上 下
159 / 226

第155話 クウネルへの忠誠

しおりを挟む
 足の指先から伸びる黒色の何かが侵食し始め、赤髪のクウネルはさらなる激痛に悲鳴を上げた。

 「あぐっ?! 痛い! 滅茶苦茶痛い!! 何された?! くそ、くそくそくそ!」

 «――鑑定をして下さい!»

 脳内に鑑定の声が響くも、赤髪のクウネルは振り払うように向かって来るゾンビ達にボロボロの槍を叩きつける。

 「うるさい! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!! 口出しするなって言ってるでしょ!」

 (私は誇り高き戦士、巨人だぞ! そんなスキルばかりに頼って堪るか! 諦めない、諦めなければ何とかなる。 お祖父ちゃんにそう教わったんだ!)

 明らかに正常の判断が出来ていない赤髪のクウネルは、激痛に堪えながら木製の槍を突き刺した。

 「ゾンビ共め、死ねー! 死ね死ね死ね死ねー!!」

 戦技の槍突きを連射し、迫りくるゾンビ狼達を粉々に吹き飛ばす。

 「「「「キャインッ!」」」」

 «――クウネル……このままでは貴女は……»

 痛みに堪えながら戦う赤髪のクウネルの耳には、鑑定の声は届かなかった。

 ◆◇◆

 木の槍を振り回し、ゾンビ達を蹴散らし続けたが遂に槍が折れた。

 代わりに見渡す限り居たゾンビをほとんど倒す事が出来ており、あと少しの所で武器が無くなってしまったのだ。

 代わりに火炎を吐き散らし、ゾンビ達を焼こうとするが何故か死体には全く効果が無かった。

 「げほっ! くそ! 何で、火炎が効かないのよ! うぐぐぐぐ! ぁぁぁあああいたぁぁぁい!」

 痛みに我慢出来ず、遂には膝をついて崩れた。

 «――気配を察知、凄まじい速度で接近中です。 これは……キュウベイ!?»

 (キュウベイって誰よ! いたたた! あぁ、偽者の眷属になったゴブリンだっけ? 物好きなゴブリンだよね、あんな馬鹿の眷属になるなん――いったぁいっ!!)

 赤髪のクウネルの噛まれた片足は既に変色し、真っ黒だ。

 「姉御ぉぉぉぉ! ご無事ですかぁぁぁ!?」

 そんな倒れる赤髪のクウネルを見つけたキュウベイは大弓を片手に、背中に背負っていた矢筒から大きな矢を取り出して放った。

 黒髪の筋肉マッチョのキュウベイが引き絞り放った大きな矢は倒れる赤髪のクウネルに迫っていたゾンビ達を纏めて貫き絶命させる。

 「「「「ギャィィィンッ!?」」」」

 「「「「キチィィィィッ?!」」」」

 「「「「キシャァァァァ!!」」」」

 更に大弓から放たれた矢は後ろに居た残りのゾンビ達を纏めて吹き飛ばし、見るも無惨に粉砕した。

 残りのゾンビは数匹だが足の欠損が酷く、赤髪のクウネルの所に行くにはまだまだ時間が掛かるだろう。

 そう判断したキュウベイは先に赤髪のクウネルの下へと走った。

 (って、いやいや! オーバーキル過ぎでしょ! 私も大概だけど、あの大きさで強すぎでしょ!! って、いてててて、ヤバい、もう足が真っ黒だ!)

 真っ黒に変色した片足は既に力も入らず、動かす事も出来ない。

 「姉御!? その足はどうしたんですか……?! 大丈夫何ですか!? すいやせん、姉御が危ない時に来るのが遅くなっちまって……」

 優しくされた赤髪のクウネルは少し頬を赤らめながらも、キュウベイを拒絶した。

 「うるさい! お前のせいじゃないし、私はお前の姉御じゃない! 触るな! 近づくな! あぐっ?!」

 「いえ、姉御は姉御です! 眷属になった時に姉御から聞きました。 赤髪でも黒髪でも、姉御です! 俺が命を掛けてお守りする方です」

 赤髪のクウネルが怒鳴っても、キュウベイは物怖じせず近付き変色した足を心配そうに診る。

 その眼差しに赤髪のクウネルは何かを感じ取っていた。

 (なんなのよ、このゴブリン。 偽者と私が一緒だって言いたいの?! でも、この優しい瞳……見たことがある。 何処で見た? 知ってる?  知らない! 知らない知らない知らない!! うぐっ! 頭が……!)

