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第214話 過去の罪

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 セムネイルは朧気な意識の中、ケィティに出会った頃を思い出していた。

 ◆◇◆

 神魔大戦が長く続き、人間族にとっては地獄だった頃。

 「そっちから更に天使が来てるぞ!」

 「人類の底力を見せてやれ! これ以上子供を拐わせるな!」

 様々な武器や鎧を身に纏った人類の兵士達が空から襲撃する天使達と戦っていた。

 しかし、人類と天使とでは戦闘力に大きな差があり兵士達は次から次へと死んでいく。

 「こっちは倒したっす! 待たせたっすね!」

 そんな地獄の中でケィティは槍を振るっていた。

 「「「「槍の英雄ケィティだ! 勝てるぞ!!」」」」

 ビキニアーマーを身に纏い、常に最前線で戦うケィティはその美貌と強さで人類の英雄の1人として数えられていた。

 だが、頻繁に襲撃する天使や魔族達の数は圧倒的であり徐々に人類側は消耗しケィティが守っていた村にも終わりが近付く。

 「くっ! これ以上は持ち堪えれないっす! 皆は女性や子供を連れて逃げるっす! 早く!」

 「「「「そんな! ケィティ!!」」」」

 殿を受け持ったケィティが襲い来る天使を槍で屠り、奮闘するのを遠くからセムネイルは見つめていた。

 「くっくっくっ、活きのいい女がいるな」

 邪悪に笑うセムネイルの額からは長く太い角が聳え立ち、漆黒の雷が常に走っている。

 魔王らしい黒色の鎧に身を包み、背中には真紅のマントが靡く。

 「マスター、避難を始めた人間達の方にも天使達が向かっております。 如何しますか? 早くせねば、神も来るかと」

 進言したのはセムネイルの仲間であり従者の殺戮人形ティモシーだ。

 長く伸びた黒髪に、無機質な瞳、そしてダラリと垂らした継ぎ目のある手には黒くドロドロとした死の闇が纏わりついた包丁を2本持っている。

 「おう、俺はあの女を助ける。 お前は避難している奴等を頼んだ」

 「はっ! この殺戮人形ティモシーにお任せをマスター」

 セムネイルの後ろに立っていた殺戮人形ティモシーは音もなく消え、直後には避難している人間達を襲おうと向かっていた天使達が切り刻まれ地面に散乱した。

 「あはははは! 死ね死ね死ね! マスターに逆らいし羽虫共! 全てこのマスターの忠実な下僕であるティモシーがバラバラにしてあげます! あははははははははは!」

 そして、死ぬ事が出来ずに呻き苦しむ天使達を踏み付ける。

 ティモシーは主人の役に立っている喜びに堪えきれず、笑い始めた。

 「さて、俺も行くか」

 殿を務めるケィティの前には多くの天使達と一柱の神が降り立っていた。

 セムネイルは気にすることも無くケィティを助けに突っ込んだ。

 ◆◇◆

 「ぐっ! マジっすか……槍の神ワイアットがわざわざ自分を殺しに来るとは予想外っすね」

 槍が折られたケィティは地面へと崩れ、残った槍を支えに何とか立ち上がろうともがいていた。

 止めを刺そうと、槍の神ワイアットが手に持つ神槍グンニグルを構える。

 「無駄だ……矮小な人間にしては、中々にやりおる。 だが、それも神である我等にとってはゴミ同然よ――ぎゃばぁ?!」

 しかし、ワイアットがケィティに止めを刺す前に腹から手が生えそのまま上下に引き千切られ即死した。

 「……は?」

 「「「「「ワイアット様!!」」」」」

 周囲の天使達は驚愕し、主である神を殺した犯人を探す。

 「いたぞ!」

 「「「「「よくもワイアット様を……!? ぎゃぁぁぁ!!」」」」」

 そして、ワイアットのいた場所に血だらけのセムネイルが立っているのを確認した天使達は阿鼻叫喚となり泣き叫びながら逃げ始めた。

 「わ、わわ! 何がおきたんっすか? それに……貴方は誰っすか?」

 ケィティは何が起きたのか分からず、目の前に立つ血だらけのセムネイルを見上げる。

 「くっくっくっ、羽虫共が。 俺を見て逃げ始めたか。 まぁ、逃がさんがな!! 俺の欲望を喰らえ!」

 数百の天使達が飛び立ったが、突如現れた次元の穴に吸い込まれ悲鳴を上げながら掻き消えた。

 そして周囲は静寂に包まれ、セムネイルはゆっくりとケィティに近付く。

