【R-18】自称極悪非道な魔王様による冒険物語 ~俺様は好きにヤるだけだ~

秋刀魚妹子

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第232話 追跡する魔王と逃げる魔人

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 「はっ、はっ、はっ! もう無理、絶対に無理よ!」

 南の街ミンガムにある冒険者ギルド受付嬢リポンは、夜中に街を出て必死に森の中を走っていた。

 極悪非道な魔王セムネイルに、自身が行った事や魔人である事を見抜かれているのではないかと云うプレッシャーに負けたリポンは逃走を選択したのだ。

 既に一昼夜近く走り続けており、空には太陽が昇っている。

 「はぁー……はぁー……此処まで来れば、逃げ切れるかしら……。 もしもし、聞こえる? リパン、聞こえる?!」

 冒険者ギルドから持ち出した通信機は調子が悪く、小さな町パイムの冒険者ギルドで受付嬢をしている妹リパンに連絡が取れないことにリポンは焦っていた。

 (ミンガムからパイムまでは歩いて3日の距離……私なら1日半で行ける。 直ぐにリパンを連れて、何処か遠くに逃げるの。 アスモにも、セムネイルにも見つからない何処かへ!) 

 第2世代の魔人であるリポンの身体能力はそれなりに高く、森の中を人間では到底出せない速度で走り続ける。

 「ブルルル……ブモォォォ!!」

 「ちっ、運が悪いですね。 大猪の群れですか……!」

 しかし森を抜けた先には中級の魔物である大猪の群れが闊歩しており、リポンは舌打ちをした。

 大猪は足が早く、持久力もある。 

 無視して走り抜けても、リポンが疲れ果てるまで追い掛けてくるだろう。

 群れの数も20体近くはおり、これは本来Aランク冒険者のパーティーが手を組んで合同で狩るべき脅威だ。

 「やるしかないですね……ふ~、氷の精霊よ私に力を与え給え、私の前に現れし敵を撃ち抜く礫を放ち穿て! 氷柱弾!」

 リポンは普段己の中に収納し隠していた魔人の力をさらけ出す。

 目は赤くなり、可愛らしい小さな角が生えた。

 そして、唯一使える氷魔法を詠唱し放たれた氷柱の弾丸が大猪の群れへと突き刺さる。

 「「「「「ブモォォォ?!」」」」」

 「今です!」

 リポンは大猪達が予想外の攻撃をくらい、怯んだ隙に走り出す。

 いくら、リポンが第2世代魔人でも中級の群れを殲滅する程の力は無いのだ。

 「ブルルル……ブモォォォ!!」

 しかし、群れのボスらしき一回り大きな大猪は獲物の逃走を許そうとはせずに身体から氷柱を生やしながらもリポンへと突進する。

 「えっ?! しまっ……!?」

 実戦経験が少ないリポンには反応出来る速度では無く、吸い込まれるようにして大猪のボスが突進してくるのをリポンは驚愕する事しか出来ない。

 「ブルル?! ブモォォォ……」   

 「……え?」

 だが、何故か大猪のボスは突如とし地面へと頭を擦り付けながら倒れ絶命した。 

 「何故……? 氷柱弾が効いたのかしら……? いえ、今はとにかく逃げないと! 大猪よりも恐ろしい魔王が追い掛けて来てるかもしれない……」
 
 リポンは何が起きたか分からないが、残りの群れが来る前に小さな町パイムに向けて走り出す。 

 リポンは気付かない。

 背後の群れ達は軽傷であり、直ぐにリポンを追い掛ける事が出来た筈だという事に。

 しかし、既に大猪達は全て地に伏せていた。

 そしてリポンが去った後、大猪達の死体は忽然と姿を消し姿の見えない何かが後を追いかけ始めた。

 ◆◇◆

 「ふむ、またあっさりと追い付けたな。 それに、向かってる方角はソルバの言う通りだったな」

 「そうね。 しかし……この娘も魔人って事? さっきは人間の気配や魔力しか無かったのに、目が赤くなった瞬間に変わったわよね?」

 何も知らずに走り続けるリポンの直ぐに後ろには、姿を隠したセムネイル達が追従していた。

 リポンは全力で走っているのだが、セムネイル達の実力からすると軽いランニング程度の速さだ。

 一昼夜走り続けていたリポンに直ぐ様追い付き、道中リポンを襲おうとしていた魔物を狩って4次元に仕舞う余裕があるぐらいだった。

 「貴方様、恐らくですがリポンさんは魔人だと思います。 一瞬でしたが、魔力は魔人族のミラちゃんに似てましたから」

 「そうだな。 セリスの言う通り、魔人の魔力に酷似していた。 だが……」

 セムネイルはセリスの話しに頷きながらも唸る。

 「あの小さな角よね。 4次元に住む魔人達に角は無かった。 それに、魔族の角としては小さすぎる。 角の大きさが魔力の強さだからね」

 グラの補足を聞いたリンが目を輝かせた。

 「ふぇ……っていうことはセムネイル様の角は凄く大きいって事ですか?」

 「おぉ、確かにセムネイルの角は大きくてカッコいいよな! めちゃくちゃ気持ち良いから、俺も好きだぞ!!」

 ノラも何やら納得し頷いているが、盛大な勘違いをしている事にセムネイルは苦笑いを浮かべた。

 「あはは、ノラちゃん……それは違う角かな?」

 「くっくっくっ、まぁ……魔族の角がどうたらっていうのは迷信みたいなもんだ。 小さいからといって弱いわけじゃないからな」

 セムネイル達は賑やかに雑談をしながらリポンの直ぐ後ろを走っているのだが、リポンが気づくことはない。

 セムネイルが使った最上級魔法に分類される隠密の魔法により、指定したメンバー以外には姿や声などは遮断されているからだ。

 「早く、早く! 待っててね、リパン。 直ぐに行くから、そしたら一緒に逃げて生きよう! 大丈夫、絶対に大丈夫!」

 リポンは泥だらけになり、美貌が台無しになろうとも構わずに走り続けていた。

 まさか、追手が直ぐ後ろで雑談しながら付いてきている等とはつゆ知らずに。
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