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第120話 決着 魔族VS亜人連合

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 ◆魔王国連合 中央魔族長 オーツside◆

 戦争が始まり数時間、魔族側には重傷者が多数出ているがまだ死者は出ていない。

 圧倒的不利な状況を考えると、魔族側はかなり善戦しているだろう。 混沌とした戦場の足元には軽装の獣人兵や竜人兵士達の屍が大量に転がり踏まれていた。

 (ちっ……敵が情けないのか此方が強いのか今一分からぬ)

 「死ね! 我等が新獣王陛下の為に! ぎゃぁっ?!」

 オーツは舌打ちをしながら、向かって来た獣人兵の頭を魔力の帯びた拳で粉砕する。

 (向こうの死者は既に万は越えてるだろうに、未だに退却する事もなく馬鹿の様に突撃をしてくる……何故だ)

 「まさか……本当にこれで勝てると思っているのか?」

 魔法の使用には限りが有り、使い過ぎれば虚脱で動けなくなる。 いわゆるFPの枯渇だ。

 クウネルならステータスオープンで確認出来るが、この世界に住む者達は感覚で覚えるしか無い。

 だが、魔族達は皆歴戦の猛者。

 FP管理にも余念は無く、敵陣地を薙ぎ払っていたベータとガンマ達は感覚で察知し本部の陣地で治療と休息を取っている。

 亜人連合軍が魔族達のFP枯渇を狙っての策無き無謀な攻撃をしているのなら、正直このまま戦っていれば勝てるだろう。

 「おや? どうした魔族長様のオーツ坊や、もうへばったのか?」

 敵を屠りながらオーツが思考していると、年配の魔族達が敵の首を圧し折りながら笑いに来た。

 「おぉ!? あの先代魔族長の息子がへばった? かー! 親父さんに顔向け出来ねぇぞ? 坊主! うははははっ!」

 中央街の部下でもあり、偉大な先輩魔族達に活を入れられたオーツは苦笑いで答える。

 (やれやれ、この御仁達には敵わないな)

 「いえいえ、まだまだこれからですよっ! ふんぬぅぅぅっ!」
 
 鉤爪を装備した身軽な獣人兵士達を魔力拳で薙ぎ払った。

 「次から次へと、まるで羽虫だな」

 魔族が常時発動している簡易結界で阻まれ、弓矢や魔法が魔族に通用しないと分かってからは矢の1本も飛来せずただひたすらに数に任せて突撃するという敵の愚かさにオーツはため息を吐く。

 (エルフの鍛えた矢だと簡易結界を破られる恐れが有るが、獣人の矢等……小雨と同じだ)

 「さて……ウンポは総大将席だろうが、何処かに竜人の将軍が居る筈だ」

 オーツは周囲を注意深く見渡す。

 すると、オーツ達と反対の戦場で何故か遠距離戦闘が得意のアルファが最前線で黒檀の鎧を着た大柄の竜人と戦闘しているのが見えた。

 (不味いっ! アルファは近接戦を得意としている訳では無いのだ、近接のプロで有る将軍とでは分が悪すぎだ! 何故前に出たアルファ!)

 オーツは鬼の形相で周囲の獣人兵士達を蹴散らしながらアルファの元へと駆ける。 だが、周りは味方と敵の入り混じる殺し合いの真っ最中だ。 思うように進めない事にオーツは歯ぎしりをする。

 「行ってこい坊主! ここは儂等に任せぃっ!」

 すると、歴戦の魔族達がオーツを進ませる為に陣形を崩し、敵兵士達の集団へと突っ込んだ。

 「頼みます! もし不味ければ直ぐに退却を!」 
  
 乱戦の中を掻き分けオーツは走る。

 だが、アルファの側に到着するのが数秒遅かった。

 オーツの目の前で、アルファは竜人将軍の槍で胸を貫かれた。

 「魔族長が1人、討ち取ったりぃぃぃぃっ!! ふはははっ、ウンポ陛下御覧下さっておりますかな? ふはははっ!!」

 竜人将軍の黒檀槍に貫かれたアルファは、振るわれた黒檀槍の勢いで力無く空中を舞い地面へと打ち付けられた。 既に事切れているのだろう、アルファの身体は微動だにしなかった。

