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第23話 実戦と狩り

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 買い物を終えた4人は、街の側にある森へとやって来ていた。

 街を出る時に登録を薦めてきた衛兵と少し雑談したが、リンやノラが冒険者になったと知ると喜んでいた。

 亜人を差別する人間ばかりでは無いことに、改めてセムネイルは少し安堵する。

 「よし、じゃあこれから実戦で何が出来るか見せてもらう。 先ずは……リン。 弓の腕前を見せてくれ」

 「は、はい! 頑張ります! 奴隷にされる前は世界樹の森で角ウサギを狩ってましたから!」

 リンが弓を構えて、鼻息荒く宣言する。
 羽織っている羽衣がふわふわと揺れ、その姿はとても愛くるしい。

 (うむ、やはりリンに良く似合っている。 選んで正解だったな)

 しかし、角ウサギとはセムネイルも瞬殺していた雑魚中の雑魚だ。

 新人冒険者でも狩れる、下級も下級、最下級の魔物だ。

 セムネイル達は苦笑いしながらも、リンを温かく見守る。

 (……以前のリンだったらそうかもな。 だが、今のリンなら)

 「む? セリス、分かるか?」
 
 魔力を察知し、同様に魔力を探っていたセリスに問い掛ける。

 「……はい、小さな魔力が複数。 この先です」

 「くんくん、セムネイル! 俺も匂うぞ? 小さい魔物だ!」

 セリスが指を差した方角を確認し、セムネイルは満足そうに頷く。

 「くっくっくっ、正解だ。 ノラも良く分かったな。 リン、この先に角ウサギが3匹居る。 その弓で同時に仕留めてみろ」

 セムネイルの無茶な要望にリンは慌てる。

 「さ、3匹同時にですか!? や、やや、やってみます!」

 緊張で身体が強張っているが、ゆっくりと茂みに近付く。

 すると、無防備に角ウサギが3匹茂みから出て来た。 相変わらず、野生の魔物とは思えない程の警戒心の無さだ。

 「き、来た! い、いい、いきます!」

 リンが弓を構え、魔力の矢を具現化させた。

 淡く紫色の矢は硬く、鋭く尖っている。

 セムネイルが、身体が強張っているリンの背後から優しく教える。

 「いいか、リン。 大丈夫だ、落ち着け。 今のリンはめちゃくちゃ強いぞ? 俺を信じて、深呼吸しろ。 相手は雑魚だ、魔力を3匹に向けて練ってみろ。 同時に、3匹の、額を狙うんだ」

 「は、はい! すー、はー、すー、はー! ふ~……凄い、分かります! 魔力を、額に」

 リンから凄まじい魔力が溢れだし、矢が3本に増えた。

 「息を吸って、止めて、射貫け」

 「すー……いきます」 スパァァンッ!

 「「「スンスン……ピ? ギャッ!」」」

 冷静になったリンが放つ3本の矢は、正確無比に3匹の角ウサギの額に命中し頭を吹き飛ばした。

 「がぉー!? リン、お前凄いな! 俺、びっくりしたぞ!」

 「これはいったい……貴方様と出会う前は、非力で弓を当てるだけで精一杯でしたのに……」

 驚き喜ぶ2人を他所に、リンはセムネイルの側で跳び跳ねていた。 

 「え……? や、やりました! やりましたセムネイル様! 凄い! 私にこんな事ができるなんて!」

 「良くやった、リン。 流石は、俺の妻だ」

 リンの綺麗な金髪を優しく撫でる。
 それだけで、リンは嬉しくて堪らないと言いたげに長耳を真っ赤に染めていた。

 ◆◇◆

 リンの仕留めた獲物をとりあえず4次元に仕舞う。

 「よし、次はノラ! 狼獣人の狩りを見せてくれ!」

 「アオーーーン! 任せろセムネイル! 誇り高き狼獣人の狩りを見せてやる! 」

 ノラは両手斧を振り回し、気合い十分だ。
 今日も丸見えなヘソが眩しく、変態の目は釘付けだ。

 「くんくん、くんくん! 向こうに大きな獲物がいるぞ! 」

 地面に鼻を近付け、匂いを探る。

 その仕草は狼その物で、高く突き上げた桃尻と揺れる尻尾に変態は釘付けだ。

 (ほう……流石だな。 狼獣人だからなのか、鼻の効きは魔力察知並みだな。 しかし……良い尻だ、エロい!!)

