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第229話 女神ドヴェル

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 「美味かったな。 じゃあ、俺は洗い物するから皆は風呂に入って来て良いぞ」

 セムネイル達は屋台巡りを終え、借りた宿屋の鍵付き部屋から4次元へと戻って来ていた。

 「じゃあ、その、私達は汗を沢山かいたのでお先にお風呂行ってきますね」

 「すみません、お先に失礼します~」

 「「ハヤさん、凄く美味しかった。 お礼に背中を流します」」

 「よ、喜んでもらえて嬉しいです。 じゃ、じゃあお言葉に甘えて……えへへ」

 訓練後のタリア達はセムネイルに汗臭いと思われたくないのか、そそくさと風呂場へと消え。

 ハヤはセムネイルから贈られたネックレスを指で触りながら上機嫌でカリンとコリンの誘いに乗って仲良く風呂場に向かう。

 「えぇ……先輩が洗い物を? 冗談っすよね……?」

 まだ屋台巡りで買った料理を食べ終えていなかったケイティは、セムネイルが使った食器を運び洗い始めたのを信じられない顔で見ていた。

 しかし、他の妻達には最早見慣れた光景である。

 「あはは……最近では、私達にさせてくれないのよ」

 「ふふ、貴方様からの愛を感じます。 なので、ケイティさん……皆でお風呂に行きましょうよ!」

 「良いですね! ケイティさん、一緒に入りましょう!」

 ローズは残った食器を運びながら苦笑いし、セリスは鼻息荒くケイティへと擦り寄る。

 「ひぇっ! いやぁ……自分はそのぉ……」

 「お! ケイティも風呂嫌いか? 俺と一緒だな! でも、風呂に入らないとセムネイルに嫌われるぞ?」

 「えっ!? そ、それは嫌っすね。 わ、分かったっすよぉ……」

 ケイティはセリスを警戒していたがリンに手を引かれ、ノラからの言葉を止めに大人しく風呂場へと向かった。

 「やれやれ、グラちゃんは酔い潰れて寝ちゃってるし。 ちょっとセリスちゃんがヤりすぎない様に私も行ってくるよ」

 「確かに心配ですね。 すみませんがお願いします、サシャさん」

 台所にはセムネイルとローズだけとなり、風呂場からは姦しい声が聞こえる。

 「ふふ、セムネイル様」

 「ん? どうした、ローズ」

 「大家族になりましたね。 んっ……」

 セムネイルは嬉しそうに微笑むローズと口付けを交わす。

 「ローズの笑顔は何故こうも俺を幸せにするんだろうな」

 「もぉ……セムネイル様ったら♡」

 洗い物をしながらセムネイルはローズとイチャイチャを楽しんだのであった。

 ◆◇◆

 家事を終えたセムネイルは分裂した。

 「よし、じゃあ俺はルグの所に行ってくる。 皆を頼むぞ、俺よ」

 「おう、任せろ俺よ」

 そして、家を出たセムネイルは真っ直ぐにドワーフ達が住む鍛冶エリアへと向かう。

 「ルグ、夜なのにまだ止めないのか?」

 4次元の空は既に真っ暗だが、工房からは槌の振るう音が響いていた。

 「これはセムネイル様~! こんな夜にどうされました~?」

 「いや、いくつか頼みたい事があってな。 それと……よっと!」

 セムネイルは4次元からクリスタルを取り出し、ルグの目の前に出してやる。

 「えぇ!? まさか……このクリスタルの中にいらっしゃるのは」

 ルグは目を見開き、クリスタルを覗き込んだ。

 「あぁ、ドワーフ族の女神だと聞いた。 この間潜ったダンジョンの最上階で助けたんだ。 間違いないか?」

 「酒神様~!!」

 「……ん? 酒神様?? ドワーフの女神じゃないのか?」

 想像と違うルグの反応にセムネイルは首を傾げ、ルグは何やら慌てだす。

 「あ、すみません! 酒神様というのは、ドワーフの女神であるドヴェル様のあだ名です。 ドワーフ族を導いて下さっていた時代、本当に……お酒ばかり飲んでたそうなので~。 鉄の山にも、酒神様の像と言い伝えが残ってるんです~」

 ルグは頬を掻きながら苦笑いを浮かべた。

 どうやら、ドワーフの女神ドヴェルは酒好きでドワーフ族と親しい関係だったのだろう。

 「ふむ……まぁ、鬼人の女神モーンデも鬼人達から食いしん坊認定されてたしな。 亜人の女神達は創造した種族と仲の良い良い女神だという事だろ。 じゃあ、クリスタルの封印を解くが大丈夫か?」

 「あれ、このクリスタルの素材。 まさか、ヒヒイロカネ?! セムネイル様、因みに封印を解いたらこのクリスタルの破片は……」

 「あ~……すまん、砕くと消えるぞ」

 期待に満ちたルグの眼差しにセムネイルは申し訳無さげに答えた。

 「あう~……そうですよね。 うまい話は無いものです~。 でも、鍛冶の女神とも呼ばれるドヴェル様が復活されたらきっと今以上に武器作りが捗ります~」   

 「くっくっくっ、本当にドワーフはつくづく職人だな。 よし、離れてろ」

 セムネイルは魔剣デザイアを引き抜き、ドヴェルが封印されているクリスタルを斬り裂いた。 

 そして、クリスタルから解放されたドワーフ族の女神ドヴェルは地面へと落ちたがルグは無視してセムネイルの手に持つ魔剣デザイアを撫でる。

 「おぉ……! 神話の鉱石ヒヒイロカネを鉄製の魔剣で斬るとは~! セムネイル様の腕前もあるでしょうが、その魔剣を打った職人にお会いしたいものですね~」

 「いや、ルグ……いいのか?」

 裸で横たわる創造主を無視するのは流石にダメだろうと呟くと、我に返ったルグは急いでドヴェルに布をかける。

 「ドヴェル様~! 大丈夫ですか~?!」

 「ふむ……意識は戻らずか。 ドワーフと同じく小柄の少女にしか見えんのだが……ドヴェルは強いのか? もしかしたら、女神モーンデの時のように目覚めたら暴れるかもしれん」

 ルグがゆするがドヴェルは目覚めず、寝息だけが聞こえた。

 「それは大丈夫だと思います~。 言い伝えによると、子供のドワーフと喧嘩して負けたそうなので~」

 「そ、そうか。 なら、安心だな。 怪我も無さそうだ、直に目覚めるだろう。 今日はこのまま家で寝かせてやってくれ。 明日の朝、また様子を見に来るよ」

 セムネイルはドヴェルが目覚めても危険は無さそうだと判断し、ルグに任せることにした。

 「ありがとうございます、セムネイル様~! あ、何か頼みたいと仰っておりましたがお聞きしましょうか~??」

 「いや、明日の朝で構わん。 また明日な」

 「はい~! 失礼しますね~」

 セムネイルは引き摺られ、雑に運ばれて行くドワーフの女神ドヴェルを見送り、家へと帰宅するのであった。
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