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第21話 取り引き成立と金策

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 「そのダンジョンはまだ1度も踏破されておらず、聖エオルニア教国から冒険者や兵を用い早急に踏破するよう何度も命令されておりました。 ですが、幾人の冒険者や多くの兵達が向かっても……誰1人として帰りませんでした」
 
 衛兵長ザモンの話を黙って聞いていたセムネイルは、ふと疑問に思う。

 「なぜ、そのダンジョンを踏破したら罪が赦されるのだ?」

 「それは、聖エオルニア教国の法律で定まっているからです。 汝、罪を犯し者。 未踏破のダンジョンに向かいたまえ、踏破したまえ、その深部にて大いなる悪を打ち倒した時、汝の罪は赦される。 と、記されているそうです」

 「ふむ……未踏破ダンジョンを踏破させたいのはなぜだ?」

 「一応、歴史で何度か起きた事なので……事実とは思いますが。 長年踏破されていないダンジョンから、増えた魔物が溢れ国を滅ぼすからです」

 ザモンの話しに、セムネイルは覚えがあった。

 封印される前、神の試練と称されるダンジョンは2種類あったのだ。

 人間を効率良く鍛え、楽に優秀な兵として使い潰すのが目的のダンジョン。

 もう1つが、魔神が神々の兵を減らす為に魔物を溢れされ兵器として使ったダンジョンだ。

 ザモンが言っている大迷宮とやらのダンジョンは後者だろう。

 「……分かった、その取り引きに乗ろう。 今日は準備し、明日には向かう」

 「本当ですか!? ありがたい! ゼゴン殿から貴方がダークゴブリンキングとその群れを単独で殺したと聞き、期待していたのです!」

 セムネイルが溜め息をつきながら、ゼゴンを睨む。

 「はぁ……蛸、お前。 …… いや、いい。渡りに船だ。 ローズ、その大迷宮の情報を調べておいてくれ。 リン、ノラ、セリス、買い出しの準備と3人が何が出来るか見してくれ。
  もし、足手まといになるなら……いや、違う、誰1人失いたくないから無理そうならローズと待機だ。いいな?」

 立ち上がるセムネイルに4人は異論も挟まず答える。

 「分かりました、全ての情報を洗っておきます」

 「わ、私頑張ります! エルフ直伝の弓術をお見せします!」

 「あおーん! 任せろ! 買い込むのは肉いっぱいで頼むぞ! セムネイル!」

 「ふふ……わざわざ言い直す何て、本当に貴方様はお優しいですわ♡ 持てる力を尽くします」

 セムネイルの腕や背中に妻達を侍らせながら、5人は部屋から出ていった。

 残された2人の男達は心から安堵する。

 「ふーー! おい、ザモン。 酷いではないか! わざわざチクらなくても……」

 「ふふふふ、すまない。 あまりに嬉しくてな。 元冒険者のよしみだ、許してくれ」

 2人は期待する。
 現役時代に、同世代の冒険者達を何人も呑み込んだダンジョンが踏破される事を。

 ◆◇◆

 セムネイル達は、ギルドにローズを置いて市場エリアにやってきた。

 「よーし、とりあえず買い込みだ。 4人で固まって動くぞ、もし変な輩に絡まれたら直ぐに言え。 まずは……要らない装備を売って金に換えるか」

 気前の良いセムネイルの持ち金は既にゼロだ。 

 4人は、適当な大きめの防具屋に入る。

 「いらっしゃ……お客さん。 亜人連れかい?」

 店に入ると、店員が嫌な顔をする。

 「そうか、邪魔したな」

 セムネイルが速攻で店を出ようとすると、奥から中年の男が走って来てその店員をぶん殴った。

 ボッゴォォンッ!

