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第227話 ソルバへの誘いとハヤ激怒

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 「ほぉ……魔王達が悪さをしておったと」

 「そうだ。 さっき話した通り、階層毎のボスにこの赤い宝石を食わせ何やら実験したようだな」 

 セムネイルはソルバに竜の洞窟で起きた顛末を話し、4次元の牢屋から慎重に赤い宝石を取り出しソルバに見せる。

 「まだ詳しくは調べていないが、どうやら魔物を変異させる複雑な術式が中に組み込まれている。 竜王はかなり厄介な変異をしていた。 他の上級に値する魔物で魔王達が実験すれば、更に面倒事になるだろうな」

 「その赤い宝石……何処かで見たような。 いや……記憶違いかの。 して、前にハヤちゃんの誘拐に関与した魔王達と同じかどうか……」

 「十中八九、同じ奴らだろうな。 はぁ……本当に糞みたいな事をしやがる。 おかげで、竜の肉を手に入れる手段が無くなった」   

 セムネイルがため息を吐いていると、ソルバは苦笑いを浮かべる。

 「ほっほっほっ、あくまで竜を食材扱いとは。 セムネイル殿や奥方達の強さ……本当に羨ましいものですじゃ」

 「おいおい、ソルバは出会った普通の人間としてはかなり強いぞ? もっと自信を持て」   

 「そうよ。 魔剣の魔王たる私も保証する。 貴方は人間にしては強いわよ?」

 セムネイルとグラに褒められたソルバは嬉しそうな悲しそうな顔で笑った。

 「ありがたいお言葉ですのぉ。 しかし、儂はもう老い先短い身。 これから先は弱くなるばかりですじゃ」

 ソルバは刀を持つ手に力を込め、悔しそうに歯ぎしりをする。

 「……そうだ。 ソルバ、明日時間があるか?」

 「セムネイル殿の為なら幾らでも作りましょうぞ」

 「くっくっくっ、なら決まりだ。 明日の朝迎えに来る。 リュウマが免許皆伝者のソルバに会いたいらしくてな。 少し付き合ってやってくれ」

 ソルバはセムネイルの言葉に目を見開き、身体を震わせる。

 「リュウマ様に……お会いできるのですか?」

 「まぁ、契約魔法による思念体みたいなもんだがな。 どつする? 震えているが、止めておくか?」

 「と、とんでもない! これは、武者震いですじゃ。 このソルバ、例え足が引き千切れようと必ずリュウマ様にお会いしましょうぞ!!」

 「いや……引き千切れないように気を付けてくれ。 じゃあ、また明日な。 その時に、他の武具や宝の買い取りがあるなら言ってくれ。 すまんが、竜の素材に関してはうちの鍛冶師達が全部使うらしく売る分は無いからな」

 セムネイルは刀を握ったまま動かなくなったソルバを置いて、2階の部屋から出た。

 「皆、待たせたな。 ハヤと合流したら、約束通り屋台巡りと行くか。 ローズ達に土産として買って帰るのも良いな」

 「ふふ、賛成ですわ貴方様」

 「やったー! とてもお腹が空きました!」

 「やったぞー! 俺も腹ペコだー!」

 「はいはい、2人とも落ち着いてね~。 2人が本気で走り回ったら、床が抜けるからね~」

 1階へと下りると、何やら騒がしくセムネイルは眉間に皺を寄せる。

 「ん……? 何だ?」

 どうやら冒険者ギルドに備えられている酒場の方でトラブルが起きたらしく、セムネイルはハヤを見つける為にも人集りに近付く。

 すると人集りの中心にハヤとソクド達の姿が見え、足下を指差して激怒しているのが分かった。 

 「謝って下さい!!」

 特に激怒しているのは妻であるハヤだ。

 対して、ハヤが激怒としている相手の冒険者らしき男達はニヤニヤと笑みを浮かべている。

 「へっ! 誰が嘘つき共に謝るかよ。 なぁにが、竜のステーキを挟んだサンドイッチだ。 そんな王族でも食えないようなもんを、お前ら如きが持ってる筈がねぇだろうがよ!」

 どうやら、ハヤ達が美味しく地竜のステーキサンドイッチを食べている所に男達が現れテーブルに乗っていたサンドイッチを床へと落としたのだろう。

 しかも、ご丁寧に踏みつけたのかキュイジーヌが作ったサンドイッチはぐちゃぐちゃにされていた。

 「よし、殺してくるわ」

 一瞬でキレたセムネイルは床のシミを増やしに行こうとしたが、グラに止められる。
 
 「セムネイル、ストップ。 ハヤちゃんは、今後もこの街で冒険者をするのよね?」

 「……そうだ。 ハヤと相談して決めたからな」

 「なら、セムネイルが居ない時にトラブルに巻き込まれた時はどうするつもり? その度にこの街に戻って、相手を殺すの?」

 「だが……」

 セムネイルがそれでも行こうとするのをグラは強めに止める。

 「タリアちゃん達と同じだよ? 常に守ってあげれない。 だから、ハヤちゃんには強い装備と武器をあげたんでしょ? なら、夫として妻を信じて見守りなさい!」

 グラの言葉にセムネイルは何も言えなくなり、大人しく成り行きを見守る事にした。

 「もう一度だけ言いますね。 貴方が落としたのは、私の最愛の旦那様が狩ってきてくれた地竜のステーキを使った大切なサンドイッチです。 更に、そのサンドイッチを踏みつけた。 絶対に許せない。 でも、もう一度だけチャンスをあげます。 誠心誠意謝って下さい。 さもなくば……全員の首を落とします」

 怒気をはらんだハヤの殺意に男達は少し気圧される。

 「ハヤ、俺達も手伝うぜ」

 同じく、一生に一度食べれるかどうかのご馳走を台無しにされたソクド達も武器を手に立ち上がった。

 「兄上、皆、座ってて」

 「へ? だが……」

 「座ってて!!」

 ハヤの迫力にソクドは気圧され、渋々椅子に座る。

 「へっへっへ、おいおいお嬢ちゃん。 あんまり大口叩くなよ。 お前達はAランクパーティーの瞬足の前足だろ? あれ? 確か、メンバーが犯罪を犯して衰退した前足になったんだっけ?」 「「「「ぎゃははははは!」」」」 

 男達はハヤ達を嘲笑った。

 「俺達は、泣く子も黙るAランクパーティー鬼の牙だ! あのオーガを狩った事すらあるんだぜぇ? てめえらみたいな落ち目のパーティーとは違うんだよ!」

 脅し文句の様な発言をした男は、ハヤの殺気に満ちた目を見て固まる。

 「そうですか、謝るつもりは無いんですね? では、私の最愛の旦那様に死んで詫びなさい」

 ハヤはオリハルコンのナイフを取り出し、瞬時に振るうとナイフを大事そうにハンカチで拭う。

 周囲の野次馬達も、ハヤが何をしたのか理解する事は出来ず。 見えたのはセムネイルとグラ達のみであった。

 「ね? 見守って正解でしょ? セムネイルのおかげで、皆強くなれてるのよ」

 「そうだな。 ありがとう……グラ」


 「「「「「……へぁ?」」」」」

 そして、微動だにしなくなった哀れな男達の首はポロリと落ちて床に転がった。
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