 オーツの身体中の血管が切れる音が聞こえる。

 怒りが、家族を、弟を守れなかった怒りがオーツを包む。

 「竜人将軍とお見受けする。 俺の弟を殺したその槍、粉々に砕き、その醜い首をへし折ってやる。 覚悟しろ!」

 「ほう、そちらも大分我等の同胞を殺してくれたと思うが?  ふん、戦場で怒るは未熟者の証ですぞ?」

 ニヤリと笑う竜人将軍に対し、オーツは魔力を拳に纏わせ殴りかかった。

 ◆◇◆

 竜人将軍とオーツが戦闘を始めて数十分。

 オーツはかなりの攻撃を受け、全身傷だらけだ。 竜人将軍の巧みな槍さばきに重傷は負わずとも、増え続ける切り傷がオーツを追い詰めていた。

 「ちっ! 流石に将軍になるだけの事は有る……確かにかなりの強者だ。 その鎧……まさか俺の攻撃が当たっても砕けぬとは些か驚いたぞ!」

 他の竜人兵士とは実力が違い過ぎる事にオーツは舌打ちをする。 何よりも、怒りや動揺が邪魔をしオーツ本来の実力を出せていなかった。

 「むぅぅんっ! どうされたオーツ殿。 大分苦しそうだが? もしや、魔力切れという奴ですかな?」

 竜人将軍の言う通り、怒りに任せて魔力を消費しているオーツの限界は近かった。

 「ふんっ、まだまだだぁっ! おりゃあぁっ!!」

 勝利を確信し油断していた竜人将軍の隙をつき、分厚い黒檀の鎧を魔力を纏わせた足で蹴り上げる。

 そして、ようやく黒檀の鎧に亀裂が入った。

 「ぐっ?! くそが、堅すぎるんだよ!」

 だが、代償にオーツの蹴り上げた足に激痛が走る。

 「なぁっ!? 魔力を通さぬ特注の黒檀装備が!? ぬぅ! 手柄は取ったのだ、ここは御免!」

 「なにっ!? まさか逃げるだと!?」

 分が悪くなったと判断した竜人将軍は、亀裂の入った黒檀装備を脱ぎ捨てオーツへと投げ付けた。 そして、アルファの遺体と黒檀槍を持ったまま逃走し始める。

 「まてぇっ! アルファを、弟を置いて行け!」

 オーツは喉が潰れる程に叫び、将軍を追おうとするが直ぐに敵兵士達に阻まれてしまう。

 「くそっ! アルファ! アルファーー!! 」

 槍や剣を突き立てられようと、オーツが竜人将軍を追っていると周囲の敵兵士達が突如吹き飛んだ。

 「坊主! オーツ! しっかりしろい! ここは戦場だ、誰かは死ぬ! だが、お前は生きている! 他の魔族達もだ! ここは退け、俺達が殿をしてやる」

 オーツを助けたのは中央街に住む歴戦の魔族達だ。

 少し冷静になれたオーツが戦場を見渡すと、アルファが死んだ事で動揺が広がったせいか劣勢になっている。

 アルファ以外にも、少なく無い死者が出始めていた。

 「しかし! 我等は恩人を裏切った亜人達を許す訳にはいかない! 最後まで戦い勝利せね――おごっ?!」

 「馬鹿野郎! 魔王様の想いを、トール将軍の想いを無駄にするのか!? あぁんっ!? 儂が殺すぞ糞ガキ! いいから撤退しろ!」

 「だ、だが魔王国連合まで撤退しても、追い付かれて死ぬだけではないですか! それなら、最後まで共に戦ーーぶっ?!」

 「うるせぇぇ! 四の五の言わずに儂等を信じろ! 地底王国のドワーフ王を頼れ! 大戦の時の密約が有る、表向きには敵だがドワーフは絶対に裏切らん」

 歴戦の魔族が放った言葉にオーツは目を見開く。

 「な……何を、ドワーフは他の亜人達と共にトール殿をーーぶぶっ?!」

 「だからうるせぇぇ! 殴るぞ!?」

 「い、いや先輩、既に何度もーーうぐっ?! ……やばい、流石に頭がクラクラしてきた」

 「いいから、他の魔族長達や魔族達を連れて行け! ここからは俺達の華舞台だ、ガキ共は要らねぇ! ほれ、さっさと行けぇぇっ!」

 歴戦の魔族は散々オーツをぶん殴り、訳の分からぬ事を言い、オーツを本部へとぶん投げた。

