上 下
87 / 114

第86話 蜜蜂とスカウト

しおりを挟む
 「おっと、すまん。 ベアに蜜蜂届けてくるのを忘れてた。 今日はもう他に予定は無いから皆ゆっくり休んでくれ」

 セムネイルは妻達に話した後に家を出て養蜂場エリアへと向かう。

 「おーい! ベア、すまん待たせたな。 何処に出したらいい?」

 「むはー! セムネイル様、もしかしてもう捕まえて来てくれたのか!? 凄いぞー! じゃあ、とりあえずこの箱に出してくれ!」

 セムネイルは4次元の牢獄から蜜蜂を巣ごと取り出し、ベアが持つ箱の中に入れた。

 「おー!? こりゃ元気な蜜蜂達だー! ありがとうなセムネイル様! 後、さっき見て回って来たんだけどさ。 蜜を集めるのに必要な花が少ないんだ。 この花何だけど、何とかなるか?!」

 ベアと同じ熊獣人の娘が手に持つ花を受け取り、セムネイルは頷いた。

 「勿論だ。 どのへんに生やせば良いんだ?」

 「むはー! 流石は神様だな! こっちのこの辺に頼むぞ!」

 セムネイルは創造の手本を使用し、ベアが指定した場所一面な花畑を創り出した。

 獣人達から喝采が上がり、セムネイルの周りをぐるぐると回り始めた。

 「ふははは! 喜んでもらえたなら何よりだ! じゃあ、俺は他のエリアも見て廻るからまたな」

 「おー! ありがとうなセムネイル様! 美味しい蜂蜜期待しててくれー!」

 セムネイルはベア達に背を向けて、鍛冶屋エリアに足を運ぶ。

 「おう、何か問題は無いか?」

 鍛冶屋エリアでは、ドワーフ達が忙しなく鉱石を工房の中に運んでいた。

 「こんにちは、セムネイル様! 問題ですか? んー? いやぁ、問題も何も近くの山を掘ったら出るわ出るわで、てんてこ舞いですよ! 此処はドワーフ族には天国です……ね? セ、セムネイル! そ、そそそその剣は!? 拝見させて下さい!」

 ドワーフのルグは目を見開き大興奮でセムネイルの腰に差してある魔剣デザイアを凝視する。 

 「ん? 良いぞ。 魔剣デザイアだ。 街の鍛冶屋ジェムが打った名剣に魔剣の魔王グラが命を注ぎ込んだんだ」

 ルグは恐る恐る魔王デザイアを受け取り、その美しさにうっとりとした。

 「セムネイル様……私は今、鍛冶師としてこれ程に嫉妬した事はありません。 何と美しく、執念の籠もった剣でしょうか。 コレを打った鍛冶師……ぜひお会いしたい! セムネイル様、そのジェム様はこの4次元には来られないのですか?」

 「お、落ち着けルグ。 分からんが、兄弟でそれぞれ武器と防具屋をやっているからな。 多分来ないぞ?」

 熱意に溢れるルグに詰め寄られ、セムネイルは苦笑いで応える。

 「そ、そんなぁ!! この剣の素材は、一般的な鉄を数種類混ぜてあります。 もし、そのジェム様がアダマンタイトやオリハルコンを使い武器を打てば神剣すら打てるやもしれませんよ!」

 神剣とは、神界の鍛冶師が打つとされる伝説の剣である。 実際の所は魔神が打てば魔剣、神が打てば神剣になるだけで性能は其処まで大差は無くその真実を知っているセムネイルは笑うしかない。

 しかし、剣の表面を見ただけで素材が分かるルグも鍛冶の腕は確かなのだろう。

 「分かった分かった、また会ったら説明してみるな。 それで良いか?」

 「感謝します! ジェム様の御兄弟にもぜひにとお伝え下さい! アダマンタイトやオリハルコンと聞いて興奮しない鍛冶師は居ないでしょうから!」

 セムネイルはルグから魔剣デザイアを受け取り、鍛冶屋エリアを後にした。
 
 「ふぅ、やれやれ。 後は一応、農場エリアと酪農エリアにも行くか」

 ◆◇◆

 セムネイルが農場エリアと酪農エリアの側まで来ると、口論が聞こえる。

 鬼人のリーダー、オルガとエルフのリーダー、プレーリーが何やら言い合っている。

 「おいおい、どうした」

 2人は掴み合いにまで発展しそうになったが、セムネイルに気付くと直ぐ様離れ頭を下げた。

 「「セムネイル様、失礼致しました!」」

 「おう、構わんが……どうしたんだ?」

 セムネイルは2人を許し、理由を問うが2人の表情は余り芳しくない。 セムネイルには言いづらい事なのだろうか。

 「はぁ……怒らんから、言え」

 「っ……申し訳ありません。 食事の事で、エルフ族と相容れない事が発生しまして……」

 「申し訳ありませんわ……。 私達、草原のエルフは肉を食べません。 野菜や果物、川魚を食します」

 「そして、私達鬼人族は……肉類しか食べません。 果物は食べますが、野菜類は一切食べれないのです」

 セムネイルは2人の話を聞き、頭を抱えた。

 「すまん……俺のミスだな」

 「いえ?! そんな、セムネイル様のせいではございませんわ!」

 「そうです、エルフ達の事を考えずに肉料理を出したのがトラブルの原因なのです!」

 プレーリーとオルガはセムネイルのせいではないと主張するが、要はセムネイルが文化の違い等も気にせずに大雑把に任せた事で起きたトラブルである。 

 しかし、それぞれが勝手に料理して食事をさせるのもコミュニティとしては不健全だろう。

 「専属の料理人が必要だな……お! 宛があるぞ!」

 「本当ですか?」 「流石ですわ、セムネイル様!」

 「ちょっとこれから言ってくるから、夕飯は作らないでくれ。 良いな?」

 「「はい!」」

 セムネイルは2人の頭を撫でてから、冒険者ギルドへと向かった。

 ギルドのシェフをスカウトしに。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪女で悪魔

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:732pt お気に入り:23

【R18】白猫セシルは堕天使な宰相に囚われる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:110

図書室の名前

青春 / 完結 24h.ポイント:908pt お気に入り:0

【R-18】二度抱かれる(短編集)

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:4

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:15,074pt お気に入り:7,517

COVERTー隠れ蓑を探してー

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:89

あなたの婚約者は、わたしではなかったのですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,821pt お気に入り:3,980

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:832pt お気に入り:11,349

処理中です...