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第89話 匠による袋作り

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 「旅の準備かー。 ……ほえ? 私、何準備したら良いんだ?」

 朝食を食べに背の低い森まで戻ってきたクウネルは、木々をへし折りながらスライム達を補食している真っ最中である。

 「うまうま はむはむ、旅の準備をしなきゃ!と、思い立つも何も出てこない困った脳ミソだね~。 むにむに、ごくんっ!」

 スライム達を補食しながら歩いていると、クウネルが落ちた事で出来たクレーターの所にやって来た。

 クレーターの中には、クウネルが残した両親から貰ったハルバートの残骸と祖父から貰った鎧の残骸が残されている。

 「貰ったその日に全部失ったけど、もしこの武器と鎧が無かったら私は既に死んでたんだよね……」

 巨神が、いつクウネルから加護を消したのか分からない以上は今が最善の結果なのだろう。

 「そっか、ほんの1日で滅茶苦茶大きくなったからこんなに小さく感じるのか~」

 指先で摘まんだ残骸は、クウネルの想像よりも小さかった。

 「んー、何かこのまま放置していくのも寂しいな。 これから旅に出るんだもんな~。 もしかしたら、もう此処には戻って来ないかもしれないし……よし、持っていこう! 」

 クウネルは武器と鎧の残骸を回収すると決めたが、残念ながら入れる物が無い事に気付く。

 「あ~……でも、どうやって? 私の装備モロから貰った格好良いこの服しかないべ? う~ん……何か袋になる物無いかなー。 Hey鑑定、旅に出るのに袋が欲しいの。 何か良い案は無いかな」

 «――了。 検索中デす――解、飛竜王の皮膚ガ伸縮性にモ優れテおリ推奨。 袋とシテの製作ヲ提示»

 「お! さっっすが~! なるへそね、確かにあの飛竜王の皮膚なら大きな袋になりそうだ。 よし、さっさと行って作るとしましょ、そうしましょー!」

 クウネルは武器と鎧の残骸を両手の平に乗せたまま、飛竜王の死体がある方へと走り出した。

 ◆◇◆

 「とうちゃ~く! 鑑定さん着いたよ~指示プリーズ!」

 飛竜王の死体は昨日のままだ、本当にこの近辺の魔物や獣は軒並み食い尽くされた後なのだろう。

 「こんなバカデカイ死体が有れば、普通は何かが漁りに来ててもいいのにね~。 まぁ、皮膚が傷付かないから私は良いんだけどね。 しかし、獲物が居なくなったこの森にモロ達はこれからも住むのかな? んー……モロは一緒に旅に出るとして、奥さんや群れの子狼達とかはお留守番だろうし。 洞窟に戻る時に、何か狩れそうな魔物の気配が察知出来たらお土産に持ち帰るとしますかね」

 クウネルがブツブツと独り言を呟いていると、鑑定から急かされる。

 «――告。 クウネル、まズは皮膚ヲ剥ぎマショウ»

 「あーごめんごめん、はいよー!」

 飛竜王の死体から皮膚を剥いでゆく。

 「まぁ、昨日食べる時に殆ど剥いであるからそんなに時間は掛からないんだけどね~。 血も丁寧に舐めといたし。 やっっば、もしかして私には先見の明が!?」

 «――疑。――恐ラく、偶然デす»

 「知ってるよ! 態々言わなくてもいいじゃない!」

 それからクウネルは、黙々と飛竜王の皮膚を集めるのであった。

 「グニグニ、ビヨンビヨン」

 「ほー、何か面白い感触だ。 柔らかい皮膚だけど、表面には鱗が有るからザラザラしてる。 とても丈夫そうだね。 かといって、伸縮性が無いわけでは無いのか~。 なるへそね、確かにこれで袋を作ったら耐久性も抜群だわ。 でも、どうやってこれ袋にするの?」

 «――解。マズは、水魔法デ洗い火炎デ炙って下サイ»

 「ほいほい~!」

 ◆◇◆

 「かーーーんせい! 何だよ! 滅茶苦茶時間掛かったよ!? 途中、お腹空いてスライム君食べにさっきの森まで戻ったさ! もう、此処に戻って来ないかもしれない……とか言ったのにその日に戻ったよ! めんどくさかったー! もう、次は絶対に作らないからね!?」

 もう空は夕方であり、ほぼ1日掛かっていたことが一目瞭然である。

 文句を言いながら地団駄を踏むが、此処にはクウネルのみ。 誰かが慰めてくれる事は無い筈だったが、頭の中に声が響いた。

 «――褒。 ――さスがデす、クウネル。 良く、頑張リまシタ»

 「鑑定さーーん! ありがとー! 私頑張ったよーーー! って、鑑定さんのせいなのよ!? いや、褒めてくれるのは嬉しいんだけどね。 でも、この滅茶苦茶めんどくさい作業指示したの鑑定さんだからね?!」

 «――拗。 ――了、以後提示ハ控えマスね»

 「あ、ごめんよー! 違うの、拗ねないでよー! ごめんなさい! これからもよろしくお願いします!」

 «――了。 分かリマした»

 「ふー、危ない危ない。 鑑定さんの臍を曲げてしまう所だった。 よし、じゃあ袋に武器と鎧の残骸を入れてっと……袋デカァ!!」

 集中して作業した結果、自身の半分程もある巨大な袋が完成していた。
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