 「ちょっ、オーツ!? いったいどうなってるのぉ!? 此処まで敵が雪崩れ込んで来てるんだけどぉっ!? っていうか、何で吹き飛んで来てんのよぉ!」

 本部の中は既に混乱の最中だ。

 オーツが竜人将軍に苦戦している間に本部まで押し込まれたのだろう。

 「すまん遅くなった! 全ての魔族に連絡、退却しろ! 撤退だ!」

 「はぁ!? 本部にベータもガンマも居るから直ぐ連絡出来る筈だけどぉ、まだアルファ達が戻ってないわよぉ!?」

 シグマが闇魔法で戦いながら治療部隊を守っており、治療部隊はその間に重傷者達を懸命に治療していた。 中にはアルファの部下達も居り、オーツは呑み込みそうになった言葉を必死に絞り出す。

 「アルファは……戦死した」

 シグマの瞳が大きく開かれ、治療を受けていたアルファの部下達から苦悶に満ちた声が漏れる。

 「……はぁ? 嘘……よね。 ははっ、止めてよオーツ。 貴方が居て、アルファを死なせる訳無いじゃないのぉ」

 オーツの拳に力が入り、爪が食い込んだ指から血が滴った。

 「シグマ。 もう一度言うぞ、撤退を連絡しろ」

 本部に入り込んで来た敵兵士を殴り殺す。

 それでも、気は晴れない。

 「ほ、本当に「撤退を! 連絡、しろ! お前の闇魔法でしか出来ないんだ!」わ、分かったわよぉ」

 シグマの瞳には動揺や悲しみが有り有りとが見えた。 だが、今は生き延びる為に動かないといけない。 シグマは溢れそうになる感情を必死に押し殺した。

 «こちらシグマ、全魔族に連絡。撤退、撤退!!»

 「あ、オーツ、撤退は魔王国連合でいいのよねぇ?」

 シグマに問われたオーツは一瞬固まった。

 (どうする? 自分達の街ならアドバンテージが有るが……いや、先輩方を信じよう)

 「撤退する先は……地底王国だ。 ドワーフに助けを求める、今は何も聞かずに俺を、先輩方を信じろ!」

 オーツの気迫に、思わず問い詰めようとしたシグマは思いとどまりオーツの指示に従う。

 «撤退は、撤退先は地底王国! 総員、直ちに撤退を開始せよ! これは、魔族長オーツの絶対の指示である!»

 連絡を受けた生き残りの魔族達に衝撃が走った。 当然だろう、ドワーフは敵の筈なのだから。

 ベータ、ガンマも負傷したのか、呻きながら部下達に運ばれて行くのをオーツは守りながら見送る。 負傷し、意識が無かったのは僥倖だろう。 2人が健在なら、オーツの判断に反対し撤退が遅れたかもしれない。

 「オーツ、私はぁベータとガンマの治療に行くわぁ。 貴方も、必ず撤退するのよ?」

 「分かっている。最後まで殿した後、必ず合流する」

 シグマ達が撤退したのを確認し、オーツは他の魔族達を逃がす為本部で戦い続ける。

 「これで最後か……かなりの死者が出たな」

 撤退する魔族達を守り続けたが、本部を通って撤退出来た魔族は500程だった。

 これは、魔族の総員が半分戦死したという事だ。 一気に劣勢になり、瞬く間に押し込まれたのが原因だろう。

 (もし、先輩方に撤退を言われなければ本当に全滅していたな……)

 「先輩方……ありがとうございます!」

 敵の量が一気に増えた事で、歴戦の先輩方の死を確認したオーツは最後に撤退を開始した。

 敵は魔王国連合に向けて撤退したと判断したのか、オーツ達に向けて追手が迫ることは無かった。

 ◆◇◆

 そして地底王国に向けて撤退する事数時間、オーツ達の進行方向にそれは現れた。

 「ぬぅ……ここまでか」

 傷付いた魔族達の前に現れたのは、こちらに向かって進軍して来るエルフ、妖精、鬼人の大軍だった。
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