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第103話 情事無双と亜人達の不穏な話し合い

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 セムネイルはグラの眠る寝室を出て、廊下に立っていた。

 気配察知で、各部屋に居る妻達がグラとの営みが終わった事察して色々と準備しているのを感じ取りセムネイルは微笑む。

 何時もなら、この後にローズから順に部屋を訪れる所だが、今日からはそんな事を考える必要も無くなったのだ。

 「契約せし魔剣の魔王よ、魔神を裏切り俺に味方した愛しき妻よ。 その権能を示し、俺に多数の意識を操る力を貸してくれ! 魔王の分裂!」

 セムネイルが先程契約したばかりのグラを喚び出し、力をその身に宿した。 セムネイルの後ろでは、半透明で立ったまま眠るグラがふらふらとしている。

 そして10人に分裂したセムネイルは互いの顔を見合わせ、ニヤリと笑った。 

 「成功したな」 「そうだな俺」 「ぬぅ、不思議な感覚だ」 「だが、俺なら直ぐに馴れるだろ」 「だな」 「じゃあ、行くか」 「おう。 だが、妻達にちゃんと説明しろよ皆」 「分かってるよ。 これで、やっと朝までちゃんと隣に居てやれるな」 「ああ、じゃあ俺はグラの所に戻るからな」

 グラの言う通り、五感も記憶も全てが共有されているのを確認したセムネイルは妻達の部屋へと消える。

 そして、各セムネイルからの説明を聞いた妻達は当然ながら受け入れそのままベットで一つとなる。

 それからは夜遅くまで、各部屋からは嬌声が鳴り止む事は無かった。

 ◆◇◆

 「さて、皆様今日もお疲れ様でしたわ。 各エリアの報告は以上ですわね」

 亜人の娘達が住む平屋では、定期報告会を開いていた。

 「それでは、キュイジーヌさんのお料理も食べましたしお風呂に入って寝ましょうか」

 亜人の代表に選ばれたエルフのプレーリーが羊皮紙を纏め、解散を伝えようとしていたが1人の鬼人の娘が手を上げた。

 「あ、あの……一つだけ良いでしょうか」

 「勿論ですわ。 どうされました?」

 「その……皆触れないようにしてますけど、セムネイル様の事です」

 鬼人の娘の発言にプレーリーは目を見開き、隣の鬼人のオルガを睨む。 しかし、同じ様に驚いている所を見るにそんな発言をするとは思っていなかったのだろう。

 「……何がでしょうか」

 少し冷たい声でプレーリーは鬼人の娘に問う。

 「各亜人の里や集落には伝わってる筈です。 古の伝承にして、古き御伽話として……。 セムネイルという魔族には近付くな、セムネイルという魔王には関わるな、奴は必ず復活する、奴は極悪非道の魔王となる、皆に災いをもたらすだろう……と」

 「貴女……よくもそんな苔の生えた戯言を!」

 鬼人のオルガが額に青筋を立てて怒鳴る。

 「ひっ! す、すみません、すみませんすみません!」

 「オルガさん! 落ち着いて下さいませ。 ですが、確かにこれは一度話し合うべき事だとは思っておりましたわ」

 鬼人の娘をフォローするプレーリーに、オルガは食って掛かる。

 「プレーリー殿。 大恩ある御方にすべき話ではないですよ!」

 「いいえ、今きっぱりと申し上げます! この場にいるエルフは、全員がセムネイル様を信じ忠誠を誓っておりますわ! 例え、セムネイル様が伝承や言い伝えに出て来る方と同じだとしても私達の気持ちは変わりません事よ? それに、実際に会い、話して皆さんはどう思われましたか?」

 プレーリーの言葉にエルフの娘達も頷き賛同の意を示す。

 「ふふ、そうだねぇ。 ドワーフからすると、崇める女神が遺した伝承とは云え……信じる気はないかなぁ。 私達がね、鉱石や鍛冶の事を楽しそうに報告するとさ……嬉しそうな顔で笑ってくれるんですよね~」

 ドワーフのルグは笑顔で想いを話す。 その話しにドワーフ達は嬉しそうに頷いていた。

 「うんうん! 俺達獣人も、そのおとぎ話は知ってる。 でも、セムネイル様がそんな悪い奴とは思えないな。 それに、本当にそんな悪い奴なら蜜蜂頼んで翌日に自ら採りに行くとは思えないぞ!」

 熊獣人のベアに乗じて、他の獣人達からもセムネイルは良い奴だと意見が出る。

 オルガは、発言した鬼人の娘を睨みつけており穏やかではない。

 「オルガさん、それと先程の貴女。 古臭い伝承や言い伝えと、実際に皆さんが感じた気持ち、どちらを優先すべきか明白かと思いますわ。 ちなみに、貴女はどう思ってらっしゃるのかしら?」

 最初に発言した鬼人の娘は立ち上がり、恐る恐る呟く。

 「セムネイル様が……少し前に卵を取りに来られた時に話しをしたのです。 私、凄く怖かったんですけど……鶏の世話とか色々聞かれて答えたら、その……すっごく優しく褒めてくれたんです! 鬼人なら出来て当たり前の事を、凄く凄く褒めてくれたんです。 だから……私、その、皆さんがセムネイル様の事を本心でどう思ってるか知りたくて。 もし、伝承や言い伝えを信じてたら説得しなきゃって……思ったんです」

 ポロポロと泣きながら話す娘をオルガは抱きしめる。

 「ごめんなさい、ちゃんと理由も聞かずに。 でも、これで安心できた? 勿論、私もセムネイル様を信じてる。 だから、この場にセムネイル様を疑う愚か者は居ない」

 鬼人の娘は心から安堵し、何度も頷いた。

 「えぇ、そうですわ。 さて、それじゃぁ……セムネイル様と2人っきりで話したとかズルいですわー!」

 「そうよ! 何で私も呼ばなかったのー!」

 しかし、何故かプレーリーとオルガに責められ始めた娘は困惑しながらも少しの優越感で笑顔になるのであった。
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