【R-18】自称極悪非道な魔王様による冒険物語 ~俺様は好きにヤるだけだ~

秋刀魚妹子

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第197話 胃が痛い英雄と新領主

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 セムネイル達がダンジョン竜の洞窟を攻略している頃。 ボブムズ王国王都では英雄達の凱旋パレードが行われていた。

 ボブムズ王国自慢の分厚い城壁の中には王城に続く大通りがあり、その大通りを囲むように家や店が立ち並んでおり王都の繁栄を示していた。

 「あぁ……胃が、胃が痛いです」

 パレードの大通りには多くの民衆達が見物に並び、通る馬車に笑顔で手を振っている。

 そんな光景を馬車の窓から見ていたブルムフの街の新領主ボンタン フォル ビルは険しい顔で腹を押さえていた。

 「私もですよ……ボンタン様。 はぁ~……本当に何とか出来るのか?」

 ビルの呟きに答えたのは、同じ馬車に乗るSランク冒険者パーティー竜の尻尾リーダーのブッチだ。

 パレードの先頭には、セムネイルに散々脅され服従したボブムズ王国騎士団100人隊長のドムが馬を進め周囲を騎士団達が守って追従している。

 「あはは……お互い大変な事になりましたね」

 ビルはこの旅の間に心労から老けており、まだ青年とは思えない程に焦燥しきっていた。

 「はぁ~……こりゃ、Sランク冒険者になる切っ掛けになった上級の地竜と戦った時の方がマシですぜ」

 「そうでしたね。 ブッチさん達は、あの竜を倒した英雄じゃないですか! なら、今回の手柄も王達は疑いませんよ。 問題は……何の実績も無い私です」

 ビルは輝く瞳でブッチを見つめるが、ブッチからすると先日の戦いを考えたらまだ地竜の方が楽だった。

 上級のブラックゴブリン達やミノタウロス達の群れと戦ったのだ。 生き残れた事が奇跡であり、そんな恐ろしい魔物達を簡単に皆殺しにした恩人であるセムネイルを見た後だと地竜等トカゲに思えてくる。

 「はは……ありがとうございます。 それに、ボンタン様も大丈夫ですよ。 ドムさんが全面的に支持して下さいますし、報告はドムさんの仕事ですから」

 確かに、ビル本人の仕事は父を失いそれでも民達の安寧を守る新領主になると宣言するぐらいだ。

 王国騎士団100人隊長ドムの報告があれば、問題無く解決するだろう。 

 しかし、2人が胃を痛めているのは王への報告では無く。 何かトラブルが発生しセムネイルの計画が失敗でもしたらどうなるのかと想像しただけで胃が捩じ切れそうになるのだ。

 ビルは父親が無礼を働き殺され、ブッチは仲間が無礼を働いている。

 最悪、死んだ方がマシな目に遭わされるだろう。

 実際は、失敗した所でセムネイルはお疲れとしか言わないだろうが2人はそんな事を知る筈がない。

 仮に失敗し、王都から腐った貴族が領主として派遣されてもローズ達が健やかに過ごせなければ直ぐに殺せば良いのだからセムネイルからするとどちらでも良いのだ。

 馬車の外から聞こえる歓声にビルとブッチは目を合わせ、同じタイミングでため息を吐くのであった。

 ◆◇◆

 ビルとブッチが乗る後ろの馬車では、竜の尻尾メンバーのルーザーが窓から身を乗り出して笑顔で手を降っていた。

 「みなさーーん! あっしはSランク冒険者竜の尻尾パーティーのメンバーであるルーザーですよー! 顔を覚えて下さいっすねー!」

 何故か普段は隠密行動を好む男が、これ見よがしに顔を民衆に売っているのを同じ馬車に乗っているメルディとリックは顔を覆っていた。

 「ルーザー! いい加減に止めて。 とても恥ずかしい」

 「そうですよ。 何時も、あっしは日陰に生きる影の存在って言ってたでは無いですか」

 「ちょっ?! リック! それはあっしの寝言ですよね?! 起きてる時に言ったこと無いっすよ!?」

 ルーザーはようやく馬車の中に戻り、メルディとリックは顔を上げた。

 「ルーザー、貴方がセムネイルから貰った大金で何をしたいのかは知ってる」

 「そうですね。 貴方の目的の為に顔を売る必要があるのも分かりますよ?」

 ルーザーは足下に後生大事に置いているセムネイルから貰った大金が入った袋を持ち上げ抱きしめた。

 「なら、ちょっとの宣伝ぐらい許してくだせぇよ! こちとら、早くあの娘達の所に行きたいのを我慢してるんっすから」

 文句を垂れるルーザーに、メルディはため息を吐いた。

 「だからよ。 いい? まだ、私達がブルムフの街を救った英雄とは王から認められてない。 今はまだ仮」

 「そうですよルーザー。 つまり、私達の報告が虚偽と判断されれば英雄ではありません。 まぁ、私達は元々Sランク冒険者パーティーですからちょっと評判が落ちるぐらいで済むでしょうが」

 ルーザーは仲間の説得にようやく納得した。

 「なる程……理解しました。 すんません……あっし、舞い上がっちまって」

 「ふふ、良いのよ。 仲間だもん」

 「そうですね。 仲間ですから」

 前を走る馬車とは違い、メルディ達は比較的に穏やかにパレードを進んでいた。

 しかし、射手であるメルディが何かを察知し弓を手に取る。

 「……誰かが見てる」

 「メルディ? そりゃ、パレードっすから誰かは見てるでしょうよ」

 「違う。 ルーザー、リック、警戒。 これは敵意」

 メルディの言葉にルーザーとリックは即座に反応した。

 直ぐ様、武器を手にし外を警戒する。

 「ルーザー、ブッチの所に連絡を」

 「了解でさぁ!」

 盗賊風の装備を速やかに装着し、ルーザーが窓から出ようとしているとメルディが止めた。

 「待って、消えた。 でも、少し見えた……フードを深く被った奴等。 敵意を感じたけど、襲ってくる訳じゃないみたい」

 弓を手にしていたメルディは、武器を下げ馬車の座席に座り直す。

 「って事は……襲うのは今じゃないって事っすかね?」

 「でしょうね……。 ルーザー、王への報告の場では最大限に警戒を。 室内では、貴方が頼りですから」

 「了解でさぁ。 やれやれ……トラブル無しには終わりそうに無いっすねぇ」

 ルーザー達を乗せた馬車は進み続ける。

 大通りの先にある王城に向けて。 
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