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第143話 縁のある相談と捨てた自負
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4次元に侵入者が居るなどと思いもよらないセムネイル達は、ミンガムの冒険者ギルドで受付嬢の話しを聞いていた。
「セムネイル様はこの街に来る前に、小さな町パイムに寄られましたよね? あの町の冒険者ギルドの受付嬢をしているのは私の妹のリパンなのです」
受付嬢の話しを聞き、セムネイルは顎に手を当てて思い出そうと考え込む。
「ふふ、貴方様。 小柄な受付嬢さんの事ですよ。 ほら、ギルドマスターさんの隣に居た」
絶対記憶力を持っているセリスの言葉でようやくセムネイルは思い出し、声を上げた。
「あぁ、あの小さな受付嬢か。 ふむ、確かに思い出してから見ると似てるな」
「まぁ、双子ですから~。 私はリポンです。 どうぞ、以後お見知り置きを、欲望と狭間の魔王セムネイル様」
リポンが笑顔で察するに、悪人では無いと判断したのか最初の怯えは消え去っていた。
そして、魔王としての名を聞いたセムネイルは眉をひそめ、隣のソクドは目を見開いてセムネイルを見つめた。
「どうしてその名を? パーティー名でしか名乗っていない筈だが」
「それはですね……」
リポンがセムネイルのギモンに答えようとしたその時、リポンの後ろから老人が現れた。
肩まで伸びた白髪に、立派な長い真っ白な顎髭を蓄えた老人だ。
「お前さんが救った街のギルドマスターゼゴンの坊主から連絡があったんじゃよ」
「マスター! セムネイル様、此方がミンガムの冒険者ギルドマスターのソルバさんです」
「ほっほっほっ、ゼゴンの坊主が狂ったと思っておったがこうして目の当たりにすると……信じるしか無いわな」
老人ソルバは笑いながらも、セムネイルを老人とは思えない眼力で見定めていた。
「セムネイル、この人……中々にやるね」
「くっくっくっ、そうだな。 纏ってる気配が昔の友にそっくりだ。 おい、老人。 お前……刀を使うだろ? 流派は……名前が変わってないなら神剣流派だっけか?」
グラとセムネイルに褒められたソルバは嬉しそうに笑う。
「ほっほっほっ、まさか……始祖剣神リュウマ様を知っておられるのか? こりゃ堪らん! ふほほほほほ!」
ソルバはまるで、褒められて喜ぶ子供の様に満面の笑顔であった。 それを見た、普段からソルバを知っているリポンとソクドは顔を合わせて信じられないと云う顔をする。
「おいおい……リポンちゃん。 あのギルマスが嬉しそうに笑ってるぜ?」
「はい……元Sランク冒険者にして、この国最強の剣士だったギルマスが褒められてあんなに嬉しそうなんて……やっぱり妹の言う通り逆らわなくて良かった~……」
「俺達も手……出さなくて良かったぜ」
2人を他所に、ソルバはセムネイルに相談を始めた。
「ほぉ……連れられている娘達も皆強いのぉ。 特にそちらの黒髪の娘さん……お主も魔王じゃな?」
「そうだよ。 私は魔剣の魔王グラ、因みにリュウマとは何度も殺し合った仲だよ~」
「ほっ!? 何時か、ぜひその時の話を聞かせて下され。 ほっほっほ……これならば、儂の想いを託せそうじゃな。 セムネイル殿、グラ殿、そしてお連れの娘さん達。 相談何じゃが……未踏破のダンジョンを攻略してくれんか?」
ソルバの相談にセリス達はセムネイルに目配せをし、セムネイルは早速の縁にニヤリと笑った。
◆◇◆
一方その頃、キュイジーヌのレストランでは泣きながら運ばれて来た料理を食べるハヤの姿があった。
