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第224話 キュイジーヌとの約束とポチの方向
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「分かった、約束する。 ミンガムの大きな市場でキュイジーヌと一緒に回るから。 な? 欲しい食材いくらでも買ってやるから、ポチの尻尾は勘弁してやってくれ」
「セ、セムネイル様~~!!」
セムネイルは、家に泣きついて来た火竜王ポチを助けるべくキュイジーヌを説得していた。
ポチの尻尾にはオリハルコンの包丁を持ったキュイジーヌがガンギマリの眼で掴まっており、説得出来なければ抵抗出来ないポチの尻尾は女神モーンデの昼飯になるだろう。
「うー……分かりました。 でも、約束ですからね! 竜を捌けないなんて……市場の食材全部買っても足りないぐらい辛いんです」
ようやくオリハルコンの包丁を下ろしたキュイジーヌはポチの尻尾を離し、泣き崩れてしまった。
セムネイルから竜の洞窟は崩壊し、もう食材として竜を採れないと聞かされた事が止めになったのだ。
「すまん……今日は冒険者ギルドへ報告に行ったりゴタゴタするだろうから、明日は2人で市場を回ろう」
「ぐす……分かりました。 そろそろレストランも開けないと不味いですね……レストランに戻ります」
ふらふらとキュイジーヌは自分のレストランへと戻り、騒ぎを聞いて見物していた住民達は心配そうに見ていた。
「グラ様ーー! 怖かったです! 美味しい食べ物をくれたと思ったら、急に尻尾を斬らせろって追い掛けて来たんですー!」
「はいはい、怖かったね。 セムネイルが説得してくれたからもう大丈夫よ~」
ポチは巨体を揺らし、泣きながら鼻先をグラに押し当てていた。 その姿は、小さな幼子が母親に甘えるかの様だった。
セムネイルは何かを言いたげだったが、嬉しそうなグラの笑顔を見て何も言えずに頭を掻く。
「やれやれ……皆、騒がせたな。 もう大丈夫だから、各自の仕事に戻ってくれ」
住民達がぞろぞろと仕事に戻り、セムネイルはポチを撫でた。
「ポチ、よく抵抗しなかったな。 うむ……これなら王都に向かう時に、頼んでも良いかもな」
「有難きお言葉。 助けて下さり、本当にありがとうございました」
「え? セムネイル、何の話?」
「いや、また話す。 ポチ、家に戻っていろ。 グラ、昼飯を済ませてミンガムに戻るぞ」
「ん、他の皆は起きたかしら? じゃあ、ポチ。 またね」
ポチは2人に頭を下げ、家に入るのを見送った後に心から安堵した。
◆◇◆
(あっっっぶな! 抵抗しそうになるのを必死に堪えて良かったー! もし抵抗して、あのキュイジーヌっていう人間を殺してたら……あわわ、我慢出来た我ナイス! よし、小さな住民達を踏まない様に気をつけながら帰ろ……ん?)
ポチが家に帰ろうとしていると、足下に小さな亜人がやって来た。
「ポチー! 俺は熊獣人のベアだ!! なんか大変そうだったなー! 大丈夫かー?」
(ベア? あぁ……セムネイル様と散歩した時に、最初に出会った住民か。 うーむ……まさか、こんなに小さき生き物が我を心配してくれているのか?)
ベアは火竜王ポチを全く怖がらずに太く大きな前足をペチペチと叩く。
「うは~……やっぱりポチは大きくてカッコいいな!」
「カッ……カッコいいですか?」
「そうだぞ! セムネイル様が乗って歩くのに相応しい、竜の王様だ! 俺も乗りたいぐらいだぞ!」
ポチは目を丸くして驚く。
まさか、こんなに早く竜たる自分を受け入れる住民が居るとは思っていなかったからだ。 キュイジーヌは……例外だ。
(これは……何たる優越感!!)
