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第一章 新たな巨人生 幼少編

第23話 漲る力と此処は何処?

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 クウネルは全身から力が抜け意識を完全に手放し掛けた時、確かに聞こえた。 祖父トールの声が。

 「クウネルっ! 教えた筈じゃ! 戦いでは、諦めた方が負けると!!  諦めるな! 最後まで足掻けぇぇい!」

 クウネルは目を見開き、意識を取り戻した。

 (そうだっ! 諦めたら負けだ!)

 意識が再度浮上したクウネルが強く感じたのは噛み付かれた痛みでは無く空腹だった。

 これまで味わった事の無い空腹がクウネルを襲う。

 心の奥底から自身のでは無い声が頭の中に響き、力が漲った。

 『食らえ、食らえ食らえ食らえ食らえ、全てを、目の前の物を、食らえ!  食らって! 食らい尽くして強くなりなさい!』

 クウネルは身体が動くのを確認した。 首も頭も動かせる。

 「あがぁっ! ぬぅぅおりゃあぁぁぁ!」

 クウネルは漲る力を振り絞り、目の前に有った子飛竜の首に思いっきり噛み付いた。

 クウネルの歯は硬い竜鱗を貫き、ミチミチと食い込ませる。

 「クルァッ!? ガギィァァァァッ!」

 仕留めたと思った獲物からの突然の反撃に、子飛竜は噛み付いていた大きな口をクウネルから離して悲鳴を上げた。

 (しめた! このまま喰い殺してやる!)

 子飛竜の身体を全力で抱き締めて、力の限り噛み付く。
 竜鱗の下に有る、喉の柔らかそうな皮膚を突き破り、血の味が、肉の味がクウネルの口内を満たした。

 (おいしぃぃぃぃぃ!! え?  ドラゴンって生でこんなに美味しいの?!)

 巨人生で初めて口にした竜の味はクウネルを魅了する。

 (全然鉄臭くない血が、濃厚なソースの様な味わいで生肉はジューシーでとても美味しいですな。 星3つ!! あ~~~~~~! 幸せーー!)

 クウネルは噛み付いた喉の肉を大きく食い千切り美味しそうに咀嚼する。 喉から大量の血を流し子飛竜は身体が大きく痙攣させた後、完全に事切れた。

 (うまうまうま、美味しい~。 あ、でも血を流しすぎたかも。 ふらふらする~)

 事切れた子飛竜の横でクウネルは倒れるが、地面に落ちる前に誰かに受け止められた。

 「クウネル! すまない遅くなった。パパだよ、もう大丈夫だ! よく頑張ったな、凄いぞ、凄いぞクウネル!」

 身体中生傷だらけの父ロスが、クウネルを受け止めたのだ。 クウネルは父の顔を見て安堵から微笑む。

 (やっぱり来てくれてたんだ。 じゃあ、さっきのじーじの声も幻聴じゃ無かったのかな?)

 意識が朦朧としながらも、周囲を見渡すと母エルザが大型の飛竜の頭から槍を引き抜いてる所だった。 

 (かっけー。 流石、ムキムキママだね)

 「クウネル! パパ、クウネルは、クウネルは無事?」

 ロスに抱えられたクウネル目掛けてエルザは駆け寄る。 エルザの身体も父と同じく全身生傷だらけだった。 此処まで追ってくるのに相当な無理をした事が窺えた。

 「ママ、クウネルが、クウネルの血がこんなに……」

 ロスはぐったりするクウネルを見ながら涙を流した。 そして、その涙がクウネルの顔目掛けて滴り落ちる。

 (パパ待って、私を受け止めたまま号泣しないで。 涙と鼻水が凄いの、垂れる! 垂れてるって!  パパ!?)

 「待ってて、クウネル。すぐに薬草で治して上げるから。大丈夫、大丈夫よ!」

 エルザが震える手でクウネルに薬草を塗り始める。 しかし、動揺し過ぎて力を加減が全く出来ていなかった。

 (待ってママ、力強すぎ! 傷抉ってる! 治った側から抉ってるよママ!  痛い痛い痛い!!)