「おいじぃ、おいじぃですー!」
「はいはい、ゆっくり食いな~? おっと、次の注文だね。 はいよー!」
キュイジーヌの料理が美味しすぎたのか、死んだと思っていた絶望感から脱した喜びからなのかハヤは涙が止まらなかった。
「はぁ……それで? ミリム。 貴女が止めるから今は許してるけど、さっき聞いた通りこの人間は貴女達を探しに来た冒険者みたいだけど? 本当に捕らえなくて良いの?」
「わ、分かんないわよそんなの。 でも……死んだと思ってたのに生きてたのよ? あの恐ろしいオーガに襲われても生き延びれたのに……そんな人が捕まるなんて、例え敵でも嫌よ」
ミリムの話を聞いているハヤはとても居心地が悪そうにしながらも食事を続けていた。
「はぁ~……分かったわよ。 えっと……貴女、名前は?」
「……ハヤです」
「よろしくね、ハヤさん。 私は鬼人族のオルガ。 セムネイル様方に助けられ、この世界で暮らさせていただいてる鬼人族のリーダーよ」
オルガに握手を求められ、ハヤは恐る恐る応じた。
「よ、よろしくお願いします」
「先に言っておく。 どんな理由にせよ、勝手に入って来た貴女は侵入者。 少なくとも、私達に害をなさないなら生きて帰れる。 ても、いい? 冗談じゃ無いから、絶対に必ず守って。 セムネイル様の奥様方には何があっても手を出さない事……守れなかったら死ぬより辛い目にあうからね」
オルガの至極真面目な声色に、ハヤは肝を冷やした。 しかし、自身は高位冒険者であると云う自負もある。 その気になれば、このレストランにいる亜人達や人間達も殺す事が出来るだろう。
「あ、言っておきますよハヤさん。 貴女達を襲ったオーガは、そのセムネイル様が瞬殺されましたから……お願いだから助かった命を捨てないでね」
ミリムの懇願するような言葉を聞き、ハヤの中で高位冒険者であると云う自負は一瞬で捨て去られた。
「はい! 誓って絶対に何もしません! ご飯が美味しいです!」
そして、ハヤは考える事を止めた。
「セムネイル様はこの街に来る前に、小さな町パイムに寄られましたよね? あの町の冒険者ギルドの受付嬢をしているのは私の妹のリパンなのです」
受付嬢の話しを聞き、セムネイルは顎に手を当てて思い出そうと考え込む。
「ふふ、貴方様。 小柄な受付嬢さんの事ですよ。 ほら、ギルドマスターさんの隣に居た」
絶対記憶力を持っているセリスの言葉でようやくセムネイルは思い出し、声を上げた。
「あぁ、あの小さな受付嬢か。 ふむ、確かに思い出してから見ると似てるな」
「まぁ、双子ですから~。 私はリポンです。 どうぞ、以後お見知り置きを、欲望と狭間の魔王セムネイル様」
リポンが笑顔で察するに、悪人では無いと判断したのか最初の怯えは消え去っていた。
そして、魔王としての名を聞いたセムネイルは眉をひそめ、隣のソクドは目を見開いてセムネイルを見つめた。
「どうしてその名を? パーティー名でしか名乗っていない筈だが」
「それはですね……」
リポンがセムネイルのギモンに答えようとしたその時、リポンの後ろから老人が現れた。
肩まで伸びた白髪に、立派な長い真っ白な顎髭を蓄えた老人だ。
「お前さんが救った街のギルドマスターゼゴンの坊主から連絡があったんじゃよ」
「マスター! セムネイル様、此方がミンガムの冒険者ギルドマスターのソルバさんです」
「ほっほっほっ、ゼゴンの坊主が狂ったと思っておったがこうして目の当たりにすると……信じるしか無いわな」
老人ソルバは笑いながらも、セムネイルを老人とは思えない眼力で見定めていた。
「セムネイル、この人……中々にやるね」
