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第153話  赤髪のクウネル

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 ◆赤髪のクウネルside◆

 ――ぐぬぬぬ……ぷはぁーーーーっ! 久しぶりの生身だぁーー!!」

 赤髪のクウネルは指先を動かし、足を伸ばす。

 (さて、鑑定? 聞こえてるんでしょ? 黙ってても、知ってるよ? 画面を通して偽者と心の中で会話してるの全部聞いてたから)

 赤髪のクウネルが心の内で脅すと、渋々鑑定からの返事が脳内に聞こえてきた。

 «――――はい»

 (何よ、偽者の時より返事が遅いし短くない? 本来のスキル持ち主は私なんだけど?)

 «――――クウネルは、黒髪のクウネルはどうなりましたか?»

 (どうでもいいよ、偽者の事なんか。 で? 私はどうしたらいいの?)

 «――どうとは?»

 (だぁかぁらぁっ! ゴブリンやらがピンチ何でしょ!? 生身は久しぶりなの、さっさと教えて)

 «――今回は……怒りに身を任せないのですか?»

 (……今回だけ、今回だけだから。 ゴブリンを助けたら、私の好きなようにさせてもらう)

 «――分かりました。 正面から向かって左の壁を破壊し進んで下さい。その先にゴブリン達が逃げてきているのが見える筈です»

 「オッケー、さっさと終わらせよ」

 赤髪のクウネルは立ち上がり、石の壁を殴る。 しかし、硬すぎて壊れなかった。

 「かっっった! あの馬鹿、どんだけ硬い壁作ってんの?!」

 苛立ちに任せ、何度も殴り続ける。 ようやく壁が崩れ外が見えた。

 「ったく、やっと壊れた」

 赤髪のクウネルは壁から外に出て深呼吸をする。

 (……うん、やっぱり生身は良い。 自分の世界に帰って来たって感じがする。 もうあんな所には戻りたくないな……おっと、今はいいか。 早く面倒を終わらせよう)

 赤髪のクウネルは鑑定に指示された方へと歩き出した。

 「全く、何で私がゴブリンなんかを……」

 ◆◇◆

 暫く進むと、気配察知が反応する。
 
 (うわぁ、なんかこの感じも久しぶりだな。 あれ? 私の身体こんなんだっけ?)

 赤髪のクウネルは記憶と違う視界の高さに驚いていた。

 自らの手足も思うように動かない。

 (きっと、あの偽者が長く使ってたからだ)

 気配を辿り歩いていると、小さな影が走って来た。

 「お、アレか。 ちっっっっさ!」

 3匹のゴブリン兵士が1匹のゴブリンを担いで向かって来るのを発見した赤髪のクウネルは、ゴブリンの小ささに驚く。

 (えー!? 実物で見ると、こんなん小人やん! 誕生日に来てた人間族の将軍さんより小さいぞ。 お……? 担がれてるお婆ちゃん泡吹いてるけど……? まぁ気配察知に反応が有るなら平気か)

 膝を折り、ゴブリン達に顔を近付ける。

 「ギバ! 女神様、申し訳ありません! 逃げた先にも死体が動ご……女神様? その髪色と、目はどうされたのですか?」

 「「ギバ?」」

 先頭のゴブリンに問われ、予想以上に女神呼びがキツかった赤髪のクウネルは怯む。

 (うっっっわ! 画面越しに見てたけど、直接言われるとかなりの精神的ダメージがくるぞ。 ぬぐぐぐ、こりゃ確かに偽者も嫌がる筈だな。 ダメだ、あんまり会話すると殺意が沸いてくる。 今は我慢だ私!)

 「うっさい、其処に居て。 終わらしてくるから、それまでに出たら死ぬからね? 土魔法……発動? 確か、こんな感じだったよね」

 見様見真似で赤髪のクウネルは土魔法を使用しゴブリン達を守る囲いを作った。

 モリモリと土が盛り上がり、簡素ではあるもののとりあえず安全は確保出来ただろう。

 「お? 出来た! 適当に発動させたけど、上手くゴブリン達を囲う様に土で壁を作れたやん! さすが私! さすわた! 楽勝よ、こんなの」

 赤髪のクウネルが得意気にしていると、担がれていた癒しの族長が目を覚ました。

 「ギバ!? 此処は……? あ、女神様! その髪色と目はどうしたのですか?! それに、あの倒せないと言っていた骨の魔物は何処に――うっさい! あの骨は馬鹿が食ったわよ。 だから……もう大丈夫。 此処にいて」

 赤髪のクウネルは癒しの族長の言葉を遮り、立ち上がる。

 (あの馬鹿……本当に馬鹿な偽者。 今頃、あの化け物の所に行ってる筈。 私の身体を好き勝手使ってたんだから、当分は向こうに居たら良い。 どうせ、あの偽者にとってはあっちの方が居心地が良いに決まってる)

 癒しの族長は何かを考えながら歯ぎしりをするクウネルの様子に、自分の知っているクウネルでは無いと勘付いていた。

 「今から、あんた達を追ってきてる魔物を私が倒すからじっとしてて」

 ゴブリン達が壁の中で騒いでいたが、赤髪のクウネルは無視して歩き出す。

 数分後、気配察知に反応は無いが葉や枝を踏む音がそこらじゅうから聞こえ始める。

 (聴力やっば! そりゃそうか、あの小さなゴブリンの話が聞こえるんだもん)

 巨木の隙間から漏れ出る光を頼りに薄暗い森の中で目を凝らす。

 (ふんっ! 音を聞く限り、数は結構多いけど……私の敵じゃない。 身体から溢れる程の力を感じるからね。 この力が有れば、元クラスメイトのアイツらと……亜人達を皆殺しに出来る!
お祖父ちゃんや、お父さんお母さんの仇を討つんだ! 村の皆の仇だって討ってやる!)

 赤髪のクウネルは強く拳を握り締め、赤い瞳に殺意を爛々と宿した。 すると、脳内に鑑定の声が響く。

 «――進言。 これから戦う魔物は未知の魔物です。 油断せずに戦う事を推奨»   

 (うっさい! ただのスキルが戦いにまで口出しするな! 私には私のやり方があるの! 偽者は鑑定のスキルに頼りっぱなしみたいだったけど、私は違う。 お祖父ちゃんや、お父さんお母さんに教わった戦い方で戦う!)

 近くの巨木を叩き折る。 そして枝をむしり、細く長く手で加工し先を尖らして即席の槍を作った。

 「よし、準備万端! 来いっ!!」

 準備を終え、槍を構える赤髪のクウネルの前に林や巨木の間から夥しい数の歩く屍が姿を現した。
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