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第182話 肉の宴

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 「「「「かんぱーい!」」」」

 キュイジーヌのレストランでは宴が行われていた。 メインは当然、中央で解体されては料理として運ばれる地竜の肉だ。

 「はいよー! 地竜のステーキ山盛りだよ!」

 セムネイルから地竜の捌き方を教わったキュイジーヌは、プロの料理人らしく凄まじい速度で地竜を美味な料理へと変えた。

 今も、大きな台車に大量の地竜のステーキを載せて鬼人族の女神モーンデの前へと持ってきた所だ。

 「ふわわわ~! ありがとうキュイジーヌちゃん! 嬉しいよぉ~! あむ……んー! おいしーーーー!」

 モーンデは目をキラキラと輝かせ、霜降りのステーキに齧り付いた。 そして、その美味しさに目を見開き悶絶する。

 側で同じ様にステーキを食べるオルガ達も美味し過ぎる地竜のステーキに感動していた。

 「ふはははは! 満足か? モーンデ」

 「うん! 勿論だよ~。 約束守ってくれてありがとう、セムネイル」

 「おう、明日はまた別の竜を狩って来てやるからな」

 セムネイルがキュイジーヌの合図で地竜を4次元から出す係をしている間、妻達は他の皆と宴会を楽しんでいる。

 「えぇぇぇぇ!? リン様も、あの地竜を!?」

 「って事は……竜殺しじゃねぇですか!」

 「あ、え……えっと、その、そうなんですよ~」

 珍しくリンが人間族のジェイソン達に囲まれ、賛辞の嵐に巻き込まれている。

 「すげぇ! 竜殺しって云えば、冒険者最高の誉れですぜ!」 「そうそう、竜に挑むは冒険者の誉れよのっていう伝記が残ってるぐらいですからね!」 「俺達、Bランク冒険者には夢のような話しですよ!」

 「えへへ……そうですか?」

 ベタ褒めにされるリンは照れながら注がれる飲み物を口にしていた。 そんなリンを隣でローズとセリスとサシャが微笑ましそうに見ている。

 「うん、やっぱり地竜のステーキは最高ね。 キュイジーヌ、お代わり~」

 グラは酒を飲みながら地竜のステーキを口いっぱいに頬張っていた。 側の獣人達や魔人達も美味しそうにステーキを食べているが、グラの食べっぷりにドン引きである。

 「はいよー! セムネイル様、グラ様がお代わりだから新しい地竜出して下さいな」

 「ん? おう、任せろ」

 セムネイルが次の地竜を出していると、ドワーフのルグ達がやって来た。

 「あの、セムネイル様……ご相談が~」

 「どうした、ルグ。 いや、待てよ……地竜の素材だな?」

 セムネイルは少し考えた後、直ぐにルグ達の目的が分かった。 キュイジーヌが地竜を捌き始めたのをルグ達は目を釘付けにして見ている。

 「あはは~、流石ですね。 ドワーフの事を良く分かって下さる。 そうなんですよ~、ほら……この地竜の皮膚! 爪に牙! どの素材も凄く良い武器や防具が作れますよ!!」

 「「「「そうなのだ! 作りたいのだ!」」」」

 興奮するルグの後ろではドワーフの子供組が声を揃えて要望する。

 「くっくっくっ、分かっているさ。 もう、キュイジーヌには食料にならない素材はルグに譲る様に伝えてある。 キュイジーヌ、素材は何処に置いてる?」

 「ふ~、さいっこう! この包丁最高だよセムネイル様! え? 素材?? あ~、食べれない素材は厨房の奥にある部屋に積んであるよ。 好きに持っていって良いからね」

 「にょっ?! 本当ですか!? ありがとうございますキュイジーヌさん、セムネイル様! 皆行くよー!」

 「「「「「わーいなのだー!」」」」」

 「作った武器や防具はジェイソン達に優先的に渡せよー!」

 「はーい!」

 良い素材に目の無いドワーフ達は厨房の奥へと走っていった。 ルグが返事をしていたので大丈夫だろう。

 「セ、セムネイル様? 今……何か聞こえたんだが?」

 席を立ったジェイソンがセムネイルの下へと訪れ、何かに怯えていた。

 「ん? あぁ、4次元の扉を見張ってくれる者には良い装備が必要だろ? オリハルコン製の武器や防具を揃えてやりたいが、中々に苦戦してるらしくてな。 すまんが、当分は竜の武器や防具で我慢してくれ」