 激痛の最中、頭痛も相まって赤髪のクウネルは癇癪を起こしたかのように怒鳴り散らし始める。
 
 「やめろ! 私はアイツとは違う! もし、同じだって、偽者と一緒だって言うなら私のコレを何とかしてよ! 滅茶苦茶痛いのよ!」

 キュウベイは真っ黒に変色した片足を診ているが、どうしたら良いのか分からずに困惑していた。

 (痛いよ! 痛い痛い痛い! お母さん、お父さん! お祖父ちゃん! 痛いよ、痛いよ!!)

 痛がる赤髪のクウネルを見て、キュウベイは焦るが専門家がこの森に来ていた事を思い出す。

 「くっ……こんな傷見たことが無い。 そうだ! 姉御、同行していた癒しの族長はどちらに?! 」

 「ひぐっ……痛い痛い痛い! 偽者と一緒に来たゴブリンはあっちの壁の中よ! 早くして!」

 赤髪のクウネルは痛すぎて涙が溢れてしまう。

 「くそ! 泣きたくない! 止まれ止まれ止まれ! ひぐっ、うぐっ、キュウベイ……助けてよぉ」

 忠誠を誓うクウネルの危機に、キュウベイは自身の頬を叩き気合を入れる。

 「ふん!! 姉御、暫しお待ちを! 必ず助けます!!」

 キュウベイは赤髪のクウネルが指差した方へと走り出した。

 ◆◇◆

 少し待つと、直ぐに背中に癒しの族長を担いだキュウベイが戻ってきた。

 「姉御! お待たせしやした! 族長、どうか姉御をお願いしやす!」

 「ギガ!? 女神様、大丈夫ですか!? 直ぐに触診を……ダメ、毒なのか呪いなのか判別できないわ。 時間が経ちすぎてる」

 遂に下半身全てが黒く侵食され、動かす事すら出来ない。

 赤髪のクウネルは目の前に死が迫った事で、家族が皆殺しにされた時の恐怖がフラッシュバックしパニックになる。

 「うわぁぁぁん、やだよぉ、死にたくないよぉ。 助けて、助けてよ、お母さん、お父さん、お祖父ちゃぁぁぁん!」

 赤髪のクウネルは恐怖で頭の中がぐちゃぐちゃで訳が分からなくなった。 ただひたすらに死の足音が近づくのを実感する。

 «――クウネル、お願いです。 ステータスを確認して下さい! 今の貴女を鑑定出来ないのです、自分で状態異常を鑑定して下さい!»

 黙れと言われ、押し黙っていた鑑定が痺れを切らして訴えるがパニックを起こす赤髪のクウネルには届かない。

 (うるさい! うるさい! うるさい! やだよ、分からない! 知らない知らない!)

 黒髪のクウネルからは想像出来ない幼い言動や行動に、キュウベイは歯ぎしりをし拳を握りしめる。

 それは失望では無い。

 守ると忠誠を誓ったクウネルが苦しむ姿を前に、何も出来ない自分への怒りだ。

 「姉御っ……! 族長、時間が経って無かったら判別が付くんですよね?!」

 「ギガ? え、えぇ、そうよ」

 「分かりました。 姉御、聞いて下さい。このキュウベイが必ずお助けします。 だから、教えて下さい。  どうして、こうなったんですか?」

 目の前でキュウベイに問われ、赤髪のクウネルは必死に考える。

 (何? 何が? どうして、こうなった?  分からない、でも、助けてくれるの? ゴブリン、違う、キュウベイだ)

 「ひぐっ、ひぐっ、あ、あのゾンビに噛まれた。 そしたらね、そしたら、こうなって、凄く痛いの、痛いの!! 助けて、お願い……キュウベイ」

 痛みに悶えるクウネルを必死に癒しの族長やゴブリン兵士達が押さえるが、体格差が違いすぎて意味がない。

 「分かりやした。 あの動いてる死体達のせいなんですね。 癒しの族長、お願いしやす」

 キュウベイは立ち上がり、足の欠損から引きずる様に近付いていたゾンビ狼の元へと向かった。
 
 「ギガガ!? ちょっと、何をするつもりなの?! 」

 (え? キュウベイは何をするの? 何でゾンビ狼の所に……?)

 癒しの族長が止めに入るも、キュウベイはおもむろに腕をゾンビ狼に差し出し、そして……噛まれる。

 キュウベイの腕に、黒い侵食が始まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...