 「ママ、痛いよ 大丈夫だから、優しく塗って」

 「あぁ、ごめんねクウネル ごめんね、遅くなってごめんね」

 (いや、だから力強すぎ!  あとパパ、いい加減止めて! 乙女の頭に鼻水は垂らしたらあかんて!)

 「ママ、パパ、大丈夫だから。 私、諦めなかったよ。 飛竜、1人で倒した」

 クウネルは両親に向けて誇らしげに微笑む。 ロスとエルザは泣きながらクウネルの頭を撫でた。

 「うん、うん、見てたよ。 凄かったね、ママ……最初クウネルが食べられてるのかと思って、心臓止まっちゃうかと思った」

 「直ぐに助けようとしたが、側の森からもう一匹親が出てきてな。 2人掛かりでも、手間取った。 なのに、クウネルは1人で倒したんだよな……パパはクウネルを誇りに思うぞ」

 両親から褒められ、嬉しさから頬が緩む。

 (えへへ~、頑張って良かったぁ)

 「ん、ちょっと疲れたから寝るね。 パパ、ママ」

 「うん、パパが必ずお家に連れて帰ってやるからな。 もう、絶対に離さないぞ」

 (パパは過保護だなぁ)

 「クウネル、起きたらご飯何食べたい?」

 (え? んー、って決まってるよね)

 「えへへ、ドラゴンステーキ!」

 「はいはい、さっきも美味しそうに噛み付いてたもんね。 でも、生肉はお腹壊すから止めなさいよ?  じゃあ、帰ったら飛竜で焼き肉にしましょうね」

 (やったぁぁぁあ!!  焼き肉だぁー!)

 「ん、じゃあ、少し寝るね。 パパ、ママ」

 「「おやすみ、可愛いクウネル」」

 クウネルは前世では経験しなかった、両親からの愛を全身に感じていた。 そして、一気に疲れが身体を包み瞼が重くなる。

 (あー、疲れた。 あ、じーじに会えてないや。 まぁ、起きたらお礼言えばいいか。 お休みなさーい)

 意識を飛ばしたクウネルを囲むエルザとロスの下に、血だらけのトールが駆け寄って来た。 地鳴らしを起こしながら、森の木々を吹き飛ばしている。

 トールの手には、縦に半分に切断された飛竜の死骸が垂らされていた。

 「ぬぅぅ、エルザ、ロス! クウネルはどうじゃ!  無事か!?」

 「親父、静かに。 今意識を失って、寝た所だ」

 「血を大分失ったようですが、薬草で傷も治したので大丈夫ですよお義父さん」

 トールは2人からの話に腰を抜かし、その場で尻餅を付いた。 トールが座った衝撃で後ろの木々が吹き飛ぶ。 そして、トールは大きく息を吐いた。

 「ぶはぁー、良かった、本当に良かった。 しかし、よくぞ戦い抜いたわぃ。 さすが、儂の孫じゃ!  ぐあっはぁっは!」

 「「しーー!!!」」

 エルザとロスに注意されたトールは、慌てて口を塞ぐ。

 「おっと、すまん、すまん。 さて、番の飛竜とクウネルの仕留めた子飛竜を持って村に帰るとするか」

 「ロスはクウネルをお願い。 お義父さんは獲物を運んで下さいますか? 村までの露払いは、私が致しますので!!」

 エルザが格好よく槍を掲げて宣言するが、残念ながら村はその方角では無かった。

 「エルザ、クウネルを頼む。 俺が先導するから」

 「エルザの方向音痴は、本当に凄いの。 指した方角は、完全に村と正反対じゃぞ。 ぐあっはぁっは!」

 「あ、あれー?  おかしいな」

 顔を真っ赤にしたエルザが背負っている愛娘は、幸せそうな顔で眠っていた。
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