1 / 9
第1話 吉法師は平和主義
しおりを挟む
現代より遥か昔の1534年。
これは、尾張国の勝幡城の城主織田信秀の嫡男として生まれた1人の男の物語。
生まれた赤子は幼名として吉法師と名付けられる。
そして数年、少年となった吉法師は不貞腐れながら父である信秀の説教を聞いている所から物語は始まる。
「はぁ……吉法師よ、 聞いたぞ。 何故、那古野城を不要と申す」
泣く子も黙る父の顔を見ても、吉法師は飄々としている。
「不要とは申しておりませぬ。ただ、弟に与えて下さいとお願いしただけです」
少年となった吉法師は、その偉才を発揮し元服前でありながら大人顔負けの知識と発想で尾張に確変を起こしていた。
武では、兵士達に火打石や干し柿等の食料を持ち運べる皮袋を立案し実現させ、それは戦の際、長い行軍の最中に腹を満たし暖がとれると兵達から好評であった。
知では、手習いとして清州の寺に通わせば兄弟弟子に競わせ、勝った者に仕送りを全て分け与え人心掌握に長けていた。
だからこそ、父は嫡男として吉法師に城を与えようとしたが結果は上記の通りだ。
「お前なら、那古野城を与えても良いという父の気持ちを聞いても変わらぬか?」
「はい、変わりませぬ。 私が守るべきは民です。 城に籠り、何が守れましょう。 私の居場所は、民が働き、民が生活するその場にございます」
父信秀は頭を抱える。
織田信秀は名将とは云えないが、それでも吉法師の考え方が異端である事ぐらいは分かるからだ。
民が住む民家に家を建てさせ、其処で民達と暮らす吉法師は民からの、兵からの忠は確かに異常な程に高い。
だが、家臣からは農民と暮らす大うつけと呼ばれているのも知っている。
「吉法師よ、何故……そこまで民を、農民を想う」
吉法師は、父の質問に阿呆を見る目で答えた。
「……は? いえ、父上……逆にお聞きしますが、普段食してる料理の食材は侍が刀で育てておりますか? もし違うのなら、父上の考え方が間違っておりまする。 農民が居なければ、私達は米の1粒すら食せませぬ。 だから、土地を治める領主が農民を守るのです。 其処に上下関係が発生している事が異常と考えて頂きたい」
口が達者な吉法師に言い負かされた信秀はぐうの音も出なかった。
「ぬぐ……そこまでぬかすか。 もうよい……下がれ。 那古野城は弟がもう少し育ったら与える……それでよいな?」
「はっ! ありがたく存じます! それでは父上、失礼します」
部屋を退出し、小走りで去る嫡男を信秀はため息をつきながら見送った。
◆◇◆
吉法師は勝幡城を飛び出し、民達の元へ向かう。
「あんれま、若様。 織田信秀様からのお説教はもう終わっただか?」
「おー! 源じい、稲刈りの時期とはいえ無理をするなよー!」
田んぼで稲刈りをしていた農民が気さくに吉法師へ話し掛けてきた。
自らが住む国の嫡男に農民が手を振る。
常識では考えられないが、吉法師の常識は違った。
この平和を守るのが、己の役目である。
この民達の暮らしを守るのが、己の役目である。
侍とは、武士とはそう有るべきと本気で考えていた。
「すまーん! 戻った! 鍛練の続きをしよう!」
「「「へーい! 若様!」」」
この日も吉法師は、民達と共に有り平和な日々を過ごしていた。
◆◇◆
そして時は流れ、1546年13歳となった吉法師は元服を迎え織田三郎信長と名乗りを上げた。
「よーーーし!! じゃあ、俺が元服した祝いだ! 皆飲めーーー!!」
青年となった信長は、城で行われていた祝いの席を抜け出し己の家に民達を呼んで宴を開いていた。
「「「「若様おめでとー!」」」」
ここには、農民も侍も無い。
皆が同じ人間にして、平等であった。
だからこそ……問題が発生した時に、真価が発揮する事となる。
「はぁ、はぁ、はぁ……若様、てぇへんだ! 村の境に盗賊が出た! 田吾作が殺られたぁ!」
宴の席に、1人の農民が駆け込み息を切らしながら襲撃を伝え信長は憤った。
「なに!? 国境の兵達は何をしてるんだ!! 源じい、皆に戦の準備をさせろ! 己の平和な生活は己で守ろうぞ! 」
「「「「「おおおおおお!」」」」」
信長の激が飛び、農民達が戦いの準備を始める。
「よっしゃ! 若様、武器庫を拝借するぞ! ほれ、皆の者槍を取れ! 訓練通りにやるぞい!」
「「「「おう!!」」」」
源じいに槍を渡された農民達が信長の家の前に整列する。
そう、信長が民達が住む村に住んでいる理由がコレだ。
城まで連絡が行き、兵が来るまでに田んぼは荒らされ、家屋も荒らされる。
信長はソレを嫌い、村に家を建て、大量の武器を保管していた。
「皆、準備は整ったな! 村の入り口に向かうぞ! 俺に続けーーー!!!」
浴衣で刀を持った信長が先導し、盗賊を討伐しに向かうのであった。
