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第208話 竜王との戦い

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 「ちっ……馬鹿共魔王達が、いったい何をしたら氷竜王があんな見た目になるんだよ」

 セムネイルは先客である魔王達に悪態をつき、自身の上に乗っている瓦礫をどかした。

 背後には三階層に続く階段があったが、今は瓦礫の山だ。

 「「「「「「ガルゴルルル? ゴララ? ガロロ! ガフガフ!」」」」」」

 そして、先程まであった雪原は綺麗に吹き飛び地獄絵図が広がっていた。 露わになった地面からは岩の刺や氷柱が針山のように突き出し、隆起した山からは溶岩が溢れ出した。

 空からは弾丸の様な雨が落下し、落雷が絶え間なく地面へと降り注いでいる。 更に透明な真空の刃が鎌鼬の様に様々な場所を斬り裂いていた。

 そんな天変地異の中を、平然と向かって来る魔物。

 それは元々氷竜王と呼ばれる存在だった。 美しい氷を纏い細く長い身体を持つ氷竜だが、セムネイルに向かって来る氷竜王は異様な姿をしている。

 元々の氷竜王の頭以外に、変形した火竜王、水竜王、翼竜王、雷竜王、地竜王の頭が生えており苦痛に歪んでいた。

 水竜は裂けた口にびっしりと鋭い歯が並んでいる竜、雷竜は金色の鱗に2本の大きな角が生えた竜だ。

 「おいおい……マジで何をしたんだ? 下手したら、其処らの神や魔神より強いぞ」

 セムネイルは身体に付いた埃を払い、魔剣デザイアを構えた。

 周囲を見渡すと、本来居た筈の氷竜らしき肉片が散乱しており見境なく攻撃をする存在だという事が分かる。

 (状況から考えるに、俺達が四階層に入った瞬間に反応し襲って来たのか。 はぁ……フロアボスがエリアを移動して入り口まで来るとか意味わからんぞ)

 明らかな敵意を持った竜王達の首はセムネイルが生きていることを確認したのか、再度複合魔法を発動し始める。

 「「「「「「ゴガァァァァ!!」」」」」」

 各竜王の口から各種の魔法が放たれ一箇所に集合し、破壊不可の階段すら瓦礫に変えた複合魔法が発射された。

 「本気でやらないと、こりゃ殺られるな。 ふぅー……グラ、セリス達を頼んだぞ!」

 頭から角を生やし、本気を出したセムネイルは魔剣デザイアを振るい複合魔法を迎え撃った。

 ◆◇◆

 「きゃっ! グラさん……今の地響きは」

 「多分、上でセムネイルが戦ってる。 ヤバいね……ダンジョンの階層は各次元が違うの。 だから、本来は階段を経由しないと干渉できないんだけど……」

 三階層が突如として揺れ、黒岩の地面がひび割れ始めた。

 「次元に干渉する程の戦いが起こってるって事ですよね」

 「セリス、グラ! やばいぞ! 奥から火竜が集まって来たぞ!」

 グラ達は階段の瓦礫をどかそうとしていたが、地響きに驚き火竜王が居た場所に避難している。

 其処に、階段が吹き飛んだ音を聞いた火竜達が集まって来たのだ。

 その間にも地響きは強くなり、天井からは黒岩の破片が落下し始めた。

 「ちっ! セリスちゃん、リンちゃん、ノラちゃん、これからこのダンジョンを脱出するよ。 最悪、このダンジョンは崩壊するかもしれない」

 「でもセムネイル様が!」

 「そうだぞ! セムネイルを置いて出たら嫌だ!!」

 グラの判断にリンとノラが抗議するが、今も火竜は迫り地響きも激しくなっている。 急がなければ危険なのは明白だ。

 「リン、ノラ、落ち着きなさい! グラさん、私達には狭間の指輪が有りますよね? 一旦、扉を出して4次元に避難すべきでは?」

 「ダメよ、セリスちゃん。 もし、ダンジョンが崩壊したら出したままの扉を介して4次元にどんな影響があるか分からない。 最悪、4次元諸共崩壊するかも」

 「……分かりました」

 瓦礫と化した階段の方を見て顔を歪めるセリスの頭をグラは優しく撫でる。

 「大丈夫、セムネイルなら絶対に大丈夫。 神魔大戦の時に、神や魔神の軍勢を相手取り勝っていた所を見ていた私を信じて」

 「……はい!!」

 セリス達は火竜達を迎え撃ち、竜の洞窟からの脱出を開始した。

 ◆◇◆

 「ってな具合で、グラなら脱出を選んでくれるだろうな。 おっと!」

 四階層での戦闘は凄まじく、既にセムネイルがいる場所は生き物が生きていける環境では無くなっていた。

 「「「「「「ゴルルァァァッ!」」」」」」

 幾ら攻撃しても仕留めれない事に怒り狂う竜王達の首は、それぞれの得意とする攻撃魔法を乱射する。

 セムネイルの足下から水球が現れ、覆うように雷が走った。 死角からは真空の刃が襲い来る。

 「はぁぁぁぁぁ! 喰らえ魔剣デザイア!!」

 魔剣で水球を斬り裂き、向かって来る雷と真空の刃を撃ち落とす。

 それでも、直ぐ様足下から岩の刺と氷柱が襲い来た。 背後からは溶岩が噴出し、セムネイルの背中を襲う。 

 それらが直撃する前にセムネイルは飛び上がり、そのまま近くにあった地竜王の首を叩き斬る。

 「ガギャァァァァァ!!」

 「ちっ! やっぱり何度首を斬っても再生するのかよ!」

 斬られた巨大な地竜王の首は灰となり、代わりに新しい地竜王の首が再生する。 既に何度も首は斬り落としているが、その度に再生され堂々巡りだ。

 仕方無くセムネイルは襲い来る攻撃魔法をひたすら凌いでいた。

 今、考え得る効果的な攻撃を行えばダンジョンは崩壊しグラ達の脱出が間に合わないからだ。

 「ぐぁ!! 糞が……この気色悪いトカゲめ!」

 着地した瞬間に弾丸の様な雨が一斉にセムネイルへと放たれ、殆ど撃ち落としたが数発の打ち洩らした弾丸がセムネイルの腹と足を貫いた。

 直ぐ様回復魔法を発動し、セムネイルは竜王達から距離をとる。

 こうして、グラ達が脱出できる時間を稼ぐまでの死の鬼ごっこが始まった。
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