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第77話  油断大敵

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 クウネルが振り下ろす巨大な拳をモロは回避し続ける。 避けた地面には巨大なクレーターが出来上がっていた。

 「ガルッ! おいおいおい、1発でも当たったら本当に死ぬじゃないか」

 「ちょこまかと……避けるな! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね! 早く死ね! 今すぐ死ね!」

 クウネルの高速連打がモロの尻尾ギリギリをかすめる。

 「クゥンッ?! おっと、危ない危ない!」
 
 拳の雨が降ってくるが、クウネルの狙いが荒くモロは速度で負けていても難なく回避できた。

 もし、クウネルが正気ならモロは既に殺されてただろう。 正気のクウネルが友を攻撃する筈も無いのだが。

 「クフクフ、この赤髪と赤目のクウネルは、圧倒的に戦闘経験値が足りてないね。 まるで、癇癪を起こした小さな子供だ」

 「あはぁー! 凄く身体が軽い! 軽い軽い軽い軽い軽い軽い!! これなら、亜人共も元クラスメイトの糞共も殺せる! 殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる」

 モロはクウネルから発せられたある言葉を聞き、一瞬動きを止めた。 しかし、直ぐに冷静さを取り戻し回避に努める。

 モロは避けても避けても、一瞬で間合い詰められるこの状況を打破すべく動いた。

 「ガウッ! 確かにクウネルの方が素早い。 だが、私はこの森であの飛竜に敗れる迄は無敗だったのでね。 色々と経験してるのさ!」

 クウネルの猛攻撃を回避したモロはクウネルの股下をすり抜け、後ろに回り込んだ。 そして、背中を取ったモロは風魔法を発動しクウネルを吹き飛ばした。

 凄まじい突風がクウネルの巨体を浮かし、巨木へと叩き付ける。

 「どこいった!? 後ろか……きゃああぁぁぁっ!」

 巨木を圧し折りながら吹き飛んだクウネルは暗闇に消えた。

 「ガフッ……これぐらいなら、大した怪我にもならないだろう。 少しは正気を取り戻せたら良いのだけど……」

 モロの期待虚しく、ほんの少し擦り傷を受けただけのクウネルが圧し折れた巨木をモロに向けて投げて来た。

 モロはため息を吐きながら、風魔法で難なく受け止め安全な場所へと放る。

 「あぁぁぁ、よくもやったな。 乙女の柔肌に傷を付けたな!! 殺す、絶対に殺す! 友達だなんて嘘だ! 嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!!」

 「クフクフ……おや、また都合の良い考えの乙女が居たものだ。 それに、友達が正気を失ってるんだ。 止めるのが本当の友達では無いか? 私の友クウネルよ」

 「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい! もういい、噛み殺してやる!」

 四つん這いになったクウネルが、大口を開けてモロへと迫る。 異常な速度で迫るクウネルの姿にモロは直近のトラウマを思い出していた。

 「グルルル、嫌になるね、全く。 巨大な大口にはトラウマが有るってのに!」

 「バッックゥゥゥゥゥン! 食べれた!?」

 クウネルの大口を回避したモロは、背中へと着地する。

 「あがっ! くそ! ちょこまかと逃げるな! 大人しく食われろぉ!」

 「クフクフ、はははは! それはごめん被る友よ!」

 クウネルは背中に乗ったモロを叩き落とそうとするが、モロは軽やかに回避する。 しかし、これ以上遊んでいる時間も無かった。

 (さて、早く何とかしないと不味いな。 辺りは火の海だ。 まぁ、洞窟の奥には避難口が有るから最悪其処から妻達には逃げてもらえばいいか……今はクウネルを何とかしないとね)

 「ガウッ! どうしたクウネル! 私は此処だぞ? 喰らうのでは無かったのか? はははは!」

 「ぬぅぅぅぅ! この2足歩行の狼がぁ! くそ! 糞糞糞糞糞糞!! ぬがぁぁぁぁぁぁ!」

 (気絶させたら正気に戻るだろうか? いや、もうそれしかないだろう。 命の恩人を正気に戻す為だ、私の命ぐらい掛けてやるさ!)

 モロはクウネルを助ける為に賭けに出た。

 クウネルの背中からジャンプし、後頭部目掛けて全力のかかと落としを食らわせる。

 凄まじい衝撃がクウネルの脳を揺らし、身体が揺れる。

 (これでどうだい?! 私の本気の一撃だ、これでダメならかなり不味い。 だって、着地出来る場所はクウネルの目の前なのだからね!)

 モロは祈りながら地面へと着地した。

 「うう……あ、あぁ……お母さん……」

 クウネルは少し呻いた後、気を失ったのか身体からは力が抜け地面へとうつ伏せになった。

 「クゥン、ふー良かった、何とかなったね。 クウネル? 死んでないよね? 大丈夫だよね?」

 モロはクウネルの安否が気になり、クウネルに不用意に近付いてしまった。 歴戦の王としては、致命的な判断ミスである。

 近付いた瞬間、閉じていたクウネルの真っ赤な目が開かれた。

 「隙あり! 死ねぇぇえ! 噛み付き! ガブゥゥゥゥッ!」

 「ガァッ?! しまった! ぐぁぁぁぁぁぁっ!」

 油断していたモロは、気絶した振りをしていたクウネルに下半身を全力で噛み付かれてしまった。
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