 「大丈夫か? 戦いを見ていたが、中々にやるな。 長年彼奴等と戦っているが、わざわざ神が殺しに来るとは……誇って良いぞ」

 「あ、ありがとうございますっす。 自分より長く戦ってるなら……先輩っすね!」

 「……先輩??」

 ケィティは差し出されたセムネイルの手を取り、立ち上がる。

 「くっくっくっ、何だお前……変わった女だな。 それに、その格好……痴女か?」

 「ち、痴女?! 違うっす! この格好は、味方の士気を上げる為っす。 それより先輩、逃げた仲間達が向こうに……」

 ケィティが後ろを振り返ると、殺戮人形ティモシーが逃げた仲間達を連れて戻っていた。

 だが、戻った仲間達の顔色は悪い。

 「皆! 良かったっす! 無事だったんすね! えっと……自分はケィティっす! お兄さんは……あれ? その角……まさか」

 冷静になったケィティはセムネイルの額から生える2本の角を見て後退りをする。

 天使と神は敵だが、当然ながら魔族や魔神も敵なのだ。

 戦うか逃げるか迷うケィティに、セムネイルは落ち着かせる様に口を開く。

 「俺は欲望と狭間の魔王セムネイルだ。 案ずるな、お前達を助けに来たんだ。 俺の作り出す4次元世界には人間達が大勢住む国があってな。 条件次第ではお前達を入れてやっても良いと思っている」

 ケィティやその仲間達はセムネイルの名前を聞いて驚く、確かに最近人間の味方をする魔王が現れ安全な場所に人間達を匿ってくれると噂になっていたからだ。

 だが、何を差し出して魔王の庇護下に入るのかは誰も知らなかった。

 ケィティは恐る恐る口を開く。

 「条件……っすか。 奴隷とかは絶対に嫌なんすけど……一応聞くっす」

 警戒するケィティの全身を上から下まで舐めるように見たセムネイルは後ろの女達を見ていやらしく嗤った。

 「そうだな、良い女は全て俺の物にする。 男は兵士として仲間を守る力となれ」   

 セムネイルの言葉に後ろにいる女達が悲鳴を上げて後退りし、隠すようにケィティがセムネイルの前へと進み出た。

 「先輩ま、待って欲しいっす! 恋人や旦那がいる人も中にはいるっす! お願いっす……自分を差し出すので許して欲しいっす」

 ケィティの言葉にセムネイルは待っていたとばかりに嗤う。

 「くっくっくっ、そうか……うむ、ならば良いだろう。 後ろの奴等も文句は無いな?」

 自分達を守る為に英雄ケィティが己を差し出すのを仲間達は止められなかった。 先程、絶体絶命の時に現れ天使達を殺戮した人形が側で殺気を放ちながら睨んでいたからだ。

 歯を食いしばり、唇を噛み締めて耐えるしか無い。 

 このチャンスを逃せば死ぬ未来しか無いからだ。

 「よし、決まりだ!」

 セムネイルは4次元の門を出し、ケィティの仲間達を中へと招き入れた。

 「さて、おいケィティ」

 「は、はいっす……ひゃんっ?!」

 最後に残ったケィティの臀部を鷲掴みにし、片方の手がスルスルと膨らみに滑り込む。

 「俺の城に帰ったら身体を清めて部屋に来い。 なぁに、俺の女は大勢居る。 寂しくは無いからな……ふはははは!」

 邪悪に嗤うセムネイルに身体を弄られ、ケィティは泣きながら堪えていた。

 全ては仲間が安全に生きられる為に。

 ◆◇◆

 ――ぱい! 先輩!! しっかりするっすよ!!」

 「……ケィティ」

 セムネイルはケィティに頬を叩かれ、ようやく現実に戻って来た。

 「そうっすよ! 何かダンジョンが崩れてるんっすけど!」

 既に宝物庫の前以外は瓦礫だらけとなり、雷竜王と水竜王が自らの身体を盾にケィティとセムネイルを守っていた。

 「許してくれ……ケィティ」

 「何を言ってるんっすか! 先輩が謝るとかあり得ないっすよ! それに……あんなに攻撃したのに、自分を攻撃する素振りすらしなくて……そんなの殺せる訳無いじゃないっすか……!」

 「すまない、ケィティ」

 ケィティの頬を撫で、セムネイルはひたすらに謝罪を口にする。 何時も自信に溢れ、誤りを認めす、謝罪等絶対にしなかった頃のセムネイルを知っているケィティは長い時の間にセムネイルが変わったのだと確信した。

 「わ、分かったっすよ! でも、お願いがあるっす」

 セムネイルは身体を起こし、ケィティの目を見ながら答える。

 「何でも聞こう」 
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