「くっくっくっ、そうだな。 纏ってる気配が昔の友にそっくりだ。 おい、老人。 お前……刀を使うだろ? 流派は……名前が変わってないなら神剣流派だっけか?」
グラとセムネイルに褒められたソルバは嬉しそうに笑う。
「ほっほっほっ、まさか……始祖剣神リュウマ様を知っておられるのか? こりゃ堪らん! ふほほほほほ!」
ソルバはまるで、褒められて喜ぶ子供の様に満面の笑顔であった。 それを見た、普段からソルバを知っているリポンとソクドは顔を合わせて信じられないと云う顔をする。
「おいおい……リポンちゃん。 あのギルマスが嬉しそうに笑ってるぜ?」
「はい……元Sランク冒険者にして、この国最強の剣士だったギルマスが褒められてあんなに嬉しそうなんて……やっぱり妹の言う通り逆らわなくて良かった~……」
「俺達も手……出さなくて良かったぜ」
2人を他所に、ソルバはセムネイルに相談を始めた。
「ほぉ……連れられている娘達も皆強いのぉ。 特にそちらの黒髪の娘さん……お主も魔王じゃな?」
「そうだよ。 私は魔剣の魔王グラ、因みにリュウマとは何度も殺し合った仲だよ~」
「ほっ!? 何時か、ぜひその時の話を聞かせて下され。 ほっほっほ……これならば、儂の想いを託せそうじゃな。 セムネイル殿、グラ殿、そしてお連れの娘さん達。 相談何じゃが……未踏破のダンジョンを攻略してくれんか?」
ソルバの相談にセリス達はセムネイルに目配せをし、セムネイルは早速の縁にニヤリと笑った。
◆◇◆
一方その頃、キュイジーヌのレストランでは泣きながら運ばれて来た料理を食べるハヤの姿があった。
「おいじぃ、おいじぃですー!」
「はいはい、ゆっくり食いな~? おっと、次の注文だね。 はいよー!」
キュイジーヌの料理が美味しすぎたのか、死んだと思っていた絶望感から脱した喜びからなのかハヤは涙が止まらなかった。
「はぁ……それで? ミリム。 貴女が止めるから今は許してるけど、さっき聞いた通りこの人間は貴女達を探しに来た冒険者みたいだけど? 本当に捕らえなくて良いの?」
「わ、分かんないわよそんなの。 でも……死んだと思ってたのに生きてたのよ? あの恐ろしいオーガに襲われても生き延びれたのに……そんな人が捕まるなんて、例え敵でも嫌よ」
ミリムの話を聞いているハヤはとても居心地が悪そうにしながらも食事を続けていた。
「はぁ~……分かったわよ。 えっと……貴女、名前は?」
「……ハヤです」
「よろしくね、ハヤさん。 私は鬼人族のオルガ。 セムネイル様方に助けられ、この世界で暮らさせていただいてる鬼人族のリーダーよ」
オルガに握手を求められ、ハヤは恐る恐る応じた。
「よ、よろしくお願いします」
「先に言っておく。 どんな理由にせよ、勝手に入って来た貴女は侵入者。 少なくとも、私達に害をなさないなら生きて帰れる。 ても、いい? 冗談じゃ無いから、絶対に必ず守って。 セムネイル様の奥様方には何があっても手を出さない事……守れなかったら死ぬより辛い目にあうからね」
オルガの至極真面目な声色に、ハヤは肝を冷やした。 しかし、自身は高位冒険者であると云う自負もある。 その気になれば、このレストランにいる亜人達や人間達も殺す事が出来るだろう。
「あ、言っておきますよハヤさん。 貴女達を襲ったオーガは、そのセムネイル様が瞬殺されましたから……お願いだから助かった命を捨てないでね」
ミリムの懇願するような言葉を聞き、ハヤの中で高位冒険者であると云う自負は一瞬で捨て去られた。
「はい! 誓って絶対に何もしません! ご飯が美味しいです!」
そして、ハヤは考える事を止めた。
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