは笑いながら、安堵した表情で事切れた。

 (ぬぐぐぐ、重てぇなこの野郎!!)

 トールの腹に空いた穴を抜け、カズキは何とか脱出する。

 「ぷはぁ……ふー、やっと死んだか。 図体がデカイだけだったな。 まぁ、お陰で俺の力を誇示するパフォーマンスにはなっただろ」

 (いてて、さすがにこの巨体は凄まじい重さだった。 腰を痛めて無かったら良いが)

 「よし、俺達の勝ちだ!! 勝鬨をあげろー!」

 カズキが亜人と仲間に声を掛けるが返答が無い。

 (ん? 俺が強すぎて声も出せないのか?)

 振り返ると、其処では………地竜の背中をステージにして踊っているヒカリと、それを呆然と見ている亜人連合軍の姿があった。

 「はーい! 皆、聞いてくれてありがとうっ! 次の曲もヒカリが大好きな曲なの! しっかり聞いててねー! キラッ☆」

 (え? 何でコンサートしてんの? 俺の見せ場だよね? っていうか、あの激闘の最中歌ってたの? 全然気付かなかったよ!! 見守ってたんじゃないのかよ!)

 『おー! ヒカリたん可愛いぞー!! さすが我の主人だー!!』

 足のない筋骨隆々な大男が魔法でBGMを担当しながら踊っているのが見え、カズキは頭を抱える。

 (あの禿げ頭に浅黒いガチムチマッチョは精霊王じゃねーか! あんの馬鹿! 喚ぶなつったのに!!)

 「エル! オー! ブイ! イー! ヒカリた、んー!」

 地竜の前ではオタフクが機敏な動きで精霊王の隣で踊っていた。

 (んー! じゃねんだよ! おい、そこのオタク!)

 「はーい、ヒールは一回金貨一枚ね~。 あ、お金無い亜人は宝石でも支払い可能よー」

 呆然としている亜人の兵士達をユズキが壺を持って練り歩き、ヒールした亜人から金品を徴収している。

 (よー。 じゃねんだよ!  何で商売にした?  其処のドS聖女!!)

 「あ、えっと、ごめんなさいカズキ君。止めたんだけど……止まらなかった」

 杖を握りしめるミカを見て、カズキはため息を吐いた。

 「はぁ……うん、いいよ。 もう……いいよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

処理中です...