これは、尾張国の勝幡城の城主織田信秀の嫡男として生まれた1人の男の物語。
生まれた赤子は幼名として吉法師と名付けられる。
そして数年、少年となった吉法師は不貞腐れながら父である信秀の説教を聞いている所から物語は始まる。
「はぁ……吉法師よ、 聞いたぞ。 何故、那古野城を不要と申す」
泣く子も黙る父の顔を見ても、吉法師は飄々としている。
「不要とは申しておりませぬ。ただ、弟に与えて下さいとお願いしただけです」
少年となった吉法師は、その偉才を発揮し元服前でありながら大人顔負けの知識と発想で尾張に確変を起こしていた。
武では、兵士達に火打石や干し柿等の食料を持ち運べる皮袋を立案し実現させ、それは戦の際、長い行軍の最中に腹を満たし暖がとれると兵達から好評であった。
知では、手習いとして清州の寺に通わせば兄弟弟子に競わせ、勝った者に仕送りを全て分け与え人心掌握に長けていた。
だからこそ、父は嫡男として吉法師に城を与えようとしたが結果は上記の通りだ。
「お前なら、那古野城を与えても良いという父の気持ちを聞いても変わらぬか?」
「はい、変わりませぬ。 私が守るべきは民です。 城に籠り、何が守れましょう。 私の居場所は、民が働き、民が生活するその場にございます」
父信秀は頭を抱える。
織田信秀は名将とは云えないが、それでも吉法師の考え方が異端である事ぐらいは分かるからだ。
民が住む民家に家を建てさせ、其処で民達と暮らす吉法師は民からの、兵からの忠は確かに異常な程に高い。
だが、家臣からは農民と暮らす大うつけと呼ばれているのも知っている。
「吉法師よ、何故……そこまで民を、農民を想う」
吉法師は、父の質問に阿呆を見る目で答えた。
「……は? いえ、父上……逆にお聞きしますが、普段食してる料理の食材は侍が刀で育てておりますか? もし違うのなら、父上の考え方が間違っておりまする。 農民が居なければ、私達は米の1粒すら食せませぬ。 だから、土地を治める領主が農民を守るのです。 其処に上下関係が発生している事が異常と考えて頂きたい」
口が達者な吉法師に言い負かされた信秀はぐうの音も出なかった。
「ぬぐ……そこまでぬかすか。 もうよい……下がれ。 那古野城は弟がもう少し育ったら与える……それでよいな?」
「はっ! ありがたく存じます! それでは父上、失礼します」
部屋を退出し、小走りで去る嫡男を信秀はため息をつきながら見送った。
◆◇◆
吉法師は勝幡城を飛び出し、民達の元へ向かう。
「あんれま、若様。 織田信秀様からのお説教はもう終わっただか?」
「おー! 源じい、稲刈りの時期とはいえ無理をするなよー!」
田んぼで稲刈りをしていた農民が気さくに吉法師へ話し掛けてきた。
自らが住む国の嫡男に農民が手を振る。
常識では考えられないが、吉法師の常識は違った。
この平和を守るのが、己の役目である。
この民達の暮らしを守るのが、己の役目である。
侍とは、武士とはそう有るべきと本気で考えていた。
「すまーん! 戻った! 鍛練の続きをしよう!」
「「「へーい! 若様!」」」
この日も吉法師は、民達と共に有り平和な日々を過ごしていた。
◆◇◆
そして時は流れ、1546年13歳となった吉法師は元服を迎え織田三郎信長と名乗りを上げた。
「よーーーし!! じゃあ、俺が元服した祝いだ! 皆飲めーーー!!」
青年となった信長は、城で行われていた祝いの席を抜け出し己の家に民達を呼んで宴を開いていた。
「「「「若様おめでとー!」」」」
ここには、農民も侍も無い。
皆が同じ人間にして、平等であった。
だからこそ……問題が発生した時に、真価が発揮する事となる。
「はぁ、はぁ、はぁ……若様、てぇへんだ! 村の境に盗賊が出た! 田吾作が殺られたぁ!」
宴の席に、1人の農民が駆け込み息を切らしながら襲撃を伝え信長は憤った。
「なに!? 国境の兵達は何をしてるんだ!! 源じい、皆に戦の準備をさせろ! 己の平和な生活は己で守ろうぞ! 」
「「「「「おおおおおお!」」」」」
信長の激が飛び、農民達が戦いの準備を始める。
「よっしゃ! 若様、武器庫を拝借するぞ! ほれ、皆の者槍を取れ! 訓練通りにやるぞい!」
「「「「おう!!」」」」
源じいに槍を渡された農民達が信長の家の前に整列する。
そう、信長が民達が住む村に住んでいる理由がコレだ。
城まで連絡が行き、兵が来るまでに田んぼは荒らされ、家屋も荒らされる。
信長はソレを嫌い、村に家を建て、大量の武器を保管していた。
「皆、準備は整ったな! 村の入り口に向かうぞ! 俺に続けーーー!!!」
浴衣で刀を持った信長が先導し、盗賊を討伐しに向かうのであった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる