上 下
63 / 225

第61話 フォレスト ウルフ クイーン の誇り

しおりを挟む
 王である夫が死んだ、夫と共に立ち向かった多くの熟練の森狼達も死んだ。

 残されたのは、女王で有る私と成狼になったばかりの4匹と幼い群れの子供達が数十匹だけ。

 この森は私達の縄張りであり、王国でもあった。

 それを、突如襲い奪ったのは何処からともなく現れた巨大な魔物だった。 博識な夫はその魔物を、ワイバーンと呼んでいた。 でも、種族としての呼び方は飛竜だとその時に教わったが、何故夫がそんな事を知っていたのかは今となっては分からない。

 そもそも、夫がよく使う2足型の言語の意味は私には難しすぎるが、そんな事はどうでも良い。 今は残された群れの子供達を飢えないようにするのが女王たる私の務め。

 しかし、次にあの飛竜とやらに襲われたら私の命も無いだろう。 

 せめて、4匹の成狼したばかりの森狼達に狩りの経験を積ませて私が居なくなっても群れを生き残らせれるようにしなくては。

 「アオーーーンッ!! ガウッ! ガウッ!」

 私が隠れ家の洞窟に向かって集合の合図を掛けると4匹の森狼達が集まってくれた。

 「「「「アオーーーーーンッ!」」」」

 よし、夫より群れへの影響力は無いけどこの森狼達は私に従ってくれるみたいね。

 やるしかない。 そうだ! あの食べれないスライムと呼ばれる魔物ばかりが居る、小さな森から獲物を探そう。

 そうすれば、あの飛竜に見つかる危険も少ない筈だわ。


 ◆◇◆

 小さな森へと入ると、嗅いだ事のない匂いがする。

 「クンクン……」 何だろう、あの飛竜とは違う匂い。

 でも辺りに飛び散っている血は飛竜の血だし、大きな穴も出来ている。 何かと戦った? あれだけの大きさの飛竜だ、きっと顔だけを突っ込んで獲物を襲ったに違いない。

 でも、襲われた筈のもう1つの匂いは、アッチに向かっている。 あの飛竜を負傷させる程の魔物が居るだろうか?

 少なくとも、この匂いからは強者の香りはしない。

 いや、何を迷ってるの私! こうしている間にも、群れの子供達は腹を空かし待っているのよ。

 獲物を捕って帰らねば。

 夫や、共に戦い死んだ多くの群れに申し訳が立たない。 大丈夫、飛竜程の強さでは無ければ殺れる筈よ。

 自分にそう言い聞かせて、匂いに向かって歩き出した。


 ◆◇◆

 おかしい……匂いの気配が察知出来る距離まで来たが。 それ以外の気配が全然無い。

 縄張りの森には、私達以外にもたくさんの魔物や動物が住んでいた筈だ。 獲物としては小さすぎる魔物や動物ばかりだが、辺りはスライムの気配ばかり。

 もしや、あの飛竜が全て食い散らかしたのか? 夫の愛する、縄張りの森を王国を荒らしたのか!?

 もしそうなら、これから狩る獲物が最後なのかもしれない。 後は、時間を掛けて群れは餓死していくだろう。

 おのれ、あの時……夫に群れを頼まれなければ、一矢報いて共に死ねたのに!

 「グルルルル……」 「「「「クゥン?」」」」

 はっ! いけない、私は女王。 最後まで、決して諦める訳にはいかないの。

 しっかりしなくては。

 ……え? 匂いの気配が、こっちに向かって帰ってくる。 

 嘘でしょ?  追われている危険性も考えない魔物なの? いえ、これは私達に好都合ね。

 待ち伏せをして、速やかに獲物を仕留めて隠れ家に帰る。 そうすれば、あの飛竜に見つかる事は無いわ。

 「クンクンッ………グルルルル! ガウッ! ガウッ!」

 「「「「ガウッ! アオーーーーーンッ!」」」」


 群れに、狩りの準備を始めるよう伝える。
 大丈夫、きっと上手くいく。

 ◆◇◆

 隠れて暫く待つと、木々を掻き分ける音が聞こえ始める。

 本当に警戒もせずに戻ってきた。 余程、自分の強さを誇る魔物か……それとも知能が低いのか。

 しかし、スライムしか居ないこの森に何故戻って来たのだろう? 私達に気付いているなら、戻ってくる筈がない。

 え?! 2足型種族!? 何故この森にっ?!