ポチはベアの優しさに感動し、頭を下げた。
「ベア殿、良ければ養蜂エリアまで私の上に乗って行かれますか? セムネイル様に作っていただいた家は、どのみち同じ方角ですし」
「えぇ!? うはー……本当に良いのか? あ、でも……ちょっと待っててくれ!」
ベアは大喜びしたが、何やら考えた後にセムネイルの家へと走る。 そして、直ぐに満面の笑顔で戻って来た。
「セムネイル様が乗っても良いって言ってくれたぞ! ポチ……お願いするぞ!」
嬉しそうに報告してくるベアを見て、ポチはとても優しい気持ちになった。 それは、魔物としては異常な感情の芽生えである。
しかし、それがきっとポチを良い方向に向かわせるだろう。
欲望と狭間の魔王セムネイルを怒らせ、殺されない方向に。
「ふふ、では気を付けてお乗りください」
ポチはベアをよじ登らせ、ゆっくりと歩き出した。
「セ、セムネイル様~~!!」
セムネイルは、家に泣きついて来た火竜王ポチを助けるべくキュイジーヌを説得していた。
ポチの尻尾にはオリハルコンの包丁を持ったキュイジーヌがガンギマリの眼で掴まっており、説得出来なければ抵抗出来ないポチの尻尾は女神モーンデの昼飯になるだろう。
「うー……分かりました。 でも、約束ですからね! 竜を捌けないなんて……市場の食材全部買っても足りないぐらい辛いんです」
ようやくオリハルコンの包丁を下ろしたキュイジーヌはポチの尻尾を離し、泣き崩れてしまった。
セムネイルから竜の洞窟は崩壊し、もう食材として竜を採れないと聞かされた事が止めになったのだ。
「すまん……今日は冒険者ギルドへ報告に行ったりゴタゴタするだろうから、明日は2人で市場を回ろう」
「ぐす……分かりました。 そろそろレストランも開けないと不味いですね……レストランに戻ります」
ふらふらとキュイジーヌは自分のレストランへと戻り、騒ぎを聞いて見物していた住民達は心配そうに見ていた。
「グラ様ーー! 怖かったです! 美味しい食べ物をくれたと思ったら、急に尻尾を斬らせろって追い掛けて来たんですー!」
「はいはい、怖かったね。 セムネイルが説得してくれたからもう大丈夫よ~」
ポチは巨体を揺らし、泣きながら鼻先をグラに押し当てていた。 その姿は、小さな幼子が母親に甘えるかの様だった。
セムネイルは何かを言いたげだったが、嬉しそうなグラの笑顔を見て何も言えずに頭を掻く。
「やれやれ……皆、騒がせたな。 もう大丈夫だから、各自の仕事に戻ってくれ」
住民達がぞろぞろと仕事に戻り、セムネイルはポチを撫でた。
「ポチ、よく抵抗しなかったな。 うむ……これなら王都に向かう時に、頼んでも良いかもな」
「有難きお言葉。 助けて下さり、本当にありがとうございました」
「え? セムネイル、何の話?」
「いや、また話す。 ポチ、家に戻っていろ。 グラ、昼飯を済ませてミンガムに戻るぞ」
「ん、他の皆は起きたかしら? じゃあ、ポチ。 またね」
ポチは2人に頭を下げ、家に入るのを見送った後に心から安堵した。
◆◇◆
(あっっっぶな! 抵抗しそうになるのを必死に堪えて良かったー! もし抵抗して、あのキュイジーヌっていう人間を殺してたら……あわわ、我慢出来た我ナイス! よし、小さな住民達を踏まない様に気をつけながら帰ろ……ん?)
ポチが家に帰ろうとしていると、足下に小さな亜人がやって来た。
「ポチー! 俺は熊獣人のベアだ!! なんか大変そうだったなー! 大丈夫かー?」
(ベア? あぁ……セムネイル様と散歩した時に、最初に出会った住民か。 うーむ……まさか、こんなに小さき生き物が我を心配してくれているのか?)
ベアは火竜王ポチを全く怖がらずに太く大きな前足をペチペチと叩く。
「うは~……やっぱりポチは大きくてカッコいいな!」
「カッ……カッコいいですか?」
「そうだぞ! セムネイル様が乗って歩くのに相応しい、竜の王様だ! 俺も乗りたいぐらいだぞ!」
ポチは目を丸くして驚く。
まさか、こんなに早く竜たる自分を受け入れる住民が居るとは思っていなかったからだ。 キュイジーヌは……例外だ。
(これは……何たる優越感!!)
ポチはベアの優しさに感動し、頭を下げた。
「ベア殿、良ければ養蜂エリアまで私の上に乗って行かれますか? セムネイル様に作っていただいた家は、どのみち同じ方角ですし」
「えぇ!? うはー……本当に良いのか? あ、でも……ちょっと待っててくれ!」
ベアは大喜びしたが、何やら考えた後にセムネイルの家へと走る。 そして、直ぐに満面の笑顔で戻って来た。
「セムネイル様が乗っても良いって言ってくれたぞ! ポチ……お願いするぞ!」
嬉しそうに報告してくるベアを見て、ポチはとても優しい気持ちになった。 それは、魔物としては異常な感情の芽生えである。
しかし、それがきっとポチを良い方向に向かわせるだろう。
欲望と狭間の魔王セムネイルを怒らせ、殺されない方向に。
「ふふ、では気を付けてお乗りください」
ポチはベアをよじ登らせ、ゆっくりと歩き出した。
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