 「くっくっくっ、ノラ行ってこい!」

 「がう! セムネイル達も見ててくれよな!」

 ノラが可愛い尻尾を振りながら森へと駆けていく。

 セムネイル達も追い、ノラの狩りを見守る。

 ガサガサ 「ギガ? ギギ」 「「ギガァ」」

 森を進んだ先には、茂みから棍棒を持ったゴブリン3匹が出てくる所だった。

 「ガルルル! 俺、お前達……なんか分かんないけど嫌いだ! 死ねぇ! 狼流奥義回転乱舞!」

 狼獣人の流派なのか、ノラが奥義名を叫びながらゴブリンに向かって飛んだ。

 ノラが空中で回転し始める。 すると縦や横等、縦横無尽に両手斧が振り回されそのままゴブリン達を細切れにした。

 ズババババァァンッ!
 「「「ギギィアァァァッ!」」」

 3匹のゴブリン達はバラバラになり、地面に汚ない青色の血だまりを作る。

 「ふー、どうだ!? 見てたかセムネイル! なんか、凄く身体が軽いんだ! 今なら竜でも狩れるぞ!」

 「よくやった、ノラ。 見てたぞ、ノラなら竜でも楽勝だな」

 最下級とは云え、3匹のゴブリンに対して何もさせずに倒すのはCランク冒険者でも難しいだろう。

 セムネイルに頭を撫でられる度に狼耳がピクピクと動き、尻尾が千切れんばかりに揺れている。

 (うむ、不安だったが大丈夫そうだな。にしても、リンは清楚で可愛くて、ノラは野性的で可愛いなぁ……いかん、ムラムラしてくる)

 変態は吹き上がる欲情を抑えて、最後のテストを始めるのであった。

 ◆◇◆

 「ふむ、これぐらい広ければ良かろう。 よし、セリス! 使える魔法を全て見せてくれ」

 森を進み、草原に出た所でセリスの魔法を見る事になった。

 「畏まりました。 ですが、それほど使える魔法は多く有りませんが……よろしいですか?」

 「謙遜するな。 セリス、お前の魔力量は俺の次に多いぞ。 自信を持て」

 セリスは顔を綻ばせた。
 
 「はい! 見ていて下さいませ!」

 セリスは、杖を構え魔法を詠唱する。

 「頑張ってセリスさーん!」

 「セリス! でかい魔法が見たいぞ!」

 2人の可愛い妻妹達の声援がセリスに更に力を与えた。

 「全てを燃やす火よ、全てを運ぶ風よ、全てを受け入れる水よ、一時の間混じり交ざり矛となれ! 三元素複合砲!!」

 セリスの杖の先から、炎風水が1つとなり直線上に在るものを全てを吹き飛ばした。

 草原は燃え、水圧で木々は折れ、風が余多を切り裂いた。

 「おぉ! 複合魔法か!! セリス、見事だ!」

 これには、セムネイルも驚きを隠せなかった。 三元素の複合魔法は上級の魔法だからだ。

 前にコルナが言っていた事が事実なら、今の時代では最高峰の魔法だという事だ。

 「セリスさん、すごーい!」 「綺麗な魔法だな!」

 大好きなセリスの魔法が見れて、2人は御満悦だ。

 複合魔法は魔力を緻密に練り上げ、火風水の攻撃魔法を暴発しないように操らないと不可能なのだ。

 封印される前の、あの地獄の世界でも使える魔法使いは限られていただろう。

 「えへへ、まだ使えますよ! 見てて下さい!」

 それから、疲れ知らずのセリスは雷魔法や土魔法等を使ってみせ。

 最後の取って置きの魔法を披露することになった。

 「セリス、大丈夫か? もう充分セリスの実力は分かったぞ?」

 心配するセムネイルは、この後今日1番驚く事になる。

 「ふぅ……大丈夫ですわ、これで最後ですので。 私が学園で覚えた最強の魔法をお見せ致します! 浮かべ小石、浮かべ大岩、空から降るは月の石、重力魔法 降る石の雨!!」

 ズドドドドドドドドドドドッ!!!

 セリスが魔法を唱え始めると、周囲の岩が浮き空へと上がると雨の様に地面へと落下し始める。 ただ浮かんで落ちた訳ではない、凄まじい速度で地面を穿ち広範囲を破壊するのだ。

 「ふふ……あら? 流石に魔力切れですわ」

 ふらつくセリスをセムネイルが優しく受け止める。

 「すごいなセリス! まさか、重力魔法を使えるとは!!」

 以前にセムネイルが使った重力魔法よりは劣るが、それでも最上級の魔法だ。

 コルナの弁を借りるなら、お伽噺の魔法だ。
 
 「あぁ、貴方様が喜んで下さって良かったですわ。 学園は愚かにも、この素晴らしい魔法を禁忌魔法としてたのです」

 「くっくっくっ、それは確かに愚かだな。 よし、確認はこれで終わりだ! 明日、4人でダンジョンに向かうぞ!」

 「やったー! 良かったねノラ! セリスさん!」

 「がう! やったなリン! セリスも頑張ったな!」  

 「ふふ、はいはい」

 セリスを抱き上げ、4人で仲良くローズが待つギルドへと向かうのであった。

 ◆◇◆

 4人が草原を去った後。

 「おい、これは……なんだ?」

 周囲を巡回していた兵士の1人が、穴だらけの草原を発見した。

 「な……何があったんだここで。 まさか、上級の魔物が!?」

 「脅かすなよ……え? おい! アレを見ろ!」

 穴だらけの草原の先に見えた。

 草原は焼け、木々は折れ、見渡す限りがズタズタに切り裂かれている。

 「間違いねぇ、こりゃ上級の竜だ! 飛竜が来るんだ! 急いで領主様に伝えよう! 走れ! 走れ走れ走れぇぇぇ! 近くにいるかもしれねぇぞーーー!!」

 4人の兵士達は、急ぎ街へと戻るのであった。

 しかし、偶然にもこの勘違いが後になって幸をなす事をセムネイル達は未だ知らない。 
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