 「ぎゃぁぁぁっ!」

 「馬鹿野郎! 客を差別するなって何度言わす! テメェはクビだ! 出ていけぇぇぇ!」

 店員を店から追い出した白髪のおっさんが、セムネイル達を見て頭を下げた。

 職人の作業着を着ている所を見る限り、この店の店主なのだろう。

 「すまねぇ、お客さん。気分悪くさせちまったな……俺はこの防具屋の店主をしているトムだ。  防具が入り用かい? って、そんな防具着てたらうちの防具なんかいらねぇか」

 3人の妻達は先程のやり取りを見て怯え、セムネイルの後ろから出てこない。

 「くっくっくっ、他を当たろうと思ったが気が変わった。 防具の買い取りはしてるか?」

 「がはは! 勿論だ! 奥に来てくれ、こっちだ」

 店主のトムに案内され、奥へと入る。

 店の中には多くの防具が並んでおり、セムネイルが見ても中々の1品が多数目に入った。

 「ほう、腕は良いんだな」

 「セムネイル様、見ただけで分かるのですか?」

 「セムネイルは凄いからな!  でも、俺にはさっぱりだぞ!!」

 「ノラ、静かに。 お店で騒ぐのはマナー違反よ? 」

 「がはは! 構わねぇよ! お嬢さん達と兄ちゃんの着てる防具と比べたら、俺の造ってる防具なんざゴミみたいなもんだよ!」

 どうやら、店主のトムはセムネイル達の防具を見て只者では無いと察していた様だ。

 「よし! 兄ちゃん、このテーブルの上に出してくれ査定するからよ」

 案内された作業場で、指示を受けるがセムネイルは言い淀む。

 「この広さのテーブルだと、収まらんが大丈夫か?」

 「んん? 構わねぇぞ?  兄ちゃんやお嬢さん方の装備を売るとかじゃないのか?」

 確かに、指示されたテーブルの広さはかなりの物だ。 

 「いや、構わんならいいんだ。今出すぞ」 

 セムネイルが手をかざすと、4次元の穴が空き大量の防具がテーブルの上に散乱する。

 ガラガラガラガラガラガラガラガラッ!
 
 それは津波の様に押し寄せ、テーブルから零れ落ち始める。

 「ぬぉっ!? おいおい、どっから出してんだ? まだあんのか?! 待て待て、ストップだ! これ以上の量だと査定しきれん! 今日はここまでで頼む」

 トムが慌てて止め、指で示した以外の防具をセムネイルが一瞬で4次元に仕舞う。

 「おいおい……たまげたな。 兄ちゃん、何者だ? 高名な冒険者か?」

 「ん? いや、一昨日冒険者になったばかりだ。 妻達はついさっきだな」

 「ってことは、Gランクか?! がはは! こりゃいい! 気に入った! こんだけ上等な防具だ、しっかり査定させてもらおう。 ちと、時間が掛かる。 昼飯でも行って来てくれ」

 「すまんが、頼む」

 査定をトムに頼み、店を出る。

 「セリス、さっきの店主は信用出来ると思うか?」

 「私の意見でよろしいのですか?」

 セムネイルの質問に、セリスは可愛く首を傾げる。

 「違うぞ、セリスだから聞いている。 セリスの意見が聞きたい。 店や店主を注意深く見ていただろう?」

 「ふふ♪ ありがとうございます。 私が見た限りですと、問題無いかと。 防具の質、整備、誇りを持っている職人です。 顧客との信頼を疎かにすることは、まず無いでしょう」

 「うむ、流石だセリス。 では、昼飯といこう。 って、言っても……タナカのラーメン屋かギルドの酒場だな。 リン、ノラ、どっちがいい?」

 セリスだけが信用されているかのような会話にしょぼくれていた2人に笑顔の花が咲く。

 「はい! タナカさんのラーメンが食べたいです!」 「俺もだぞ! ラーメンと、唐揚げ! 」

 「くっくっくっ、分かったか分かった。 では、行くぞ」

 この時、セムネイルは忘れていた。
 持ち金が無いから、防具を売りに行ったのだと。
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