 現れたのは、黒い髪の大きな2足型種族だ。 多分、雌だろう。

 2足型が身に付ける、服と呼ばれる物を付けているという事は知能の高い2足型種族だという証拠。

 しまった! もしや、夫の知り合いで会いに来ていたの!?  不味い、森狼達を止めなきゃ!

 さすがに、亡き夫の知り合いを喰う訳にはいかない! それに、もしかしたら食料の調達をお願いできるかも。

 この時、私は失敗した。

 驚き、希望、憶測、願望、様々な事を考えていたせいで、森狼達に狩り中止の合図を出すのが遅れてしまった。

 「ガァッ!」 「「「ガウッ!」」」

 4匹の森狼達が、何故かスライムを捕獲していた2足型に襲い掛かる。

 あ! ダメよ! 待って!!

 止める暇もなく、1匹の森狼が2足型に噛み付いた。 2足型は驚くも、片腕でそれを止めて凌いでいる。

 咄嗟に防御した? もしや、気配は察知していたの? やはり、敵では無いのよ!

 どうしよう、止めようにも既に攻撃を此方から仕掛けてしまった。 私は夫のように、2足型の言語は喋れない。

 どうしよう、どうしよう! ダメ、考えが纏まらない! 

 「「「ウ――……!」」」 「ガウッ! ガウガウッ!」

 「ボァァァアアアッ!」

 分からない2足方の言語を叫んだ直後、2足型の口から火柱が上がった。

 「キャインッ!?」

 2足型の片腕に噛み付いていた森狼が火に呑まれてしまった。 もう助からないだろう。

 あぁ! 数少ない成狼が! 私のせいだ、私の判断が遅かったから……もう仕方ない!

 頭では分かってる……狩りは命懸け、誇り高き森狼はそうして生きてきた! でも、許せない!

 「グルルルルッ! アオーーーーーンッ!!!!」

 夫の知り合いでも、友人でも許せない!

 勝手な事だとは分かってる、でも……もう誰も奪わせない!!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

役立たず王子のおいしい経営術~幸せレシピでもふもふ国家再建します!!~

延野 正行
ファンタジー
第七王子ルヴィンは王族で唯一7つのギフトを授かりながら、謙虚に過ごしていた。 ある時、国王の代わりに受けた呪いによって【料理】のギフトしか使えなくなる。 人心は離れ、国王からも見限られたルヴィンの前に現れたのは、獣人国の女王だった。 「君は今日から女王陛下《ボク》の料理番だ」 温かく迎えられるルヴィンだったが、獣人国は軍事力こそ最強でも、周辺国からは馬鹿にされるほど未開の国だった。 しかし【料理】のギフトを極めたルヴィンは、能力を使い『農業のレシピ』『牧畜のレシピ』『おもてなしのレシピ』を生み出し、獣人国を一流の国へと導いていく。 「僕には見えます。この国が大陸一の国になっていくレシピが!」 これは獣人国のちいさな料理番が、地元食材を使った料理をふるい、もふもふ女王を支え、大国へと成長させていく物語である。 旧タイトル 「役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~」

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

男女比1/100の世界で《悪男》は大海を知る

イコ
ファンタジー
男女貞操逆転世界を舞台にして。 《悪男》としてのレッテルを貼られたマクシム・ブラックウッド。 彼は己が運命を嘆きながら、処刑されてしまう。 だが、彼が次に目覚めた時。 そこは十三歳の自分だった。 処刑されたことで、自分の行いを悔い改めて、人生をやり直す。 これは、本物の《悪男》として生きる決意をして女性が多い世界で生きる男の話である。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

処理中です...