 「あ、あはは……もう、考えるの止めるぜ。 りょ、了解だ」

 苦笑いのまま固まったジェイソンは、そのままフラフラと仲間の席へと戻った。 そして、話を聞いた仲間達も同じ様に放心する。

 セムネイルは知らないが、竜の武器や防具の1つを売るだけで平民なら3代にわたって遊んで暮らせるだけの大金になるのだ。

 今の時代の常識からすると、何の見返りも無い所か申し訳無さそうに渡される物ではないのだ。

 「ただいま帰ったぞー! セムネイル、腹減ったー!」

 「か、帰りました~」

 すると、ようやくノラ達が帰って来た。 仲良くなったのか、ハヤの手をノラが引いておりセムネイルは微笑む。

 「おう、お帰り。 ありがとうなノラ、ハヤ」

 「すみませんセムネイル様、遅くなりました」

 「うぅぅ……ごめんなさい。 白熱し過ぎて……」

 「「ほんの少しお灸を据えてほしいと言っただけなのに……」」

 その後ろからはアヤメ達が連れ立って入って来た。 何故かタリアは落ち込んでいる。

 「アヤメ、タリア、カリン、コリン、地竜の肉だぞ。 何があったか知らんが、とりあえず食おう」

 セムネイルはノラ達を座らせ、キュイジーヌにステーキを頼む。

 そして、直ぐに運ばれたステーキの数々にノラは大喜びだ。

 「くんくん! あおーーん! 最高の匂いだ! キュイジーヌは最強の料理人だな!」

 「うわぁ~! 凄い良い匂いですね」

 ノラとハヤは大喜びでステーキを口にし、仲良く2人で悶絶している。

 「くっくっくっ、美味いなら何よりだな。 ほれ、タリア達も食え食え」

 セムネイルに急かされ、タリア達もステーキを口に運ぶ。

 「っ!? 地竜ってこんなに美味しいの?! 聖エオルニア教国の依頼で倒した時、食べておけば良かったー!」

 「ふふ、それは無理だったと思うわよ? だって、あの時は私もタリアもボロボロだったしね」

 「「それに、食材に出来るような状態じゃ無かった。 当時の私達が瀕死になりながら倒した地竜を食料として扱うセムネイル様……やはり神」」

 タリア達は何やら昔を懐かしみながら地竜のステーキを頬張る。

 「ふはははは! どんどん食えよー? 今日だけで、80体の地竜を狩ったからな」

 セムネイルの言葉にタリア達は目を見開いて驚く。 しかし、実際に倒したのがグラ達だけだと知ると更に驚く事だろう。

 ◆◇◆

 宴は進み夜も更け、皆が満福になった頃。

 「セムネイル様……もし、ダメで無ければ」

 ローズがセムネイルの下にやって来て耳打ちをする。

 「そうだな。 キュイジーヌ、疲れている所すまん。 ちょっとステーキの追加を頼めるか? コロシアムに持って行きたいんだ」

 「あいよ! 直ぐに作るから待ってて下さいな」

 「セムネイル様、ありがとうございます」

 「いや、寧ろありがとうローズ。 本当にローズは気が回せるいい女だな」

 ローズはセムネイルに頭を撫でられ、頬にキスをされた事で顔を真っ赤に染める。

 そして、キュイジーヌが厨房に消えた後、セムネイルはタリア達の前に座り料理が運ばれるまで何があったのかを聞くことにした。
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